決算や税務申告書の作成などにかかせないのが、決算書です。決算書は、その会社の財務状況や経営状態が記載されている書類のため、税金の計算だけでなく、経営判断などに役立ちます。経営者や経理担当者にとって、決算書を理解することは必要不可欠です。そこで、ここでは業種別に決算書の見方や特徴を解説します。
そもそも決算書とはどんなもの
まず、そもそも決算書とはどのようなものかを見ていきましょう。
決算書とは、一定期間の会社の経営状態や財務状況を表す書類のことです。中小企業の場合は、年1回決算時に作成される場合が多いです。
決算書は、貸借対照表と損益計算書、キャッシュフロー計算書の大きく3つに分かれます。貸借対照表では財務状況を、損益計算書では経営状態を、キャッシュフロー計算書ではキャッシュの状況や流れを確認できます。3つとも重要な書類ですが、まずは、貸借対照表と損益計算書を理解する必要があります。
貸借対照表は、大きく「資産」「負債」「純資産」の3つに分かれています。資産や負債が記載されているため、財務状況を知ることができます。例えば、現金や負債の多少だけでなく、自己資本比率などの分析をすることが可能です。
損益計算書は、売上や経費などの損益科目が記載されている書類です。そのため、会社の経営状態を知ることができます。例えば、売上高の多少だけでなく、売上総利益や営業利益などの各種利益の金額や経常利益率などの分析をすることが可能です。
卸売業・小売業・サービス業の決算書の見方
ここからは、業種別に、決算書のポイントや見方について見ていきましょう。まずは、卸売業・小売業・サービス業の決算書の見方です。
卸売業・小売業の決算書の見方
モノの販売業種として代表的なものが、卸売業と小売業です。
【卸売業】
卸売業とは、小売業を営んでいる会社や他の卸売業社などに商品を販売する業種のことです。特徴としては、同じ種類の商品を大量に扱うことが多いことや、一般的に薄利多売になる傾向が高いことが挙げられます。
貸借対照表の特徴は、製造のための機械や設備などが必要ないため、固定資産が少ないことです。
また、卸売業は自己資本比率が低い会社と高い会社に分かれます。自己資本比率とは会社の総資本のうち自己資本が占める割合を表すものです。一般的に自己資本比率が高いほうが安全性が高いです。
卸売業は、薄利多売のため、借入金などの負債が高くなりがちです。そのため、自己資本比率も低くなりがちです。ただし、昔からの老舗企業も多く、過去からの利益による財務基盤が強くなっているため、自己資本比率が高い会社も多いです。
損益計算書の特徴としては、薄利多売のため売上総利益率が低いということが挙げられます。売上総利益率は、売上高から売上原価を差し引いた売上総利益が、売上の何パーセントを占めるかを表した数値です。売上総利益率が大きいほど、安定した利益を得ていることになります。
卸売業で決算書を見る場合には、自己資本比率や売上総利益率などに注目してみましょう。
【小売業】
小売業とは、主に個人や家庭で消費する商品を販売する業種です。一般的に、販売代金は現金で受け取ることが多いです。
貸借対照表の特徴としては、小売業は商品を仕入れて短期間で売却して利益を得るため、棚卸資産の数値が小さいです。また、現金商売が多いため、売掛金など売上債権の残高も他の業種と比べて比較的小さくなります。
また、売上は現金であるのに対して、仕入れは掛の場合が多いので、現金に余裕があるが買掛金の残が多いケースもあります。
損益計算書の特徴としては、卸売業よりも多くの品目を取り扱っているため、売上総利益が卸売業よりも大きい傾向にあります。
小売業の決算書を見る場合には、売上総利益や現金、買掛金の残高などに注目してみましょう。
サービス業の決算書の見方
モノの販売ではなく、サービスの提供により収益をあげているのが、サービス業です。例えば、クリーニング業であったり、葬儀業、ボーリング場などの娯楽業などがサービス業に該当します。
貸借対照表の特徴としては、仕入れがほとんど存在しないため、在庫の数値が他の業種に比べて小さくなります。
サービス業の特徴をよく表しているのが、損益計算書です。仕入れがほとんど存在しないため、売上総利益が他の業種に比べ大きく高いです。ただし、サービスを行う人の雇用が多く、人件費の割合が高くなっています。
サービス業の決算書を見る場合には、売上総利益と人件費などに注目してみましょう。
製造業・建設業、その他の業種の決算書の見方
次に、製造業・建設業、その他の業種の決算書の見方について確認していきます。
製造業・建設業の決算書の見方
モノを販売するのが卸売業や小売業なら、モノを製造するのが製造業や建設業になります。
【製造業】
製造業は、他社から原材料などを仕入れ、製品を製造し、販売を行う業種です。貸借対照表の特徴としては、製造のための機械や設備などが必要なため、固定資産が多いことです。
また定期的に、機械や設備の修繕や入れ替えなどをする必要があるため、そのための資金を用意しておく必要があります。機械や設備のための資金や借入金が多いのも製造業の特徴です。
損益計算書の特徴としては、自社で製造するための労務費(人件費)や一部の製造を他社に依頼する外注費の割合が高いことです。また、製造業は原価計算によって、細かく原価の管理を行っているため、他の業種に比べてコストが低い傾向にあります。
製造業の決算書を見る場合には、固定資産の残高や労務費、外注費などに注目してみましょう。
【建設業】
建設業は建物をたてる建築業や、電気や給排水などの工事業などが該当する業種です。自社で材料を仕入れ建物をたてる場合もあれば、下請けのみを行っている場合もあります。
貸借対照表の特徴としては、他業種と比べて現金預金の残高が多いことです。これは、期間の長い工事の場合、あらかじめ代金の一部を前受けしているためです。固定資産の割合は、製造業に比べると比較的低いです。
損益計算書の特徴としては、外注費の割合が高いことです。大手の企業になればなるほど、下請け企業に外注をする割合が高くなります。下請け企業になるほど、外注の割合は低くなる傾向にあります。
建設業の決算書を見る場合には、現金預金の残高や外注費などに注目してみましょう。
その他の業種の決算書の見方
その他の代表的な業種の決算書の見方は、次のようになります。
・不動産賃貸業
不動産賃貸業は、賃貸用の土地や建物を所有し、継続的に家賃や地代を得る業種です。
貸借対照表の特徴としては、土地や建物を所有しているため、固定資産の割合が高くなります。また、一般的に賃貸用の土地や建物は、金融機関の融資により取得しているため、借入金などの負債も多いです。
損益計算書の特徴としては、賃料による売上高が一定しているということです。賃料の増減がなければ、比較的安定した売上高をあげることができます。
不動産賃貸業の決算書を見る場合には、固定資産の割合や負債残高、賃料による売上高に注目してみましょう。
・運輸業
旅客運送業やトラック運送業や倉庫業などが運輸業に該当します。トラック運送業などの貨物の運送においては、中小企業が多くなっています。
貸借対照表の特徴としては、旅客運送業のように、顧客が個人の場合は現金売上であるため、現金の割合が高くなり、顧客が企業の場合は、掛売上のため、売掛金など売掛債権の割合が高くなることです。損益計算書の特徴としては、燃料費や外注費の割合が高くなることです。
運輸業の決算書を見る場合は、業種に合わせて現金や売掛金、燃料費、外注費などに注目してみましょう。
まとめ
今回は業種別の決算書の見方を見てきました。ご紹介した内容は、あくまで一般的なものです。その企業により、独自の特徴がある場合もあります。また、決算書は単年だけを見ても、経営判断などはできません。複数年を見ていくことで、大きな変動などに気づき、経営改善を行えます。決算書を確認する場合は、複数年のものを用意するようにしましょう。