法人が副業を考える場合、「本業での業績不振を挽回したい」「収入を複線化したい」などさまざまな思惑があるでしょう。しかし、副業でのもうけが同額でも対象業種などによって納税額に差が生じます。そこで、オーナー社長に向けて法人が副業をした場合の税金について解説します。
副業にかかる税金のルール
法人が副業で課税される税金のルールについて説明します。
課税される税金の種類とは
副業により課税される税金の種類について個人と法人ごとに説明します。
(1)個人
オーナー社長などが個人名義で副業をする場合、課税される税金は所得分類に応じて次の通りになります。
- ①不動産所得・事業所得に該当する場合:所得税、復興特別所得税、個人住民税、個人事業税(業種によっては非課税の場合がある)
- ②譲渡所得・給与所得・雑所得に該当する場合:所得税、復興特別所得税、個人住民税
(2)法人
株式投資などの本業以外の副業を法人名義でする場合、課税される税金は本業と同じく法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税になります。
もうけが出た場合の取り扱い
副業で税法上のもうけに相当する「収入金額-経費=所得」がプラスの場合、たとえ同額でも税率は個人と法人とでは違い、納税額にも差が生じます。
(1)個人
「すべての所得を合算して税率を掛ける総合課税」と「特定の所得に対して税率を掛ける分離課税」に大別できます。総合課税の税率は「表の所得税率+住民税率10%+事業税率3%~5%」になります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
(出典:国税庁)
一方、分離課税の税率は所得の種類ごとで定められていて、たとえば株式投資で獲得した所得なら一律20%になります。
(2)法人
法人の場合、副業でももうけは本業の所得と合算して、約30%の実効税率(法人税や法人住民税などのトータルの税率)を掛けて計算します。
損失が生じた場合の取り扱い
副業で「収入金額<経費」となり損失が生じた場合、個人と法人では節税効果に差が生じます。
(1)個人
副業での損失は所得に種類によって「他の所得から控除できる損益通算」と「来年度以降の所得から控除できる繰越損失」の取り扱いが違ってきます。
- ①損益通算
損益通算の対象になるのは次の所得に限られるため、副業での損失を他の所得から控除できない傾向にあります。- 不動産所得
- 事業所得
- 株式投資や不動産売却などを除いた譲渡所得
- 山林所得
- ②繰越損失
青色申告で確定申告をした不動産所得・事業所得・山林所得による損失のみが来年度以降3年間の繰越損失の対象になります。そのため、副業での損失が繰越損失に該当する確率は限りなく低いでしょう。
(2)法人
法人の場合、副業での損失は損益通算と繰越損失が認められます。たとえば、本業での所得が300万円、投機目的の先物取引の損失が1,000万円とします。先物取引の損失1,000万円は本業での所得300万円から控除でき、トータルの所得が0円になります。加えて、損失から引ききれなかった残額700万円は来年度以降10年間の所得から控除できます。
法人と個人、税金面で得するのはどちら?
副業にかかる税金面で法人と個人とで得するケースについて説明します。
法人が得するケース
副業を法人名義にしたほうが得する確率の高いケースについて見ていきましょう。
- (1) もうけが多額の場合
副業でももうけが多額の場合、法人名義のほうが所得に対する税率は低くなる確率が高くなります。たとえば、不動産投資で1,500万円もうけた場合の税率は、法人なら約30%に対して、個人なら48%(所得税33%、個人住民税10%、個人事業税5%)になります。 - (2) 損失が生じた場合
法人名義なら副業の業種を問わず、確実に損益通算や繰越損失の適用が可能です。たとえば、仮想通貨の取引が1,000万円の損失が生じた場合、個人なら雑所得となり、損益通算と繰越損失は認められません。 - (3) 累積赤字がある場合
本業にかかる累積赤字がある場合、副業のもうけを法人名義にしたほうが赤字額と相殺できて、所得を抑えることができます。たとえば、法人の累積赤字が3,000万円とします。前述の不動産投資でのもうけ1,500万円の場合、個人名義の所得ならもうけと同額(1,500万円)に対して税率48%をかけますが、法人名義の所得なら累積赤字3,000万円と相殺されるため、不動産投資でのもうけ1,500万円に対する法人税などは0円になります。
個人が得するケース
続いて、副業を個人名義にしたほうが得するケースについて説明します。
(1)分離課税が適用できる副業
そもそも分離課税はもうけが多額になっても累進課税を適用せずに税率を抑える目的の制度です。そのため、分離課税が適用できる副業なら個人名義したほうが税率は抑えられます。たとえば、(上場)株式投資で1,000万円を受けた場合、個人なら税率一律20%に対して、法人なら税率は約30%になります。
(2)個人の所得金額が低い場合
たとえば、オーナー社長の役員報酬が年間240万円とします。不動産投資でももうけが100万円の場合、法人名義なら税率が約30%なのに対して、個人名義なら「給与所得150万円+不動産所得100万円=所得250万円」になるため、税率は20%(所得税10%、個人住民税10%)になります。
(3)住宅ローン控除がある場合
住宅ローン控除など多額の税額控除がある場合、副業での所得が大きくても個人名義にしたほうが納税額は低くなる可能性が高くなります。たとえば、年間の住宅ローン控除が20万円とします。前述のオーナー社長の「給与所得150万円+不動産所得100万円=所得250万円」の場合、副業にかかる納税額は次の通りになります。
- 法人:100万円×税率30%=納税額30万円
- 個人:(100万円×所得税10%-9万7,500円)+100万円×個人住民税10%-住宅ローン控除20万円<0円→納税額0円
オーナー企業が副業(サイドビジネス)をする場合の節税ポイント
オーナー企業の社長は副業を法人名義と個人名義の選択が自由に選べるため、選択ミスにより本来なら節約できる税金を支払ってしまう可能性があります。サイドビジネスをする場合の節税ポイントについて説明します。
コンスタントにもうかる副業の場合
コンスタントにもうかる副業なら所得に対する税率の低さで法人名義または個人名義を選択すべきでしょう。たとえば、不動産投資の場合、収入金額と経費は年度ごとの変動が少ない傾向にあるため、所得金額と税率は比較的予測しやすいといえます。
もうけが予測しづらい副業の場合
仮想通貨の取引などもうけが予測しづらい副業の場合、所得金額と税率も予測しづらいため、法人にしたほうがいいでしょう。節税対策の選択肢が個人よりも多いためです。たとえば、仮想通貨の取引で損失が生じた場合、法人なら損益通算や繰越損失が認められます。また、もうけが多額になった場合、事前確定届出給与(役員賞与)を利用すればリスクヘッジも可能です。リスクヘッジの具体例として、もうけが多額の場合、役員賞与を支給して損金算入をすることにより法人の所得を圧縮します。一方、損失が生じた場合などには役員賞与を支給しないとすることもできます。
生活用品を売却する場合
オークションサイトなどで家具、じゅう器、通勤用の自動車、衣服などの生活用品を売却する場合、個人名義にしたほうがいいでしょう。個人なら「生活用動産」として非課税になりますが、法人は課税対象です。
まとめ
副業にかかる税金は①本業のもうけ②副業の業種と名義(法人名義または個人名義)によって納税額が違ってきます。そのため、副業をする前に本業のもうけと副業のもうけを的確に予測することが節税対策の第一歩になります。