原則、1年間に継続・単発を問わず収入がある場合、個人が行うのが所得税の確定申告です。この確定申告と似ている名前の申告に「準確定申告」とよばれるものがあります。確定申告と準確定申告、名前は似ていますが、まったく別の申告です。準確定申告が必要な場面や確定申告との違いなど、準確定申告について解説します。
確定申告している人が亡くなったら、準確定申告が必要
確定申告と準確定申告は、まったく別の申告です。そこで、まずは準確定申告がどのような申告であるのか、どんな書類が必要なのか見ていきましょう。
準確定申告とはどんな申告?
例えば、個人 事業主は、毎年1年間の収入や経費、所得、納める税金を計算し、確定申告と納税を行います。では、年の途中で個人事業主が亡くなったら、どうなるのでしょうか。
その年の1月1日から亡くなる日までに得た利益については、税金がかからないかというとそうではありません。年の途中で個人事業主が亡くなったとしても、亡くなるまでの収入や経費、所得、納める税金を計算し、申告と納税を行う必要があります。この亡くなった人の確定申告のことを「準確定申告」といいます。
準確定申告は個人事業主だけでなく、年金収入の多い人など、個人事業主以外でも確定申告が必要な人が亡くなった場合に行う必要があります。原則、亡くなった人の住所地を管轄する税務署に提出します。
準確定申告の必要書類
確定申告をする必要のある人が亡くなったら、準確定申告をする必要がありますが、必要書類についても確定申告とは少し異なります。準確定申告の主な必要書類は、次のとおりです。
①所得税の準確定申告書
実は、所得税の準確定申告書という用紙はありません。一般の所得税の確定申告書の上部に準確定申告であることがわかるように、「準確定申告書」と記載します。記載例は、国税庁のホームぺージをご参照ください。
②収支内訳書または青色申告決算書
亡くなった人が個人事業主の場合は、収支内訳書または青色申告決算書も作成します。白色申告の場合は収支内訳書を、青色申告の場合は青色申告決算書を作成します。
③確定申告書付表
準確定申告書には、各相続人等の氏名、住所、被相続人との続柄などを記入した付表を添付します。確定申告書付表は、税務署の窓口もしくは国税庁のホームページからダウンロードで入手します。
④各種控除証明書
準確定申告でも、生命保険料控除や地震保険料控除などの所得控除を受けられます。ただし、それぞれの控除証明書が必要になります。控除証明書は、加入している保険会社などに請求して発行してもらう必要があります。
準確定申告書の提出期限は、死亡後4か月以内となっているため、できるだけ早く請求する必要があります。その他、亡くなった人の状況によって、各種書類が必要になる場合があります。
準確定申告と確定申告の違い
ここまで準確定申告について確認しました。確定申告は生存中、準確定申告は亡くなった場合の所得税の確定申告ですが、これ以外にも、準確定申告と確定申告には違いがあります。ここでは、その違いについて見ていきましょう。
申告と納税をする人が違う
税金の申告は、原則、納税者が行います。これは所得税でも同じです。所得税の確定申告も納税者が自ら行います。では、準確定申告では誰が申告を行うのでしょうか。
準確定申告は、亡くなった人の相続人が行います。相続人が複数いる場合は、原則、連署により準確定申告書を提出します。確定申告では電子申告(e-Tax)が認められていますが、準確定申告では電子申告は求められていません。そのため、必ず紙の申告書で申告する必要があります。
各種控除の計算方法が異なる
確定申告と同様に、準確定申告も所得控除を受けられます。しかし、準確定申告では、各所得控除の計算方法が確定申告と異なります。
社会保険料・生命保険料・損害保険料・小規模企業共済などの物的控除の場合は、1年間の支払額ではなく、1月1日から死亡の日までに支払った金額が控除の対象となります。
医療費控除についても同じ考え方です。1月1日から死亡の日までに支払った医療費が準確定申告の医療費控除の対象です。ちなみに、死亡後に支払った医療費は、準確定申告ではなく相続税の費用として計算します。
次に、配偶者控除や扶養控除などの人的控除はどのように考えるのかを確認しましょう。
確定申告の場合、配偶者控除や扶養控除の対象になるかどうかは、12月31日の現況で判断します。一方、準確定申告では、死亡日の現況で判断するので、注意が必要です。
準確定申告の注意点
準確定申告は、通常の確定申告とは違うため、いくつかの注意点があります。中には、支払う税金の金額に影響を与えるものもあるので、気を付ける必要があります。主な準確定申告の注意点には、次のようなものがあります。
青色申告は引き継がれないので注意する
亡くなった人が個人事業を営んでいた場合、後継者がその事業を引き継ぐケースも多いです。この際に気を付けたいのが、青色申告です。
亡くなった人が青色申告で確定申告をしていた場合、後継者である相続人が準確定申告を行い、事業も引き継ぐため、当然、その後の後継者の確定申告では青色申告も引き継ぐと考えがちです。
しかし、所得税法では、青色申告を引き継ぐことはできません。後継者は後継者で、開業届や青色申告承認申請書を税務署に提出する必要があります。消費税の課税事業者の場合は、消費税に関係する書類も提出する必要があるので、注意が必要です。
相続税申告との関係に注意する
準確定申告と密接に関係するのが、相続税の申告です。そのため、準確定申告を行う場合は、相続税の申告についても考える必要があります。例えば、次のようなものに注意しましょう。
①医療費
上述したとおり、医療費には注意が必要です。死亡する日までに支払った医療費は、準確定申告で、死亡後に支払った申告は相続税の申告で計算する必要があります。
②未支給年金
死亡した人が年金受給者の場合に、気を付けたいのが未支給年金の問題です。国民年金などの年金は、通常2か月に1度支給されます。そのため前回に支給があってから亡くなった場合は、最大2か月の年金の未支給が発生します。これが未支給年金です。
未支給年金は親族などの相続人が申請することによって、死亡後に相続人が受け取れます。では、この年金は準確定申告、相続税の申告どちらに加えなければならないのでしょうか。
答えから言うと、準確定申告、相続税の申告どちらにも加えません。実は、未支給年金は受け取った相続人の一時所得になります。受け取った相続人に他の一時所得があるなど、場合によっては相続人が自分の確定申告をしないといけないケースもでてきます。
未支給年金がある場合には、その課税関係に注意しましょう。
まとめ
準確定申告は、確定申告が必要な人が亡くなった場合に、相続人が亡くなった人に代わって行う確定申告のことで、死亡後4か月以内に行う必要があります。控除証明書などの必要書類を提出期限までに集める必要があるため、速やかに行動しないといけません。また、準確定申告だけでなく、相続税の申告との関係性も注意する必要があります。
準確定申告で間違えると、他の税金にも影響を与えてしまいます。準確定申告について不明点などがある場合は、速やかに税理士などの専門家に相談したほうが良いでしょう。