会社を作るとき、商号は必ず決めなければなりません。しかし、商号の決め方によって事業活動の明暗が左右されるため、設立前に慎重に検討する必要があります。また、法人の商号の場合、個人事業主の屋号とは法律上のルールが異なります。そこで、法人の商号の決め方および屋号との違いについて解説します。
商号の決め方の基本
商号の最低限のルールをクリアするのが決め方の基本になります。それでは、ルールについて説明しましょう。
商号とは
商号とは、個人事業主や会社が営業を行う際、自己表示するために使用する名称のことを指します。たとえば、「○○商店」「△△事務所」などが挙げられます。しかし、個人事業主の商号と法人の商号とでは適用される法律名およびルールが異なります。
(1)個人事業主
商法が適用され、法務局への登記をする・しないの選択は自由です。法人の商号と区別するために一般的に「屋号」といわれています。
(2)法人
会社法が適用され、法務局への登記が強制されます。
「株式会社」「合同会社」などの会社の種類を必ず入れる
会社法第六条2項で「会社は、~中略~株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を用いなければならない。」と規定されているため、法人の商号には必ず会社の種類を入れなければなりません。
同じ住所に同じ商号は付けられない
同じ住所で 同じ商号は付けられません。たとえば、東京都品川区〇〇1-1-1に「□□株式会社」という商号の重複は不可能です。ただし、同じ住所でも次の場合は重複しないと判断されます。
- 「○○株式会社」「○○合同会社」などの会社の種類が異なる場合
- 「○○株式会社」「株式会社○○」などの会社の種類の前後が異なる場合
また、シェアハウスやバーチャルオフィスを利用して起業する場合、すでに同じ商号が存在している可能性があるため、事前確認が必要になります。
使用できるキーワード
法人の商号に使用できるキーワードは漢字、ひらがな、カタカナ、大文字および小文字ローマ字、アラビア数字、特定の符号に限定されています。特定の符号とは、次の通りです。
- 「&」(アンパサンド)
- 「´」(アポストロフィー)
- 「,」(コンマ)
- 「‐」(ハイフン)
- 「.」(ピリオド)
- 「・」(中点)
また、ローマ字の場合、商号に使用できるケース・ できないケースがあります。
(1)使用できるケース
- ローマ字を使用した法人の名称:例 「NPO法人○○○」
- ローマ字と日本語 とを組み合わせた商号:例 「ABC株式会社」
- 数字だけの商号:「777合同会社」
(2)使用できないケース
- ローマ字に振り仮名を付した商号
- 「株式会社」を「K.K.」「Company Incorporated」「Co.,Inc.」,「Co.,Ltd.」に代えた商号
- 英文の商号と日本語による商号とを併記した商号
商号を決めるポイント
事業活動を円滑にするための商号の決め方について説明します。
分かりやすい商号にする
一般消費者や得意先などの社外の人に商号を覚えてもらうことが事業発展には欠かせません。そのためには、分かりやすい商号にするのが基本になります。分かりやすくすることで、「読みにくく聞き取りづらい商号」「長すぎる商号」を防ぐことも可能です。たとえば、「KDDI」なら旧社名の「ケイディーディーアイ株式会社」よりも「KDDI株式会社」のほうが一般消費者には読みやすく、覚えやすいでしょう。
意味のある商号にする
意味のある商号にすることで、社外の人に対してより印象が強くなるでしょう。商品名やサービス名、会社の理念などを商号に反映させることがポイントになります。たとえば、建設業なら「株式会社××建設」という商号にして「建設」というキーワードを盛り込むことで、建設業であることが誰にでも分かるようにします。
HPに検索される商号にする
HPで検索して上位表示される商号にすることも事業発展に必須です。たとえば、ある見込み客が会社に興味を持ったとします。HPで検索しても上位表示されなければ商号を覚えてもらえず 、売買取引に至らないかもしれません。
アニメのキャラクターなどの一般名詞を商号に用いると、HPに上位表示されにくい傾向にあります。たとえば、「山田クリニック」よりも「池袋山田クリニック」としたほうが対象エリアを池袋に絞れるため、より上位表示されやすくなるでしょう。
ドメインが取得できることを確認する
自社のHP作成にはドメインの取得が必要です。しかし、他社が使用しているドメインと重複した場合、同じドメインが使用できないため、商号と一致せずに不自然になってしまいます。それではイメージダウンにつながりかねず、商号の変更も視野に入れなければならない状況になってしまいます 。たとえば、「クジラ」という商号にするとします。他社が「kujira.com」というドメインを使用していた場合、同じ「kujira.com」というドメインは取得できません。
商号を決める際の注意点
商号を決める際の落とし穴ともいえる注意点について説明します。
類似商号には注意する
他社と同じ商号でも会社法上、問題ありませんが、別のリスクが潜んでいます。それは会社法の「会社と誤認させる名称等の使用の禁止」に引っかかってしまうことです。万が一、引っかかった場合、他社からの訴訟を起こされる可能性があります。たとえば、洋服店を設立する場合、「ユニクロ」という商号を用いれば、一般消費者に大手企業のユニクロと誤解を与えてしまいます。
外国語の発音も意識する
特に東南アジアなどの海外進出を視野に入れる場合、外国語の発音も意識したほうがいいでしょう。たとえば、「カルピス」の場合、英語で発音すると「カウピス(Cow Piss=牛のおしっこ)」と聞こえてしまいます。そのため、英語圏ではイメージダウンを防ぐため、「カルピコ」 という別の名称に改名しています。
商号を決める際、外国語に翻訳して発音することをおすすめします。
商号の発想法
商号が事業活動の明暗を左右するため、決める際に迷うかもしれません。そこで、商号の発想法について説明します。
商号を決める際の切り口
商号を決める切り口の例を紹介します。
(1)事業に関連するキーワードを組み合わせる
- ミクシィ(mixi):「mix(交流する)」+「i(人)」
- ユーザベース(USERBASE):「USER」+「BASE」
(2)事業に関連する言葉の語源
- メルカリ:ラテン語で「商いする(mercari)」
(3)創業者の名前
- マツモトキヨシ:創業者「松本清氏」の名前
- TKP(貸し会議室などを運営する会社):創業者「河野貴輝氏」のイニシャル「Takateru Kawano Partners」が由来
- イトクロ(教育メディアを展開する会社):創業者「伊藤(イト)弘和氏」 と「黒(クロ)岩剛史氏」の二人の名字の一部が由来
商号はいつでも変更できる
商号を決める際、迷いすぎて設立の足かせになるのも考えものです。商号はいつでも変更できます。たとえば、ワタミは商号を「株式会社ワタミ→ワタミフードサービス株式会社→ワタミ株式会社」と変更しています。
まとめ
商号を決めるポイントはいかに事業活動を円滑にするかどうかに尽きます。そのため、商号を覚えてもらうことに注力する必要があります。また、会社法上の縛りや訴訟リスクなどもクリアしなければなりません。設立前に事業内容をブラッシュアップしてから商号を決めることをおすすめします。
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