会社を立ち上げる際には、多かれ少なかれ資金が必要となります。しかし、スタートアップ時では、資本市場から資金を調達して増資したり、金融機関から融資をしてもらったりするのは難しい場合があります。今回は、ベンチャーキャピタルによる増資について解説していきます。
ベンチャーキャピタルとは?
資金調達という意味では類似している増資と融資ですが、これらは全く異なる性質を持っているので注意しなければなりません。まず融資とは、銀行などの金融機関からお金を借りることです。お金を借りているので償還期間が過ぎると金利を含めて返済しなければなりません。
また、スタートアップの時期は信用力がないため、民間の金融機関から信用保証協会の保証などがない状態で直接その金融機関から融資を受けるプロパー融資を受けることはかなり難しいといえます。多くの起業家は、自己資金で賄えない部分については、日本金融政策公庫や制度融資などを用いて資金調達します。これらは起業家への融資スタンスが積極的であり、融資実行までの工程が短く、要件などが比較的緩いことからとても使いやすい制度ですが、金利が他と比べて高いというデメリットもあります。
一方で、増資とは株券と引き換えに資金を支援してもらうことです。借入ではないため、このお金を返す必要がなく、長期的に安定した資金を手に入れることになります。その代わりに、投資家は利益が上がったときに配当を受け取る権利や、株主総会で経営に参加する権利を得ることになります。
増資には、新しく発行した株式を誰が所有するかによって3つに分類されます。
●公募増資
新しく発行する株式を広く一般の投資家に買って貰う方法で、上場企業などに当てはまります。新しく発行される株式の価格は、証券取引所で売買されている株価によって決まります。
●株主割当
既にその会社の株を持っている人や企業に買って貰う方法です。株主割当の場合は、通常、証券取引所で売買されている株価よりも低い値段で発行されます。
●第三者割当
会社と取引がある銀行や企業などに買ってもらう方法です。会社を再建したり、取引先と業務提携を強化したりする場合などに用いられることが一般的です。
ベンチャーキャピタルは以上の分類において第三者割当に該当します。ベンチャーキャピタルとは、高い成長率を有する未上場企業に対して投資を行い、ハイリターンを狙う投資ファンドのことです。一般的に、投資ファンドの担当者が投資先企業の経営コンサルティングなどを行い、その企業の市場価値向上を図ります。最終的に、その会社の上場やM&Aといった出口で出資した株を売却し、利益を得ます。
ベンチャーキャピタルってどのように成り立っているの?
ベンチャーキャピタルはスタートアップ企業やベンチャー企業に対して資金を出資するのみならず、その企業が必要としている人材を派遣したり、必要となる顧客との仲介役を担ったりします。また、大企業子会社のベンチャーキャピタルであればグループで培った経営ノウハウを伝授するなどして、対象企業が上場する、あるいはM&Aによって株式を買収されるまでに至るプロセスをあらゆる面から支援します。
このように、ベンチャーキャピタルはハイリスクハイリターンのアグレッシブな投資を行う性質上、投資した企業の価値が向上しなかったり上場しなかったりすると、損害となってしまいます。一方で、対象企業が上場したり、買収されたりして企業の評価額が上昇すれば、その上昇分の利益を得ることができます。そのため、ベンチャーキャピタルは対象企業が将来成長する見込みがあるのかを吟味した上で出資し、上場・買収までのプロセスをサポートします。
ベンチャーキャピタルを利用するメリット
ベンチャー企業がベンチャーキャピタルを利用するメリットは複数あります。
①ベンチャーキャピタルと目的が同じであること
企業は資金を調達することで新事業に取り組むことができたり、従来の事業を拡大したりできます。それによって会社が大きくなり、株式上場を行うことも可能となってきます。また株式上場やM&Aによって知名度が上がるので、会社を大きく発展させたいと考えている経営者にとっては絶好のチャンスとなります。
一方、ベンチャーキャピタルの目的も対象企業が成長し、評価額が上がることです。両者の目的が一致するため、両社の強みを活かした経営を行うことが可能です。
②ベンチャーキャピタルからのハンズオン支援が受けられること
一般的に、ハンズオン支援とは「支援先のマネジメントに深く関与すること」です。つまり、ベンチャーキャピタルは投資先に経営を委ねるのではなく、自ら投資先に入り込み(あるいは人材を派遣し)、戦略立案から実行支援まで深く関与することで、成果を創出し、投資先企業の価値を高めるというゴールを達成しようとします。
出資額はベンチャーキャピタルの経営状況や、今後の事業計画などによりますが、数百万円~数億円まで資金を調達することが可能です。事業計画をしっかり立てて、具体的な会社の成長ストーリーが描くことができればベンチャーキャピタルを説得でき、その後の手厚いサポートを得ることができます。
③事業が仮に失敗しても損は少ない
金融機関からの融資は借入ですので返還の義務があり、金利もついているため借りた額に利子をあわせて返還する必要があります。しかしベンチャーキャピタルは出資を行っているので、資金を返済する必要はありません。そのため、万が一事業が失敗しても返済し続けなければならないといったことは起こりません。
ベンチャーキャピタルを利用するデメリット
ここまでの内容ですとベンチャーキャピタルを利用することは、損せずにお金が手に入る魔法のような方法に思えるかもしれません。しかし、ベンチャーキャピタルの利用には気をつけなくてはならない注意点がいくつかあります。
①自由な経営が困難になる
ベンチャーキャピタルは出資した企業に入り込んで経営コンサルティングなどを行うため、会社の思い通りに経営ができなくなってしまう可能性があります。ベンチャーキャピタルからしたら、リスクを取っているのでなるべく失敗しないように支援しますが、意見が対立する可能性もあります。そのため、自由に経営をしたいと考えている経営者にとっては、ベンチャーキャピタルの経営支援がかえって煩わしいと感じるかもしれません。
②ベンチャーキャピタルが手を引くリスク
ベンチャーキャピタルは対象のベンチャー企業の経営が困難になってきたと判断すると、損害を最小限に抑えるために、株式を買い戻させるなど、すぐに支援から手を引いてしまうことがあります。これによって予定していた資金調達が困難になったり、当初計画していた事業を進められなくなってしまったりする可能性があるので、慎重に進める必要があります。
前述で、ベンチャーキャピタルは出資であるため返済義務はないと説明しましたが、近年のIPO数の減少や中小企業の倒産数増加などの背景もあり、現実にはベンチャーキャピタルは投資先が期限内に上場できない場合、必死で資金を回収しようとします。
本来は、投資先が上場できなかったり、M&Aされなかったりした場合は評価損を出すだけなのですが、近年のベンチャーキャピタルは、上場計画通り進まなかったとき経営者に株を買い取ってもらおうとします。投資契約書の内容にベンチャーキャピタルのファンドの期限や買取請求権が書かれている場合、ベンチャーキャピタルは資金の回収を前提に投資している可能性もあるので、ベンチャー企業の経営者はこのような投資契約書の内容には十分に注意しなければなりません。
③株式上場にもデメリットがある
株式を公開することにより、証券取引所において株式の取引が自由に行われるようになります。これによって社名の知名度が上がったり株式市場から資金調達が可能になったりするため、非常に魅力的なようにも感じられますが、デメリットもあるので知っておくことが必要です。
株式上場することによって、株が自由に売買されるようになるため、競合や買収ファンドによって株式公開買付をされ、買収される恐れがあります。また、会社のステークホルダーが増えるため、会社の経営に対して経営者の意思が100%反映することが難しくなってきます。経営の自由度・小回り効きやすさといった観点から見ると、株式上場は大きなデメリットとなるかもしれません。
その他にも、情報開示義務が生じたり、上場継続のためにコストがかかったりしてしまうため、これらの負担に耐えられるだけの企業体力を付ける必要があります。具体的には、会社にとって不利な情報であっても、自社の業績や経営に関わる情報を、有価証券報告書や事業報告書等により、投資家や株主に適時開示する必要があります。また、費用面で言うと、年間上場料や監査報酬、株主名簿管理料に加え、内部管理体制強化・株主総会運営コストもかかってしまいます。
発展途上で財政的にも組織的にも余裕がないと、株式上場によって生じる業務的・費用的負担に耐えられないため、計画性を持って上場に向けて準備をする必要があります。
特に会計や税務については、監査を通す必要があります。普段からきちんと会計管理を行っていないと、監査で引っかかってしまう可能性が高くなってしまうので、ベンチャー企業やスタートアップ企業においても、税理士というのは非常に重要な位置づけとなります。
上場を目指す経営者であれば、足元の資金繰りも当然重要ですが、将来に向けた体制づくりを一緒に行える税理士を選んだほうが良いかもしれません。
まとめ
ベンチャーキャピタルは上場を目指す会社にとって非常にありがたい資金調達の手段となります。しかし、事業計画や体制づくりをきちんと行わず、足元の資金繰りのために資金調達をしてしまうと、かえって大きなリスクとなってしまうので注意が必要です。
会社の成長に向けた管理体制を整えるためにも、税理士の位置づけが重要となってきます。