大阪府には「成長特区における優遇税制」という独自の優遇税制が存在します。大阪府の法人のみが対象になり、府民税が最大100%免除されます。しかし、対象エリアや対象事業には細かいルールがあるため、気軽に受けられる優遇税制ではありません。そこで、優遇税制のルールについて詳しく解説します。
成長特区における優遇税制とは
大阪府は関西イノベーション国際戦略総合特区の取組を強化した独自の制度を創設しました。それが成長特区における優遇税制です。具体的には、成長産業特別集積区域(以下、成長特区)に進出し、対象事業を行った場合、大阪府税を軽減します。それでは、アウトラインを見ていきましょう。
成長特区とは
成長特区のおもな対象エリアは大阪府内にある次の施設になります。
- 大阪市:大阪駅周辺(うめきた等)、阪神港、夢洲・咲洲、(仮称)未来医療国際拠点区域(中之島)、大阪国際がんセンター
- 泉佐野市・泉南市・田尻町:関西国際空港
- 茨木市・箕面市:彩都(国際文化公園都市の通称)西部地区
- 吹田市:大阪大学吹田キャンパス、国際循環器病研究センター
- 堺市:大阪府立大学
- 熊取町:京都大学複合原子力科学研究所
対象事業の範囲
対象事業は大阪府のイノベーションに貢献する次の事業になります。
- 電気自動車などの新エネルギー分野の事業
- 高度な医療などのライフサイエンス分野の事業
- 施設運営などの新エネルギーとライフサイエンスの両分野を支援する事業
優遇税制の内容
大阪府税の軽減額の計算方法は次の区分に応じて次の通りになります。
(1)法人府民税・法人事業税
成長特区に新たに進出の場合、最初の5年間は軽減対象額の全額、さらに延長した5年間は軽減対象額の50%が軽減額になります。
- ①法人府民税の所得割・法人事業税
所得金額に税率を掛けて計算する税目の軽減対象額は次の算式になります。- イ.軽減対象額=法人府民税の所得割および法人事業税×軽減割合
- ロ.軽減割合=「実績報告対象年度成長産業事業従事従業者※数」または「府内従業者増加数(計画認定前年度と比較)」のうち小さい数値÷実績報告対象年度府内従業者数
※従業者とは、無期契約および有期契約の雇用契約を結んでいる正社員・契約社員・パート・アルバイトなどのことを指します。例)
- 軽減する前の法人府民税の所得割および法人事業税100万円
- 成長産業事業従事従業者数10人
- 府内従業者増加数9人
- 府内従業者数100人
a.軽減対象額9万円=100万円×軽減割合9%
b.軽減割合9%=府内従業者増加数9人※÷府内従業者数100人※府内従業者増加数9人<成長産業事業従事従業者数10人→9人 - ②法人府民税の均等割
軽減割合が100%の場合のみ、全額軽減対象額になります。軽減割合が100%になるケースとは、「府外から新たに進出した企業等計画認定前年度に府内に事務所等がなく、実績報告年度において全ての従業者が成長産業事業に従事している場合のみ」になります。
(2)不動産取得税
成長産業事業に供用した土地・家屋にかかる不動産取得税は最大で全額軽減されます。ただし、成長産業事業以外に供用している土地・家屋がある場合、成長産業事業に供用している割合に応じた軽減となります。
軽減できる条件
すべての税目の優遇税制において共通する条件は次の通りになります。
- 事業計画認定後、3年以内に当該成長産業事業を開始していること
- 条例に規定された府税の滞納等の除外規定に該当していないこと
また、税目ごとの優遇税制の条件は次の通りになります。
(1)法人府民税・法人事業税
- 成長産業事業計画に記載された設備・不動産の成長産業事業への供用
- 成長産業事業の実施による成果
- 下記の区分による府内における常用雇用者※の増加(計画認定前年度と比較)
区分 | 人数 |
---|---|
資本金1億円以下の企業・中小企業基本法上の中小企業者・会社法上の会社以外の法人 | 0人以上 |
資本金1億円超~10億円以下の企業(中小企業者以外の会社法上の会社) | 5人以上 |
資本金10億円超~50億円以下の企業(会社法上の会社) | 10人以上 |
資本金50億円超の企業(会社法上の会社) | 20人以上 |
(2)不動産取得税
次のすべての条件を満たす必要があります。
- 成長産業事業計画に記載されている土地・家屋であること
- 成長産業事業計画申請後に取得したものであること
- 成長産業事業計画認定後3年以内に供用を開始したものであること
- 供用開始後1年間、成長産業事業に供用したことが確認できるものであること
府民税の軽減を受けるためには事業計画を作成・申請しなければならず、円滑に手続きをすることがポイントになります。
優遇税制を受けるための手続きとは
優遇税制を受けるのに必要な手続きについて説明します。
手続きの概要
法人府民税および法人事業税にかかる優遇税制の手続きは「最初に事業計画認定を受ける→毎年軽減措置認定を受ける」の順番になります。また、不動産取得税については別途手続きが必要です。
事業計画認定までの流れ
事業計画認定までの流れについて説明します。
- (1)事業者(法人)が事業計画を作成・申請する
- (2)大阪府の担当課が確認し、審査会が審査(意見を聞く)する
- (3)知事が事業計画を認定する
また、申請期間は2016年4月1日~2021年3月31日になります。
軽減措置認定までの流れ
軽減措置認定とは、すべての税目に共通する条件および税目ごとの条件を満たしているかどうかの確認を指します。それでは、一連の流れを見ていきましょう。
- (1)各事業年度終了後から5ヵ月以内に事業者が実績報告を作成・申請する
- (2)府担当課が確認する(現地調査あり)
- (3)知事が実績報告を認定し、軽減割合が確定する
対象事業とは
前述の対象事業について具体例を紹介します。
新エネルギー分野
新エネルギー分野の対象事業は次の項目になります。
- 電気自動車関連の研究開発・製造
- 太陽光や風力、水素等の新エネルギーの研究開発・供給
- スマートコミュニティの実証
- 先進的な蓄電池等の研究開発・製造・試験・評価
- 先進的な省エネ機器の研究開発・製造
- 上記の事業に必要な施設または設備の整備又は運営 など
ライフサイエンス関係
ライフサイエンス関係の対象事業は次の項目になります。
- 高度な医薬品・医療機器の研究開発・製造
- 高度再生医療等の研究開発
- 医療・介護ロボットの研究開発・製造
- 治験・臨床研究
- 医療情報システムの研究開発
- 高度な医療施設・設備の整備運営
- 健康維持・増進に関する研究開発・製造 ・上記の事業に必要な施設または設備の整備又は運営 など
「新エネルギー」又は「ライフサイエンス」関係事業を支援する対象事業
「新エネルギー」又は「ライフサイエンス」関係事業を支援する対象事業は次の項目になります。
- 国際貨物(船舶・航空)
- MICE※(企業等の会議、報奨・研修旅行、国際機関・団体・学会等が行う会議、展示会・見本市、イベント)
まとめ
成長特区における優遇税制を受けるポイントは円滑な手続きと優遇税制の条件を確実に満たすことに尽きます。特に条件についてはルールが細かいため、大阪府の担当課または税理士などの専門家に事前確認することが賢明でしょう。この記事を機に成長特区への進出を検討してはいかがでしょうか。