今年10月に予定されている、消費税の8%から10%への税率引き上げ。「どうせ買うなら、増税前に」という心理がもたらす“大幅な駆け込み需要増・反動による消費減退”の対策として、政府は住宅と自動車という2つの「大きな買い物」について、消費増税に合わせた減税措置を打ち出しています。自動車に関しては、今年度の税制改革に、自動車税の減税などが盛り込まれているのですが、率直なところ、消費税増税の前後で、損得はあるのでしょうか? 解説します。
減税されるのは、2つの税
自動車(自家用車)の購入について、「消費税増税対策」として2019年税制改正に盛り込まれたのは、次の2点です。
- ①毎年課税される「自動車税(種別割)」の減税
- ②自動車購入時にかかる自動車取得税の廃止、「環境性能割」の導入
それぞれについて、説明しましょう。
まず自動車税(種別割)の減税について。次の表を参照してください。
排気量 | 引下げ前の税率 | 引下げ後の税率 (引下げ額) |
---|---|---|
1,000cc以下 | 29,500円 | 25,000円(▲4,500円) |
1,000cc超1,500cc以下 | 34,500円 | 30,500円(▲4,000円) |
1,500cc超2,000cc以下 | 39,500円 | 36,000円(▲3,500円) |
2,000cc超2,500cc以下 | 45,000円 | 43,500円(▲1,500円) |
2,500cc超3,000cc以下 | 51,000円 | 50,000円(▲1,000円) |
3,000cc超3,500cc以下 | 58,000円 | 57,000円(▲1,000円) |
3,500cc超4,000cc以下 | 66,500円 | 65,500円(▲1,000円) |
4,000cc超4,500cc以下 | 76,500円 | 75,500円(▲1,000円) |
4,500cc超6,000cc以下 | 88,000円 | 87,000円(▲1,000円) |
6,000cc超 | 111,000円 | 110,000円(▲1,000円) |
自動車税(種別割)は、持っている自動車の排気量に応じて毎年支払う税金で、排気量が大きいほど、税額は上がっていきます。消費税率引き上げ後に新車登録する自家用車に関しては、最大年4500円の減税になりますが、一見してわかるように、排気量が小さい自動車の引き下げ額が大きくなっています。
また、消費税率引き上げ後には、現行の自動車取得税が廃止され、代わって自動車税環境性能割という新たな税が課せられることになります。こちらの税率は、燃費基準(環境性能)によって変わり、性能が高いほど低くなります。自動車の購入時に課税されるという点は現行の自動車取得税と同じですが、新税の税率は非課税~最大3%となり、多くの場合、今より低くなります。
今年度の税制改正では、消費税率引き上げ後1年間(19年10月1日~20年9月30日)に限り、その税率をさらに1%減免するという措置が盛り込まれました。シェアでみると2台に1台近くが非課税になる計算で、そうしたインセンティブによって、駆け込み需要の分散化を図ろうとしているわけです。
「損得」は、いちがいに言えない?
では、車を買うなら、そうした減税措置の恩恵が受けられる消費税率引き上げ後がいいのか、やはり前なのか、はたまたあまり変わらないのか? 答えは、「ケース・バイ・ケース」というのが、正確なようです。
説明したように、消費税増税後の自動車購入の減税額(率)は、排気量、環境性能という2つのファクターに左右されます。特に問題になるのが前者で、排気量1000cc以下と3000cc超の車とでは、①の自動車税(種別割)の年間の減税額が、3500円違ってくるのです。
①に関しては、そもそも自動車をいくらで購入するのかも、大きなポイントです。例えば、排気量1000cc超~1500cc以下の自動車を、200万円で購入したとします。消費税率2%アップで生じる負担増は、4万円。このクラスの減税額は年に4000円ですから、消費税増税分を取り返すのに、ちょうど10年ということになります。購入価格が300万円だったら、同じ計算で15年。つまり、消費税率引き上げ後に自動車を買った場合、同じ排気量でも高額な自動車ほど、「損益分岐点」は先になるのです。「高いクルマ」を買うのなら、消費税の上がる前が無難かもしれません。
そうではなくて、「お手頃価格」の自動車ならば、消費税率アップ後に買うと得になる可能性が高まります。「損益分岐点」さえ超えたら、長く乗れば乗るほど減税メリットが大きくなっていくからです。ただし、購入時点で、その車に何年乗るか(乗れるか)をはっきり見通すことができるかどうかが、問題になると思います。
②の環境性能割に関して言うと、「環境性能の高い自動車のほうが税金は安い」のは確かなのですが、実は「性能の高い自動車には、減税メリットがないケースもある」ことに、注意する必要があるでしょう。どういうことかというと、環境性能が高く、現行の自動車取得税を課税されていない車種も、すでにあるのです。この場合、1%減免されても、税率0%は変わりません。消費税アップ分の2%が、そのまま負担増になるわけです。
以上を整理すると、「自動車購入と消費税」については、おおむね次のように言えるのではないでしょうか。
- 高級車を買う
- 是が非でも、(排気量が)大きい車が欲しい
- 必要に迫られて車を買うが、長く乗るつもりはない
→→消費税率引き上げ前の購入を検討
- 車は「お手頃価格」でいい
- 大きな車はいらない
- よほどのことがない限り、買った車に乗り続ける
→→あえて消費税率引き上げ後まで待つ
とはいえ、これらは、あくまでも検討の目安と考えてください。しかも、これらは「経済的な損得」の話です。自動車も安い買い物ではないですから、今後のライフスタイルや資金計画なども含めて熟慮すべきなのは、言うまでもありません。「増税」に急かされて、それらを疎かにすることがないようにしたいものです。
まとめ
消費税の増税後に購入すれば、住宅ローン控除の3年間の延長が確定する住宅と異なり、自動車の場合には、購入金額、排気量、使う期間などによって減税メリットが変わる、ちょっと複雑な方程式になります。今後のライフスタイルも踏まえながら、慎重に検討することが必要でしょう。