個人事業主は2015年から土地の売却に対して優遇税制が利用できるようになりました。それが「平成21年及び平成22年に取得した土地等を譲渡したときの1,000万円の特別控除」です。節税効果が期待できる反面、確定申告のミスで税務署から指摘を受けやすい制度です。そこで、いわゆる「1,000万円特別控除」について解説します。
土地等の譲渡による1,000万円特別控除の概要
土地または借地権などの土地の上に存する権利(以下「土地等」)の譲渡(売却)による1,000万円特別控除について説明します。
土地の譲渡益から1,000万円の所得控除ができる
「売却金額-取得費(購入金額)-譲渡経費(売買手数料など)」で求めた譲渡所得から1,000万円の所得控除ができる優遇税制です。そのため、土地の譲渡益が1,000万円以下なら税金は課税されません。たとえば、20年間所有していた土地の売却益が800万円とします。1,000万円特別控除を利用する・しない場合の税額の差は次の通りです。
- 利用する場合:土地の売却益800万円<特別控除1,000万円→譲渡所得と税額0円
- 利用しない場合:土地の売却益(=譲渡所得)800万円×税率20%(所得税15%、住民税5%)=160万円
特別控除を受けるための条件
1,000万円特別控除を受けるためには、次の条件をすべてクリアしなければなりません。
(1)取得時期など
次のことが大前提になります。
- 2009年1月1日から2010年12月31日までの間に土地等を取得している
- 取得時期が個人事業主(不動産所得・事業所得・山林所得を得る業務に従事している個人)である
- 事前に税務署へ届出書を提出している
(2)売却時期
- 2009年取得分:2015年以降に売却
- 2010年取得分:2016年以降に売却
(3)取得方法
次の取得方法は1,000万円特別控除の対象外になります。
- ①親子や夫婦など特別な間柄にある者からの取得
特別な間柄には、内縁関係にある人、取得した本人が経営する同族会社なども含まれるため、不安なら事前に確かめることをおすすめします。 - ②相続、遺贈、贈与、ほかの人の不動産との交換、代物弁済(相手からの債務の返済)、土地等の所有権が本人に移転しないリース契約による取得
(4)ほかの譲渡所得の特例を受けない
確定申告の方法
確定申告のポイントは次の通りであり、(1)と(2)を忘れると1,000万円特別控除が受けられません。
- (1) 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]を作成する
- (2) 確定申告書に次のように記載する
(出典:国税庁)
- (3) 登記事項証明書(土地等の登記簿謄本)や売買契約書の写しなどを確定申告書に添付する
土地を売るタイミングは?
そもそも不動産取引は金額が大きく、税制上、土地の売却時期によって税額が大きく違ってくるケースが多いのが特徴です。そのため、売却前に慎重な検討が必要です。
土地の売却時期を検討するポイント
土地を売却するベストタイミングは個人ごとに異なります。そこで、ケース別に検討するポイントを紹介します。
消費税率が8%から10%にアップする前
土地の取引自体は非課税ですが、土地付建物の建物部分には消費税が課税されます。たとえば、税抜での売却価格の内訳が土地1,000万円、建物1,000万円とします。建物部分の1,000万円に対して税率が8%または10%かによって、消費税額は次のように違ってきます。
- ①税率8%:1,000万円×8%=80万円
- ②税率10%:1,000万円×10%=100万円
- ③差額:②-①=20万円
消費税率がアップする前に土地等を売却すれば、消費税の節税につながります。
土地の所有期間
売却する土地等の所有期間が5年以内・5年超を分岐点に、短期譲渡所得と長期譲渡所得と区分され、税率が次のように異なります。
区分 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
長期譲渡所得 | 15% | 5% |
短期譲渡所得 | 30% | 9% |
また、譲渡所得は実際の所有期間でなく、土地等の売却した年の1月1日現在で5年以内・5年超をカウントします。たとえば、2019年に土地等を売却する場合、短期譲渡所得と長期譲渡所得の分岐点は次の通りです。
- 短期譲渡所得:2014年以降に取得した土地等
- 長期譲渡所得:2013年以前に取得した土地等
固定資産税を減らしたい場合
土地を利用していないなど、所有しているだけで固定資産税を負担している場合、売却すれば税負担を減らすことができます。たとえば、遊休地を所有している場合、土地を売却すれば、コストパフォーマンスの低い費用の削減につながります。
固定資産税を削減したい場合、年内の売却がポイントになります。毎年1月1日時点で所有している土地に対して課税されるためです。
資金調達をしたい場合
たとえば、慢性的に資金繰りが苦しい場合や法人成りなどで先行投資が必要な場合など、まとまった資金を調達するのに、土地等の売却は有効でしょう。税金の負担を減らすためにも、1,000万円特別控除の利用により譲渡所得を圧縮できます。
ほかにも利用できる特例制度
ほかにも土地等の売却にかかる優遇税制がありますが、1,000万円特別控除とどちらかの選択になり、2種類以上の特例制度を併用できません。
マイホームの売却による3,000万円特別控除
個人事業主がマイホームの家屋とともに土地等(敷地や借地権など)を売却した場合、譲渡益から3,000万円の所得控除ができる優遇税制です。そのため、所得控除の枠が小さい1,000万円特別控除よりも節税効果があります。
収用等の5,000万円特別控除
土地収用法やそのほかの法律で収用権が認められている公共事業(例 東日本高速道路株式会社)などのために土地等を売却した場合、最大5,000万円の所得控除の枠が利用できる優遇税制です。一般的に買い取り業者から「収用等の特別控除が利用できる」ことについて事前説明があるため、確定申告での適用もれのリスクは少ないでしょう。
事業用資産の買い替えによる課税の繰延べ
税金の免除ではありませんが、個人が事業用の土地等を売却し、税法上で定める新規の土地建物等を取得・使用開始をした場合、課税の繰り延べ(納税の先延ばし)ができる優遇税制があります。具体的には、譲渡所得の計上を「土地の売却時点→新規の土地建物等を売却した段階」まで先延ばしにできます。
そのため、「課税の繰り延べ=事実上の税金の免除」になる場合には、利用価値のある制度で、次のすべてに該当する場合が当てはまります。
- 土地の譲渡益が5,000万円などと多額で、特別控除の所得控除の枠をはるかに超えている
- 今後新規の土地建物を売却する予定がない
空き家の売却による3,000万円特別控除
空き家を相続し、2019年末までに被相続人の居住用家屋の敷地等(土地等)を売却した場合、譲渡益から3,000万円の所得控除ができる優遇税制です。2019年末までと期間限定のため、万が一の相続に備えて、早めに選択肢のひとつに入れておきましょう。
まとめ
土地の売却にかかる優遇税制は、ひとつしか利用することができないため、選択ミスにより税金面で損をする可能性があります。また、確定申告のミスで節税に失敗してしまうかもしれません。そのため、「土地を売りたい」と思ったら、事前に専門家に相談することをおすすめします。
▼参考URL
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3225.htm
- https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_2.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki2017/pdf/kisairei01.pdf
- https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=332AC0000000 026_20180101_428AC0000000015&openerCode=1#1334(措置法37条9の5)
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3552.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3405.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm