労力をかけて会社設立の書類を作成してもチェックに引っかかるケースがあり、法務局までの移動時間などが余分にかかってしまいます。しかし、登記の書類作成には厳密さが求められ、ルールも細かいのが特徴です。そこで、チェックに引っかかった場合の対処法とミスを事前に防ぐ方法を中心に解説します。
法務局のチェックに引っかかった場合の対処法
会社設立の手続きで法務局のチェックに引っかかった場合の対処法を中心に説明します。
チェックに引っかかるパターン
法務局のチェックに引っかかるパターンは次の通りです。
(1)「申請書情報=設立登記申請書」の不備
申請書に「添付書類の名称など必要事項の記載ミス・もれ」や「印鑑の押し忘れ」がある場合、チェックに引っかかります。たとえば、添付書類の欄に「印鑑証明書」でなく、「印鑑証明」と「書」の一文字が欠けていても法務局からミスが指摘されます。
(2)「添付書面=添付書類」の不備
申請書に添付する書類は定款や印鑑証明書などであり、たとえば取締役の就任承諾書の場合、印鑑の押し忘れや印鑑証明書の添付もれがチェックの対象になります。
対処法その1:書類を補正する
書類の補正とは、「法務局の担当官の指示に従って訂正すること」を意味します。補正が必要な場合、法務局から電話が来るため、申請書には携帯など日中連絡が取れる電話番号を記載しましょう。なお、補正には手数料や登録免許税などの費用は一切かかりません。
対処法その2:申請を取り下げる
法務局のチェックに引っかかっても補正で対処できない場合、いったん申請を取り下げる必要があります。取り下げにより、登録免許税(例 株式会社の設立なら15万円)が還付(返金)されます。申請を取り下げるケースは次の通りです。
- 担当官が定める期間(補正日)までに補正できない場合
- 法務局の管轄を誤って申請するなど、不備の内容が性質上補正できない場合
- 自らの意思で申請を取り下げる場合
チェックに引っかかると手間が増大する
会社設立の手続きで法務局のチェックに引っかかった場合のデメリットは次の通りです。
(1)物理的な手間がかかる
法務局に出向いて補正する場合の移動時間などの余分な手間がかかってしまいます。
(2)機会損失を招く
機会損失とは「行動をしなかったことで得られなかった利益」を指し、会社設立の場合は開業日の遅れが当てはまります。たとえば、ネット販売を開業する場合、商品を出品するタイミングが遅くなった日数分の「販売金額-仕入原価=売買利益」だけの機会損失を招いてしまいます。
会社設立の手間を最小限にする方法
法務局のチェックに引っかからず、会社設立の手間を最小限にする方法を説明します。
目的を調べる
目的欄の記載で法務局のチェックに引っかからないようにするポイントは次の通りです。
- 明確性:誰が見ても分かる目的を記載する
- 適法性:違法な目的や弁護士法など他の法律に抵触する目的を記載しない
2つのポイントを満たすためにも、目的についてはインターネット検索などでの事前調査が必須になります。
印鑑の押し忘れの有無を確認する
紙媒体で会社設立の申請をする場合、印鑑の押し忘れの確認が鉄則になります。チェックに引っかかった場合、実印のため、代表者などの本人が法務局へ出向かざるを得ない可能性が高くなるためです。
忘れずに捨印を押す
捨印とは、あらかじめ書類の不備を見越し、事前に押す訂正印を指します。捨印を押すことにより、法務局のチェックに引っかかっても本人以外の訂正を可能にします。たとえば、定款の本店の所在地に「東京都北区」ではなく、「東京都北区区」と記載している場合、捨印がなければ、誤り部分の「区」の削除に本人が訂正印を押さなければなりません。しかし、捨印が押されていれば、別の人が「区」の箇所に二重線を引き、「一文字削除」と記入するだけで済みます。
オンライン申請をする
法務省では会社設立のオンライン申請を奨励しています。法務局までの移動時間の節約はもちろん、チェックに引っかかる確率を下げることが可能です。たとえば、紙媒体での印鑑の押し忘れは、オンライン申請に代えれば防止可能です。
オンライン申請で会社設立をする方法
オンライン申請で会社設立をする方法について説明します。
準備編:公的個人認証サービス電子証明書を取得する
登記・供託オンライン申請システムにより本人がオンライン申請をする場合、市区町村の窓口で「公的個人認証サービス電子証明書」が必要であり、マイナンバーカードの取得とセットになります。
オンライン申請の流れ
オンライン申請での会社設立の流れは次の手順になります。
- (1) 申請用総合ソフトの起動
- (2) 登記・供託オンライン申請システムにログイン
- (3) 申請書情報の作成
「申請書様式一覧」画面で会社設立の様式を選択し、登記すべき事項を入力します。 - (4) 添付書面情報の添付
添付書面情報に利用できるファイルの種類は次の通りです。 - (5) 申請書に電子署名の付与
- (6) 申請データの送信
- (7) 到達・受付・納付のお知らせの通知
- (8) 登録免許税の納付
「電子納付」と「領収証書又は印紙納付」のいずれかの選択が可能 - (9) 補正の通知
通知に従い、補正と取下げのいずれかを選択 - (10) 手続終了の通知
商業・法人登記関係手続 添付ファイルの種類 | 拡張子(ファイルの形式) |
---|---|
署名付きPDFファイル ビットマップイメージファイル(注) XML電子公文書ファイル |
.pdf .bmp .xml |
(注) 申請書情報の編集の際に、外字を使用する場合に必要となります。(出典:法務省)
ほかにも注意すべきことがある
今までの内容のほかにも会社設立の手続きで注意すべき点について説明します。
現物出資をしている場合
現金預金以外の自動車などの物で出資する「現物出資」の情報は定款に独立させて記載する必要がありますが、株式会社の設立において未記載でも他の部分の記載が完ぺきなら公証人の認証は受けられます。しかし、法務局での手続きで担当官は確実に現物出資の情報が把握でき、定款の未記載がチェックに引っかかってしまいます。その場合、再度公証人の認証を受けなおさなければならず、手間が増大してしまいます。
商号も事前に調べる
現在は類似商号の制度がなく、管轄の法務局内で商号が他社と同じでもチェックに引っかかりません。しかし、他社の商号と同じまたは似ている場合、損害賠償や商号使用の差し止めの対象となる可能性があります。会社設立当初で事業が軌道に乗る前は資金繰りに余裕がないのが一般的であり、損害賠償や商号使用の差し止めによる経済的な損失は避けたいところです。たとえリスクの確率は低くても、インターネットや法務局内で法人の情報を閲覧するなどをして商号も事前に調べておきましょう。
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まとめ
会社設立の手続きで法務局のチェックに引っかかると物理的な手間がかかり、機会損失を招いてしまいます。しかし、申請書や添付書類の作成に関するルールは細かく、専門知識が求められ、ある程度の勉強時間が必要です。そのため、法務局での手続きが専門家に委任できる代理人制度が存在します。まずは当サイトをご覧いただき、会社設立に精通した税理士などの専門家を吟味することをおすすめします。