バーやクラブの経営者がホステスの接客業務に対し支払いをしたとき、その支払いは給与になるのでしょうか。それとも、ホステスは自身の判断で営業活動をしているとみなし、報酬として扱うのでしょうか。所得税法はどう見ているのか、過去の裁判例などを参考に解説します。
※本記事は、2019年時点の情報を元に作成をしております。
個人事業主が支払う人件費とは?
給与となる場合、給与とならない場合
バーやクラブの経営者からホステスへの支払いは、給与にあたる場合と報酬にあたる場合の両方のケースがあります。
実際の裁判例でホステスへの支払いが給与と認められたケースと報酬とされたケースがあります。以下概要を見ていきます。
<ホステスへの支払いが給与とされたケース>
(平成28年7月28日地裁)
税務調査により、税務署からホステスへの支払いは給与にあたると指摘されたことに対し、経営者が起こした裁判の例です。原告である経営者は、ホステスらは経営者の指示で動いておらず、場所や時間の拘束を受けているともいえないので、ホステスへの支払いは給与ではないと主張しました。これに対し、裁判所は支給したお金は経営者とホステスらとの間で締結された雇用契約に基づき、経営者からの指示に従ったことに対して受け取ったものといえるため、本件は給与所得にあたるとしました。さらに、控訴後の高裁でも給与であるとされました。
<ホステスへの支払いが報酬とされたケース>
(平成27年11月5日地裁)
クラブ経営者から契約を解除されたホステスが、契約は労働契約であるため解雇の無効を主張した裁判です。この裁判も、経営者とホステスの契約が労働契約(給与)であるか、業務委託契約(報酬)であるかが争点となりました。
裁判所は、経営者はホステスらに業務上の指示をしていなかったこと、ホステスへの支払いもそのホステスの顧客からの入金にもとづくものであることから、このホステスは経営者の指示を受ける労働者ではないとしました。この例では、ホステスへの支払いは個人事業主に対する報酬と判断されたのです。
<要件により給与か報酬かは異なる>
労働の対価としての支払いが給与か報酬かについては、判例は多く、それらの判決の中でよく引用される有名な判決があります。
昭和56年4月24日の最高裁の判例では、給与所得は使用者の指示に従い、場所や時間の拘束を受けているという従属的な要件であり、事業所得は自己の責任による独立した業務と定義されています。特に給与所得の場合には、労働を提供しているという従属性が重視されなければならないのです。
したがって、ホステスの業務が実質、経営者からは独立した業務にあたれば報酬とし、経営者に従属した業務にあたれば給与とする傾向があるようです。実際の判断の際にはホステスの勤務状況、経営者との関係性など客観的要素をもとに労働の実質を詳細にみていきます。
給与所得と事業所得
所得税は10種類に区分することができ、それぞれ税金の計算方法が異なっています。その中で、給与は「給与所得」にあたり、報酬は「事業所得」にあたります。つまり、給与と報酬では支払いを受けるホステスの税金は異なってくるのです。給与所得は、勤務先から受け取った給料による所得のことをいい、「給与所得の金額=給与の金額 - 給与所得控除」 によって求めます。
また、事業所得は、事業を営む人のその事業から生まれる所得のことをいい、「事業所得の金額=総収入金額 - 必要経費」によって求めます。給与所得控除については給与から計算で求められますが、事業所得における必要経費は支払いの証拠(美容代、衣装代、化粧代や接待交際費、消耗品などの領収書)が必要となります。
このように、所得区分の違いにより支払を受けるホステスの所得税は異なってくるのですが、同時に経営者側の税金にも影響があります。それは、源泉徴収税の問題と消費税における仕入税額控除の問題です。
給与と報酬では源泉税や消費税の考え方も違う?
源泉徴収もれは事業主の負担となる?
源泉徴収とは、給与や報酬などの支払者がその給与や報酬から所得税額を差し引いて納税する制度であり、所得の支払者(源泉徴収義務者)が納付しなければなりません。ですので、給与か報酬かの問題は、経営者の支払う源泉徴収税額にも影響してきます。源泉徴収税額の計算方法については、給与は公表される源泉徴収税額表に当てはめて税額を求めるのに対し、報酬に係る源泉徴収税額は次の計算により算出します。
仮にホステスが月20日出勤し、50万円の支払いをうけた場合、給与での源泉徴収税額(月額・扶養なし)は29,890円となり、報酬ですと40,840円になります。
源泉徴収をする義務は、対象となる給与や報酬料金を支払った時点で、自動的に発生し、申告という手続はないのです。給与として源泉徴収していたけれど、報酬であると認定された場合の源泉徴収の差分については、源泉徴収義務者が納付しなければなりません。
しかしながら、源泉徴収義務者が最終的に負担するものではなく、源泉徴収の差分である徴収もれは報酬を受け取ったホステスに請求することができます。
給与と報酬では支払う消費税も異なる?
また、給与か報酬かの問題は、経営者の支払う消費税にも影響します。消費税を受け取った事業者は、受け取った消費税から仕入にかかった消費税を差し引いて、原則としてその差額を納付します。この差し引く消費税の額は控除対象仕入税額と呼ばれます。経営者は、ホステスに支払った報酬のうち、控除対象仕入税額を受け取った消費税から差し引けるのです。例えば、仮にホステスに54万円支払い、その時の消費税率を8%とすると、消費税分40,000円を、受取った消費税から差し引くことができます。
一方、給与の場合は不課税仕入であり、消費税の差し引きはできません。経理担当者においても、給与か報酬かによって経理処理も異なってきますので注意が必要です。経理処理において、本来は給与となるホステスへの支払いを、報酬として控除対象仕入税額としてしまったら、気づいた時点で消費税の修正申告をする必要があります。
また、報酬として支払いを受けるホステスは、年収1,000万円以下の免税事業者であれば受け取った消費税分を納付する必要はありません。報酬を受けるホステスは消費税分が収入になるケースがあるのです。
ホステスとはなにか?働き方改革により変わる?
呼称だけでは決められない多様な働き方
所得税法204条1-6では、「キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は客に接待をして遊興若しくは飲食をさせるものにおいて、客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者」を「ホステス等」と定義しています。
源泉徴収税額の計算においては、芸能人やモデルには認められていない控除金額が一日当たり5,000円あります。このホステスに認められた5,000円のみなし経費は、できる限り源泉徴収額に係る還付の手数を省くことにあるようです。
また、所得税法204条1-6では、「芸妓」はホステスに認められるみなし経費については、該当しないとされています。
ホステスと芸妓は同業者ではありませんが、所得税法上でも明らかな違いがあります。
働き方の多様化で難しくなる給与と報酬の差別化
2019年4月より働き方改革の取り組みが始まっています。厚生労働省のHPには「働き方改革は、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています」とあります。
企業が社員の「副業」を認めるようになることにより、副業でホステス等を考える人も増加するかもしれません。
会社から給与を受け、かつ、バーやクラブからも給与を受ける働き方もあるでしょうが、報酬を受けてホステスとして働く選択も可能でしょう。
ホステスとして実際に勤務し、支払いを受けてから給与か報酬かが問題化すると勤労意欲も萎えてしまうので、経営者との契約時に、働き方が給与にあたるか報酬にあたるのかを明確にしておきたいものです。同じ職場で働いていても、ホステスによって給与、報酬と扱いが異なるケースもあるわけです。
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まとめ
過去の裁判例では、ホステスだけではなく、他の業種においても給与か報酬かの判断に迷うケースは多くあり、昭和56年4月24日の最高裁の判例に基づいているケースが見受けられます。ホステスへの支払いは裁判によって給与とされたケースはありますが、報酬とされるケースが多いようです。
今後は、ホステスに代表されるような「給与」と「報酬」分別の複雑さを解消すべく、働き方改革に伴った税法の改革が望まれるところです。