節税対策の一環として車を購入するケースはよく見受けられます。それは個人事業主にも当てはまり、やり方次第でより多くの節税効果が得られる場合があります。しかし、車購入による税金のルールを知らないと節税効果が半減する可能性があります。そこで、車購入による個人事業主の節税について詳しく解説します。
車の購入による節税効果
個人事業主が車の購入代金を経費で落とした場合の節税効果は「経費×税率」になります。たとえば、50万円を経費に計上した場合、税率が50%なら「経費50万円×税率50%=25万円」の税金が減らせます。
事業用の車が経費で落とせる
そもそも事業とは、生産や営利を目的とした経済活動のことを指します。そのため、経費の対象になるのは、収入を得るために必要な事業用の車の購入費用です。
経費に計上する方法
車の購入費用を経費に計上する算式は以下の「(1)~(3)の方法による計上額×事業割合(全体の使用のうち事業用の占める割合)」になります。言い換えれば、購入費用のうちプライベート部分についてまでは経費に計上できないことを意味します。
(1)購入費用を一括で経費に計上する方法
自転車や中古のバイクなどの10万円未満の車は少額の消耗品と同じように購入費用を購入した年に一括で経費にすることができます。
(2)減価償却費に計上する方法
減価償却とは、車を減価償却資産として、購入費用を税法上の使用可能期間に相当する耐用年数にわたって経費に計上します。たとえば、120万円の営業車を購入した場合、耐用年数が6年なら「120万円÷6年=20万円」が経費に計上できる年平均額になります。
(3)一括償却資産の3年均等償却
一括償却資産とは、購入金額が10万円以上20万円未満の固定資産で、消耗品と減価償却資産の中間的な位置づけのものになります。購入金額を3年間にわたって均等額を経費に計上します。たとえば、購入金額15万円のバイクの場合、「15万円÷3年=5万円」を経費に計上します。
青色申告により経費で落とせる幅は広がる
サラリーマンの副業などの雑所得以外の事業所得と不動産所得(山林所得を含む)の場合、青色申告で確定申告をすれば、車の購入費用を購入した年に一括で経費に計上できる範囲が「10万円未満→30万円未満」に拡大されます。この青色申告の特典にかかる固定資産のことを「少額減価償却資産」といいます。
新車よりも中古車のほうが節税効果は高い
新車よりも耐用年数の短い中古車のほうが経費で落とせる金額が多くなるため、節税効果が高くになります。たとえば、1月に120万円の車を購入したとします。耐用年数6年と3年を比較した場合、経費に計上できる年平均額は次のように違ってきます。
- 耐用年数6年:120万円÷6年=20万円
- 耐用年数3年:120万円÷3年=40万円
経費に計上するポイント
車の購入費用を経費で落とす方法は計算方法や事務手続きが他の経費よりも複雑であり、税務調査でも争点になり得ます。そこで、経費に計上するポイントについて説明します。
税法上の車の取得価額を計算する
購入した車を一括で経費に計上したり減価償却費に計上したりする判断材料となるのが購入費用であり、税法上では「取得価額」といいます。車の取得価額に計上する範囲は次の通りになります。
- 車の本体価格、付属品・特別仕様
- 納車費用
- 購入費用に相当する中古車の未経過分の自動車税や自賠責保険料
なお、購入費用に相当する項目でも、自動車取得税、検査登録や車庫証明の法定費用、申請代行費用は取得価額に計上しないことが可能です。
また、自賠責保険料や自動車重量税などは車の購入にかかる費用でないため、取得価額の範囲外です。
耐用年数を求める
前述の通り、新車よりも中古車のほうが耐用年数は短くなります。ここでは耐用年数の求め方について説明します。
(1)新車の耐用年数
車の構造、用途、細目によって国税庁で定めた法定耐用年数を用います。
構造・用途 | 細目 | 耐用年数 |
---|---|---|
一般用のもの(特殊自動車・次の運送事業用等以外のもの) | 自動車(2輪・3輪自動車を除く。) 小型車(総排気量が0.66リットル以下のもの) 貨物自動車 ダンプ式のもの その他のもの 報道通信用のもの その他のもの 2輪・3輪自動車 自転車 リヤカー |
4 4 5 5 6 3 2 4 |
運送事業用・貸自動車業用・自動車教習所用のもの | 自動車(2輪・3輪自動車を含み、乗合自動車を除く。) 小型車(貨物自動車にあっては積載量が2トン以下、その他のものにあっては総排気量が2リットル以下のもの) 大型乗用車(総排気量が3リットル以上のもの) その他のもの 乗合自動車 自転車、リヤカー 被けん引車その他のもの |
3 5 4 5 2 4 |
たとえば、新車の小型営業車(総排気量が0.66リットル以下)の場合、構造・細目は「一般用のもの」、細目は「小型車」になるため、法定耐用年数は4年になります。
(2)中古車
過去の使用期間に応じて、耐用年数は短くなります。下記の計算式で使用可能期間が見積れます。
たとえば、3年間使用した小型営業車(法定耐用年数4年)を購入した場合、「法定耐用年数4年-使用期間3年+使用期間3年×20%=1.6年<2年→2年」が耐用年数になります。
事業割合を算出する
全体の使用のうち、車を事業に使用した事業割合の算出方法を2つ紹介します。
(1)使用日数で算出する方法
たとえば、週5日で使用している場合は5/7が事業割合になります。また得意先へ月1回訪問する場合は1/30が事業割合です。
(2)走行距離で算出する方法
普通自動車などの走行距離がわかる車の場合、事業で使用した走行距離を記録することで、より正確な事業割合が算出できます。
ただ、年ごとに事業割合の変動が小さい場合は、税務署から利益操作との誤解を避けるためにも毎年同じ割合を用いるべきでしょう。
確定申告書に記載漏れをしない
青色申告の少額減価償却資産として購入費用を一括で経費に計上する場合、条件のひとつである次の記載事項の漏れに注意する必要があります。
- 少額減価償却資産の取得価額の合計額
- 少額減価償却資産について租税特別措置法第28条の2を適用する旨
- 少額減価償却資産の取得価額の明細を別途保管している旨
「定額法」よりも「定率法」のほうがより節税効果が高くなる
車の減価償却費の計上方法は「定額法」と「定率法」が基本であり、後者のほうが購入した年の節税効果は大きくなります。しかし、個人事業主の場合、定額法で計上するのが原則であり、定率法を適用するためには事前手続きが必須になります。そこで、定額法と定率法の違いと手続き方法について説明します。
「定額法」および「定率法」とは
定額法と定率法の概要について説明します。
(1)定額法
車の購入費用を耐用年数にわたって均等に費用計上しようという考えに基づき、減価償却費を毎年同額に計上します。
(2)定率法
車の購入費用と車検などのメンテナンス費用を合算して均等に費用計上しようという考えに基づき、減価償却費を購入した年から前倒しに計上します。購入してから年数が経つほどメンテナンス費用がかかるのが一般的なためです。
例)新品の小型営業車(法定耐用年数4年)を80万円で購入した場合の減価償却費
使用年数 | 定額法 | 定率法 |
---|---|---|
1年目 | 20万円 | 40万円 |
2年目 | 20万円 | 20万円 |
3年目 | 20万円 | 10万円 |
個人事業主が定率法を適用する方法
個人事業主が定率法を適用するためには、「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」を確定申告書の提出期限(3月15日)までに提出する必要があります。たとえば、2019年に車を購入し、定率法を適用する場合、確定申告書の提出期限である2020年3月16日(3月15日は日曜日)までに届出書を提出しなければなりません。
まとめ
個人事業主が車の購入による節税効果を最大限するポイントは①購入にかかる費用を取得価額に含めない②定率法を適用する③青色申告の申請④新車よりも中古車を購入するのがポイントになります。節税対策を加味して車の購入を検討してはいかがでしょうか。