結婚は、節税対策のひとつとして利用することも可能です。配偶者がいると、所得税や住民税など複数の税金が下げられるかもしれません。しかし、対応を誤ると本来不要な税金まで納税してしまう可能性があります。そこで、配偶者ができた場合における代表的な節税対策について詳しく解説します。
結婚により可能な節税とは
結婚とは、民法上の手続きにより婚姻が成立した状態で、結婚すると税法上では、同じ家計という位置づけになります。そこで、個人事業主の代表的な節税方法を見ていきましょう。
本人の扶養に入れる
本人の扶養に入れるということは、自分の収入で養うことであり、配偶者の生活費に相当する分だけの税金を控除することができます。それが次の所得控除です。
- 配偶者控除:所得控除13万円~38万円
- 配偶者特別控除:所得控除1万円~38万円
配偶者に給料を支払う
個人事業主の場合、事業で獲得した所得を配偶者に分配して、本人の所得税率(5%~45%)を下げることができます。その代表格が青色事業専従者給与であり、事業に従事している場合、配偶者へ支払う給料を個人事業主の必要経費で処理することが可能です。
優遇税制を確実に受けるためには?
上記の優遇税制は片方しか選択することができません。たとえば、配偶者に青色事業専従者給与を支払いながら、同時に配偶者特別控除を受けることは不可能です。そのため、節税効果の高い優遇税制を選択するのがポイントです。また、青色事業専従者給与の場合、手続きの不備や知識不足により、税務調査で否認されるリスクがあります。
配偶者を扶養に入れるケース~配偶者控除と配偶者特別控除~
配偶者控除と配偶者特別控除の目的は、配偶者を扶養に入れることで、生活費の負担を軽減することです。ここでは、それぞれの制度ごとに本人と配偶者の所得を軸に所得控除の金額を計算します。詳しく見ていきましょう。
所得控除の金額
配偶者控除または配偶者特別控除を受けることにより、「所得控除の金額×税率」だけの節税効果が得られます。それぞれの制度の所得控除の金額は次の通りです。
(1)配偶者控除
配偶者の合計所得金額が38万円以下の場合に受けられる制度です。個人事業主の場合、基本的に事業所得または不動産所得の金額(合計所得金額)に応じて、所得控除の金額は表の通りになります。
本人の合計所得金額 | 所得控除の金額 |
---|---|
900万円以下 | 38万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 |
合計所得金額が1,000万円を超えると、たとえ配偶者を扶養しても配偶者控除の適用は認められません。扶養しても配偶者の生活費を負担できる所得水準であり、税制面で優遇する必要がないと考えられるためです。
(2)配偶者特別控除
配偶者の所得が38万円を超えて、配偶者控除が受けられなくても、配偶者特別控除を受けることが可能です。
配偶者の合計所得金額 | 本人の合計所得金額 | ||
---|---|---|---|
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 |
950万円超 1,000万円以下 |
|
38万円超 85万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
85万円超 90万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 |
90万円超 95万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 |
95万円超 100万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 |
100万円超 105万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 |
105万円超 110万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 |
110万円超 115万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 |
115万円超 120万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 |
120万円超 123万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
(出典:国税庁を筆者加工)
たとえば、本人の合計所得金額が800万円、配偶者の合計所得金額が90万円の場合、所得控除の金額は36万円になります。
適用できる条件
配偶者控除と配偶者特別控除が適用できる条件は次の(1)と(2)です。
(1)配偶者控除と配偶者特別控除の共通の条件
- 本人の合計所得金額が1,000万円以下であること
- 民法上の配偶者であること(内縁関係の人を除く)
- 配偶者が本人と生計を一にしていること(同じ家計)
- 配偶者が本人から給料の支払いを一度も受けていないこと(白色申告の場合は事業専従者として最大86万円の事業専従者控除を受けていないこと)
(2)配偶者控除と配偶者特別控除の異なる条件
配偶者の合計所得金額が123万円以下の場合、次のように区分されます。
- 合計所得金額が38万円以下の場合:配偶者控除
- 合計所得金額が38万円超123万円以下の場合:配偶者特別控除
また、配偶者の合計所得金額の計算方法は給料と給料以外ごとに区分されます。
- ①パートなどの給料のみ
「給与収入-給与所得控除」になります。たとえば、パート収入が103万円の場合、給与所得控除65万円を差し引くと、合計所得金額38万円となり、配偶者控除を受けることができます。 - ②内職など給料以外の収入のみ
収入金額から必要経費を差し引いた残額で計算します。給料の場合と異なり、必要経費を個人事業主の事業所得と同じように実際に負担した金額で計算するのが特徴です。
扶養に入れる選択をすることのメリット・デメリット
配偶者へ給料を支払う場合と比較したメリット・デメリットを見ていきましょう。
(1)メリット
- 手続きが簡単:税務署に事前の申請が必要ない
- 本人の事業収入以外の収入が得られる:配偶者のパート勤務や内職などにより、家計収入が増やせる
(2)デメリット
- 本人の所得税率のコントロールがしづらい:所得控除の金額が定められているため
配偶者に給料を支払うケース~青色事業専従者給与~
税法上、本人の事業に従事している配偶者などの親族へ支払う給料は必要経費にならないという考え方と採っていますが、青色事業専従者給与(白色事業専従者控除)に限り、特別に必要経費で落とすことが認められています。
給料の金額を設定するポイント
給料の金額を設定するポイントは本人と配偶者の所得税率を下げることに尽きます。たとえば、事業での所得が1,000万円の場合、個人事業主が配偶者に給料を300万円支払えば、本人の所得税率を33%から23%に下げることができます。一方、配偶者も合計所得金額が「給料300万円-給与所得控除108万円=192万円」となり、所得税率を5%に抑えることができます。
適用できる条件
次のすべての条件を満たす必要があります。
- 本人が青色申告者であること
- 「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税務署に提出していること
- 本人と生計を一にする配偶者であること(15歳以上の親族を含む)
- 原則、本人の事業に従事する期間が6月を超えること
- 届出書に記載されている「方法(月給や賞与)」と「金額の範囲内」で給料が支払われていること
- 給料の設定額が配偶者の労働の対価として相当であると認められる金額であること(例:同じ仕事内容の他の従業員よりも給料が3倍なら、労働の対価と認められない可能があります)
給料を支払う選択をすることのメリット・デメリット
配偶者を扶養に入れる場合と比較したメリット・デメリットは次の通りです。
(1)メリット
- 本人と配偶者の所得税率のコントロールがしやすくなる
(2)デメリット
- 手続きが面倒:税務署に事前の申請が必要
- 本人の事業収入以外の収入が得られない:パート収入などの別口の家計収入が得られない
- 結婚後6ヵ月を経過しないと利用できない
まとめ
配偶者と結婚した場合、優遇税制を利用してお金を増やすことが可能です。一例として、本人の事業存続と拡大を優先させるなら、配偶者を事業に専従させて青色事業専従者給与を支払うほうがおすすめです。一方別の例として、本人の事業に配偶者を専従させる必要がない場合なら、配偶者を扶養に入れる選択を検討すべきでしょう。配偶者控除または配偶者特別控除で節税しながら、本人以外の家計収入を増やすことが可能です。本人と配偶者の価値観なども考慮して、より良いほうを選択しましょう。
▼参考URL
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1190.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1195.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/12.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/pdf/h28/13_14.pdf