「ものづくり補助金」とSBIR制度(中小企業技術革新制度)をご存知でしょうか? これらは合わせて使うことでより大きい支援を受けられる制度です。本記事では、それぞれの内容と活用するメリットについて紹介します。
「ものづくり補助金」とは?
「ものづくり補助金」とは、正式名称を「ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金」といい、中小企業や小規模事業者を対象に、生産性向上のための革新的開発や改善を目的とする設備投資等の一部を支援する制度です。中小企業庁が中心となって毎年度公募が出されており、対象条件を満たす企業は期間内に書類等を提出して審査に通れば利用することができます。
制度の内容
具体的には、装置設置やクラウド利用費、専門家経費や技術導入を対象とします。対象となる事業は、業種や組織形態によって「革新的サービス」か「ものづくり技術」の対象類型に区分され、それぞれの対象類型はさらに「企業間データ活用型」「一般型」「小規模型(設備投資のみ)」の事業類型に細分化されます。それぞれの事業類型に上限額が設定されていますが、増額することも可能です。なお、申請は1企業・事業主につき各年度1件に限られており、途中からの乗り換えや、採択後に同じ事業について再度の申請をすることは禁じられています。
補助金の利用の条件
各類型に共通の基本的な条件として、以下のものがあります。
- 他社と差別化し競争力を強化するための方策を明記した事業計画を作成し、その内容と実効性について、事業をバックアップする認定支援機関による確認を受けていること。
- 特定非営利活動法人のみでの申請の場合、法人税法上の収益事業(法人税法施行令第5条に規定される34業種)を行っていて、かつ認定特定非営利活動法人ではないこと。また、この制度に関して「経営力向上計画」の認定を受けていること。
- 認定内の革新的なサービスの創出・サービス提供プロセスの改善、もしくは革新的な試作品開発・生産プロセスの改善を行い、3~5年で付加価値額を年率3%、経常利益を年率1%させる計画であること。
- 公式に設定されている事業実施期間内にすべての事業の手続きを完了させること。
注意点として、「他社との差別化」が明らかでない事業計画は、制度の趣旨にそぐわないとして採択の可能性が低減します。また、公募要領や応募申請様式の詳細については、補助金の対象となる事業の主な実施場所を管轄する地域事務局に問い合わせることになります。
「ものづくり補助金」のメリットと注意点
メリット
この制度は中小企業等に高額の支援を保証し、返済義務もないため、本来なら払う対価を小さく留めながら大きな成果を得られます。対象範囲も広く、クラウドまでカバーされているなど、新しい分野のイノベーションに特化しているという点も長所です。特に、小規模であるが故に革新的な技術や一攫千金の機会を活かしづらい、資金面が安定しにくいといった、リソース不足というボトルネックを抱える中小企業等にとっては、まさにうってつけの制度でしょう。
注意点
この制度の採択を受けるためには、認定支援機関との協議を経て完成度の高い事業計画を用意する必要があり、また、採択後にも書類の提出が随時求められるなど、企画段階や事務面で相応のコストを払う必要があります。特に、事業が小さく繁忙であるために避ける時間、技術、知識等が足りないというような状態では、すべてを独力で補うにはリスクが大きいと言えます。また、現行の規定では、一度申請してしまうと少なくとも同年度は他の区分にも申請できなくなる点に関しても注意しておくべきでしょう。
SBIR制度とは?
SBIR制度とは、中小企業技術革新制度の略称であり、中小企業者と事業を運営していない個人を対象に、研究開発成果や新技術・アイデアの事業化を支援することで、新事業活動の促進と活発化を図る制度です。総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省が連携して、各省庁が中小企業者等向けに交付する研究開発のための補助金や助成金を、SBIR特定補助金等として指定しています。SBIR特定補助金等の交付を受けた中小企業者等は、直接的な補助や助成の他にも、様々な支援を受けることができます。
制度の内容と受けられる支援策
まず中小企業者等は、SBIR特定補助金等に指定された各種の補助金や助成金の中から、自分に適したものを選んで申請します。採択されて交付実績ができると、事業化のための様々な制度的支援を受けられるようになります。現時点で享受できる支援は、具体的には以下の通りです。
- 日本政策金融公庫の低利融資を受けることができます
- 公共調達の入札参加機会が拡大します
- 「SBIR特設サイト」において、研究開発成果などの事業PRができます
- 特許料等が減免になります
- 中小企業信用保険法の特例措置が受けられます
- 中小企業投資育成株式会社法の特例が適用されます
- 小規模事業者設備導入資金助成法の特例が適用されます
SBIR特定補助金等
SBIR制度の事業化支援策を受けるためには、SBIR特定補助金等の交付実績をひとつでも作る必要があります。省庁横断的な制度であることから、SBIR特定補助金等に指定されている補助金や助成金は数も多く、幅広い分野に対応しています。そのうち若干の例を挙げると、過去には以下のようなものがありました。
- 土壌汚染対策のための技術開発に係る補助金
- 食料生産地域再生のための先端技術展開事業に係る委託費
- ベンチャー企業を対象とする実用化助成事業に係る助成金
- 超高速・低消費電力光ネットワーク技術の研究開発に係る委託費
- 住宅・建築関連先導技術開発助成事業に係る補助金
実際の事例
ある企業は、ネットワークオペレーションについてのマネージメント、アドミニストレーションとセキュリティ管理の研究、開発を基幹としていました。この企業は、高齢者と障害者のための情報カウンセリングセンターのモデル化と、介護・福祉情報の取り扱い技術の研究開発を行うに際し、SBIR特定補助金等に指定された「高齢者・障害者向け通信・放送サービス充実研究開発助成金」を利用して、モニタリングの円滑化や利用状況と評価の見える化に対応した、介護情報の収集と管理を効率的に行うソフトを開発しました。
「ものづくり補助金」とSBIR制度を合わせて活用!
両方を利用するメリット
SBIR制度は、指定の補助金等に採択されさえすれば利用権が与えられる制度であり、対価や申請を通さずに援助を受けることができるので、指定の補助金等を利用する際は活用できる可能性がないか考えてみると良いでしょう。経済産業省は例年「ものづくり補助金」をSBIR特定補助金等に指定しており、今後も続くことが予想されます。もし、「ものづくり補助金」の申請を検討しているのであれば、それが当該年度にSBIR特定補助金等に指定されているかどうかを確認しましょう。他の補助金の支援を更に効果的にできるSBIR制度ならではの特権を、同時に手に入れられるかもしれません。
活用の術
「ものづくり補助金」とSBIR制度を別々に活用することも、必要に応じてSBIR制度の支援を組み合わせて「ものづくり補助金」の援助をより強力にすることもできます。例えば、新事業の着手に伴い多額の資金が必要になった際に、ものづくり補助金では装置等の導入経費に援助が出ますが、残りの経費についてもSBIR制度を使って低利子での融資を受けることで、財政負担を更に下げることができます。
まとめ
知らないともったいない制度や補助金は数多くありますが、「ものづくり補助金」やSBIR制度もその類です。知らずに損する大多数と差をつけるためにも、この機に双方を把握しておき、上手く使える道がないか検討することが重要と言えます。