得意先の倒産や未収金の回収遅れなどがあると、資金繰りが苦しくなります。この場合、どうしても通常の営業の方に資金を優先的に投入し、税金の支払いにお金が残っていないこともあるでしょう。では、法人で税金を支払えない場合には、どうなるのでしょうか。ここでは、法人が税金を払えない場合の影響や手続きについて解説します。
法人が税金を払えない場合はどうなる?
まず、法人が税金を払えない場合にどのような影響があるのかを見ていきましょう。
納付が遅れると延滞税がかかる
期限までに税金が納付できないと、さまざまなペナルティがあります。その中で最も多いものが延滞税です。延滞税は、納付期限までに税金を納付しなかった場合に課されるペナルティです。期限までに納付しなかった場合に課される税金なので、申告を期限までにしていたとしても、納付が遅れれば延滞税が課されます。税率は最大14.6%(2か月以内は7.3%)です。
ただし、毎年財務大臣が告示する特例基準割合により、計算した税率と14.6%(2か月以内は7.3%)のどちらか低い税率を用いて延滞税を計算するため、税率が14.6%になることは、ほとんどありません。
平成30年1月1日から令和元年12月31日までの延滞税率は、納期限の翌日から2月以内までは年2.6%、納期限の翌日から2か月を経過した日以後は年8.9%となっています。
最悪の場合、差し押さえになることも
では、税金を未納のまま放っておけばどうなるのでしょうか。すぐに財産を差し押さえられるのでしょうか。実は、税金が未納でも、すぐに財産を差し押さえられることはありません。納付期限からしばらくすると、税務署から督促状が届きます。督促状とは税金の支払いを催促するための書面です。督促状が届いても、税務署に納税の相談などに行けば、差し押さえはありません。
しかし、督促状を無視し続けると、国は財産を差し押さえる権利を持っているため、最悪、財産の差し押さえにまで発展してしまいます。そのため、督促状が届いた場合は、注意する必要があります。
換価の猶予とその手続きの方法
では、実際に財産の差し押さえが起こった場合には、その財産を取り戻すことはできないのでしょうか。実は、ある申請手続きを行うことでその財産が戻ってくることがあります。これを「換価の猶予」といいます。ここでは、換価の猶予について詳しく見ていきましょう。
換価の猶予が認められるとどうなる?
「換価の猶予」とは、税金を一括で納付した際、事業の継続や生活の維持を困難にするおそれがある場合に、申請により差押財産の換価(売却)が猶予される制度のことです。では、換価の猶予が認められるとどうなるのでしょうか。換価の猶予が認められると、次の3つのことが認められます。
- ①既に差し押さえを受けている財産の換価(売却)の猶予
- ②事業の継続又は生活の維持を困難にするおそれがある財産について、差し押さえの猶予や解除
- ③換価の猶予が認められた期間中の延滞税の一部が免除
つまり、財産の差し押さえが猶予されるため、安心して納税ができます。換価の猶予が認められた場合、猶予期間は、申請者の財産や収支の状況に応じて原則、1年以内の範囲で決まります。ただし、完納することができないやむを得ない理由があると認められる場合は、さらに1年、猶予期間を延長することができます。
換価の猶予を受けるための要件
換価の猶予は、納税者にとって有利な制度ですが、全ての人が認められるわけではありません。換価の猶予を受けるためには、次の要件を全て満たす必要があります。
- ①税金を一括で納付することで、事業の継続や生活の維持を困難にするおそれがあると認められること
- ②納税について誠実な意思を有すると認められること
- ③換価の猶予を受けようとする国税以外の国税の滞納がないこと
- ④納付すべき国税の納期限から6か月以内に「換価の猶予申請書」が所轄の税務署に提出されていること
- ⑤原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供があること
また、以下のような注意点があります。
①納税について誠実な意思を有すると認められること
督促状が届いても無視し続けると、納税について誠実な意思を有すると認められないこともあります。
②換価の猶予申請書
猶予を受けようとする納税額が100万円以下か100万円を超えるかによって、必要書類が異なります。
納税額が100万円以下の場合
- 換価の猶予申請書
- 財産収支状況書
- 担保の提供に関する書類
納税額が100万円超の場合
- 換価の猶予申請書
- 財産目録
- 収支の明細書
- 担保の提供に関する書類
③担保
担保となる財産がない場合も、換価の猶予が認められることがあります。担保となる財産がない場合は、税務署や税理士などの専門家に相談しましょう。
納税の猶予とその手続きの方法
税金の支払いができないときに、換価の猶予とともに考えなければならないのが、「納税の猶予」です。そこで次に、納税の猶予について見ていきましょう。
納税の猶予が認められるとどうなる?
「納税の猶予」とは、次の場合に申請に基づいて納税が猶予される制度のことです。
- 災害、病気、事業の休廃業などによって税金を一括で納付することができないと認められる場合
- 修正申告などで本来の納付期限から1年以上経って納付すべき税額が確定した税金を一括で納付することができない理由があると認められる場合
では、納税の猶予が認められるとどうなるのでしょうか。納税の猶予が認められると、次の3つのことが認められます。
- ①新たな差し押さえや換価(売却)などの猶予
- ②既に差し押さえを受けている財産の差し押えの解除(の可能性がある)
- ③納税の猶予が認められた期間中の延滞税の全部または一部が免除
財産の差し押さえなどが猶予されるため、安心して納税ができます。納税の猶予が認められた場合、猶予期間は、申請者の財産や収支の状況に応じて原則、1年以内の範囲で決まります。ただし、完納することができないやむを得ない理由があると認められる場合は、さらに1年、猶予期間を延長することができます。
納税の猶予を受けるための要件
納税の猶予で認められる事項は、換価の猶予で認められる事項と似ています。ただし、猶予を受けるための要件が大きく異なります。納税の猶予を受けるためには、それぞれ次の要件を全て満たす必要があります。
・災害、病気、事業の休廃業などの場合
- ①次に掲げるもののいずれかに該当する事実があること
- イ 納税者がその財産につき、震災、風水害、落雷、火災その他の災害を受け、又は盗難に遭ったこと
- ロ 納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと
- ハ 納税者がその事業を廃止し、又は休止したこと
- ニ 納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと
- ホ 納税者に上記イからニまでに類する事実があったこと
- ②納税者がその納付すべき国税を一括で納付することができないと認められること
- ③「納税の猶予申請書」が所轄の税務署に提出されていること
- ④原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供があること
・修正申告などの場合
- ①法定申告期限から1年を経過した日以後に納付すべき税額が確定した税金があること
- ② 納税者が①の国税を一時に納付することができない理由があると認められること
- ③納税者から①の税金の納期限までに「納税の猶予申請書」が所轄の税務署に提出されていること (やむを得ない理由があると認められる場合を除く)
- ④ 原則として、猶予を受けようとする金額に相当する担保の提供があること
また、以下のような注意点があります。
①納税の猶予申請書
猶予を受けようとする納税額が100万円以下か100万円を超えるかによって、必要書類が異なります。
納税額が100万円以下の場合
- 納税の猶予申請書
- 猶予該当事実があることを証する書類(災害等で納税の猶予申請をする場合)
- 財産収支状況書
- 担保の提供に関する書類
納税額が100万円超の場合
- 納税の猶予申請書
- 猶予該当事実があることを証する書類(災害等で納税の猶予申請をする場合)
- 財産目録
- 収支の明細書
- 担保の提供に関する書類
②担保
担保となる財産がない場合も、納税の猶予が認められることがあります。担保となる財産がない場合は、税務署や税理士などの専門家に相談しましょう。
換価の猶予や納税の猶予に関する一部の書類は、以下の国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
まとめ
法人が事業を続けていく中で、資金繰りの悪化などが原因で税金を納期限までに一括で支払えないこともあるかもしれません。この場合、「換価の猶予」や「納税の猶予」をすることで、財産の差し押さえが猶予され、分割で税金を納付することができます。延滞税などの免除もあるため、納期限までに税金が支払えない場合は、速やかに税務署や税理士などの専門家に相談しましょう。