国税庁や税務署は、事業をしている法人や個人事業主に対して税務調査をする権利を持っています。どんな会社であっても、いつ税務調査が入ってもおかしくありません。しかし、税務調査はポイントを押さえてきちんと会計処理をしていれば、怖いものではありません。ここでは、税務調査のポイントを業種別に解説します。
そもそも税務調査とは 税務調査の手順
まず、税務調査とは何かを見ていきましょう。税務調査とは、税務署などが法人や個人事業主に対して一定の基準に従い、書類のチェックや聞き取りなどを行う調査のことです。通常、税務調査は会社や事務所などで行われます。税務調査には、任意調査と強制調査の2種類があります。
①任意調査
任意調査とは、名前の通り企業の任意で行う調査のことです。事前に税務署から納税者には調査に入ることが通知され、双方で日程の調整などが行われます。任意のため断ることもできますが、特別な理由がない場合は通常、断ることはできません。任意調査は脱税などの疑いがない場合の調査で、通常どんな会社でも数年に一度行われるものです。
②強制調査
国税庁により強制的に行われる調査で、事前の通知はありません。強制捜査は脱税などの疑いが高い場合に実施されます。
一般的に税務調査とは、任意調査のことを指します。ここからは任意調査について解説していきます。任意調査における税務調査の手順は、次のとおりです。
①事前連絡
税務調査の日時を調整するために事前に連絡があります。電話は申告書に記載された電話番号にかかってきます。申告を税理士に依頼している場合は、あらかじめ税務署から税理士に、税務調査をしたい旨の連絡がいく場合もあります。
②税務調査開始
税務調査の当日は、2人程度の調査官が会社などで税務調査を行います。おおむね10時前後から開始されます。顧問税理士がいる場合は、税理士も立ち会います。
③税務調査
税務調査では、証拠資料の確認や固定資産などの現況の確認などを行い、申告の間違いがないかなどを確認します。申告書作成の間違いや納税額の計算間違いなどがある場合は、税務調査当日に、提示されることもあります。
④税務調査の終了
現地では、基本2日程度の税務調査が行われます。状況に応じて、その場で指摘を受けることもあれば、後に連絡があることもあります。調査結果や疑問点が税務署から提示され、納税者が、それに返答していく流れです。顧問税理士がいる場合は、税理士が納税者に代わって行います。
⑤修正申告書の提出と納税
申告漏れや計算間違いが判明した場合は、修正申告書を作成し、税務署に提出します。延滞税や加算税なども課されるため、調査官に確認し、納付します。これで、税務調査の終了です。
すべての業種で気を付けるべき税務調査のポイント
税務調査ではどのようなことを調査するのでしょうか。税務調査では、業種ごとに確認する事項と、業種にかかわらずすべての会社で確認する事項があります。ここでは、すべての業種で気を付けるべき税務調査のポイントについて見ていきます。
売上に対する税務調査のポイント
どんな業種であっても、必ず確認するのが「売上」です。売上で注意すべきポイントは、計上漏れです。ただ単に、売上の計上を忘れていた場合ももちろんですが、自分ではきちんと処理していると思っていても、計上漏れを指摘されることがあります。
計上漏れの原因として、入金があった時点で売上を計上していることが挙げられます。売上を計上するタイミングは、基本的に以下のようになります。
- ①物を販売した(引き渡した)時
- ②工事が完成し、完成物を引き渡した時
- ③サービスの提供が終了した時
いずれの場合も、お金の動きのことは記していません。例えば、掛売上の場合、商品を引き渡してから、後日、商品代金の入金があります。この場合、売上を計上する日付は商品を引き渡した時です。商品を引き渡した時と商品代金の入金時の間に決算があった場合、商品代金の入金時に売上を計上していると、前期で売上計上漏れになります。
経費に対する税務調査のポイント
次に、経費に対する税務調査のポイントを見ていきましょう。経費に対する税務調査の主なポイントには、次のようなものがあります。
①経費の計上時期の間違い
経費についても、通常、商品や工事などの完成物の引き渡しを受けた時に計上できます。例えば、工事の完成が翌年度で、前年度に一部、前金を支払っていた場合、あくまで経費にできるのは、工事完成の翌年度です。前金を支払った前年度に経費で計上していた場合、前年度では経費の計上しすぎとなってしまいます。
②固定資産
1つあたり10万円以上の固定資産を購入した場合は、原則減価償却費として数年をかけて少しずつ経費にしていく必要があります。購入時に全額を経費にしている場合は、経費の計上しすぎとなります。
業種別にみる税務調査のポイント
ここからは、業種別に税務調査のポイントを見ていきましょう。
①製造業
・作業くず
製造業で金属の加工などを行っている場合、作業くずが必ず出ます。この作業くずはスクラップ回収業者などに売却し、収入を得るのが通常ですが、収入に計上するのを忘れているケースも多いです。税務調査では、必ず作業くずの収入が計上されているかどうかを確認します。
②卸売業・小売業
・棚卸商品
卸売業や小売業では、期末に多くの棚卸商品を保有しています。棚卸商品は、計算した金額によって大きく利益が違ってきます。そのため、税務調査では販売した金額が正しく計上されているか必ず確認します。
・ポイントカード、クレジットカード
卸売業や小売業では、ポイントカード割引を導入したり、クレジットカードでの販売を行っているケースがあります。この場合は通常の売上と処理方法が異なることもあるため、正しい処理をしているかどうかを確認します。
③建設業
・完成工事、未成工事
建設業では売上の計上方法に、工事完成基準と工事進行基準があります。どちらの基準を採用しているかによって、売上や経費、未成工事などの計上時期が異なります。
そこで、採用している基準通り、正しく処理されているのかを確認します。
④運輸・交通・通信業
・修繕費と資本的支出
運輸・交通・通信業は、他の業種に比べて、固定資産を保有している割合が高いです。建物や機械などの修繕をした場合、その修繕費は経費になる場合と固定資産になる場合があります。故障したところを直した場合は、修繕費として経費になりますが、建物や機械の価値を高めたり、使える年数を増やすような修繕は経費にならず、固定資産とする必要があります。
⑤サービス業
・売上計上時期
サービス業では、サービスの完了までの期間が短い場合や1年を超える場合など、様々なものがあります。本来は、サービス完了時に売上にしますが、サービス完了までの期間が長い場合には、別の基準を採用することも可能です。また、売上金額や経費金額の見込額が確定していない場合なども多いです。この場合の処理をきちんとしているかどうかが、税務調査のポイントとなります。
⑥医療・クリニック、調剤薬局
・医業収入
医業収入には、患者から直接徴収する窓口収入や、支払基金・国保連合会からの振込収入などがあります。これらの収入がきちんと計上されているか、税務調査で調べられます。
特に支払基金・国保連合会からの振込収入の場合、申請した金額(点数)と認められた金額(点数)は異なることが多く、決算月のものは申告までに確定していないケースも多くあります。年度をまたぐ処理がきちんとされているかどうかは、必ず税務調査で確認されるポイントです。
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⑦貿易業
・為替レート
貿易業をしている場合は、外貨建取引(外国通貨を使用する取引)や外貨建資産等(決算時に所有している外貨預金などの資産)を日本円に換算して、会計処理を行う必要があります。その場合、どの日の為替レートを使うのかなどの規定があります。税務調査では、規定通りの処理がされているのかどうかを確認します。
まとめ
どんな法人、個人事業主であっても原則、税務調査が行われる可能性があります。税務調査は嫌だと思う人も多いかもしれませんが、きちんと対処すれば、怖いものではありません。税務調査の流れやポイントを知り、税務調査が来ても問題ない帳簿や申告書を作成しましょう。