今年も確定申告の時期が近づいてきました。確定申告というと「個人事業主がするもの」というイメージですが、サラリーマンでもしなければならない(したほうがいい)場合があります。医療費や住宅ローンについては、知識があるかもしれません。では、不動産を売って「利益」が出た場合にも申告しなければならないことは、ご存知でしょうか? 放っておくと問題になるのはもちろん、申告の際にも注意すべきことがあります。
売買の利益に課税される
まず、「不動産を売ったら確定申告が必要かもしれない」と考えてください。不動産の売却益には、「譲渡所得税」が課税されます。これは、所得税や住民税などのように、給料から天引きされることがありませんから、自分で申告、納付しなくてはならないのです。
ただし、「不動産を売ったら必ず確定申告する必要がある」のかというと、そうではありません。税金は利益にかかりますから、利益が出ていなければ、そもそも納税の必要がないのです。では、この場合の利益は、どのように計算するのでしょうか? 簡単に言えば、「売れた金額から、買った時の金額を引いた額」と考えればいいでしょう。
この利益=「課税譲渡所得金額」は、正確には「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額」という式で表されます。「譲渡価額」は売れた金額、「取得費」は買った金額です。また、「特別控除」は、公共事業のために不動産を売ったというような、一定の要件を満たす時に認められる特例になります。
一方、「譲渡費用」とは、不動産業者に支払った仲介手数料、店子の立退料といった「その不動産を売るためにかかった費用」のことで、それも課税所得から差し引くことができる(税金を安くできる)のです。ただし、建物の修繕費、固定資産税などの維持費、抵当権抹消登記にかかった費用などは、これに含めることはできません。
この課税譲渡所得に税率を掛けて所得税額を計算するわけですが、その税率は、売った不動産を所有していた長さによって異なります。売った年の1月1日時点で5年を超える場合を「長期譲渡所得」と言い、所得税は15%(地方税5%)、それ以下なら「短期譲渡所得」で、所得税は30%(同9%)が課税されるのです。短期の不動産売買で利益を上げると、高率の税金がかかってくるという仕組みです。ちなみに、2019年に不動産を売却した場合には、取得したのが13年12月31日以前であれば「長期」に、14年1月1日以後だったら「短期」になります。
問題は「取得費」にあり!
きっちり所得を把握されて、毎月税金を天引きされているサラリーマンの方は、逆に「不動産を売ったことなんて、税務署にはわからないだろう」と思うかもしれません。でも、それは「甘い考え」です。不動産の登記情報は自動的に所轄の税務署に届くシステムになっていますから、売った事実を隠すことはできません。申告を怠っていると、税務署から「不動産を売られましたよね」という“お尋ね”の文書が届き、それでも無視していると、延滞税という税金がどんどん嵩んでいくことになります。
いざ申告、という時にも、気をつけなくてはならないことがあります。不動産の場合、買って何十年も経つというケースはざら。売買契約書や領収書を紛失し、「買った値段」=さきほどの数式の「取得費」の金額がわからなくなっているというのは、そんなに珍しいことではないでしょう。でも、取得費が不明では、譲渡所得を計算することができません。
そこで、そんな場合に備えて?取得費には、実際の購入額である「実額法」のほかに、「売った金額×5%」で計算する「概算取得費」を当てはめることが、認められているのです。ところが、「ではそれでやろう」と申告を行うと、次のようなことになる可能性があります。
20年前に買った4000万円の物件を5000万円で売ったとしましょう。譲渡費用などを省いて計算すると、「実額法」による課税譲渡所得は、5000万円-4000万円の1000万円。所得税は、1000万円×15%=150万円です。
他方、「概算取得費」を適用すると、どうなるか? 取得費は、5000万円×5%=250万円ですから、課税譲渡所得は、なんと5000万円-250万円=4750万円に膨らみます。その結果、所得税は、4750万円×15%=712万5000円に。もちろん、実際の譲渡所得の金額や売却額などによってケースバイケースではあるのですが、概算取得費には、こういう「怖さ」があるのです。
諦めずに税の専門家に相談を
そう言われても、いくらで買ったのかの証拠が残っていない。そんな場合には、概算取得費で申告するしかないのでしょうか? 「必ずしもそうではありません」というのが、答えです。信ぴょう性の高い「間接証拠」を揃えることで、契約書などがなくても、実額法を使った確定申告ができる場合があるのです。
「信ぴょう性の高い間接証拠」とは、例えば不動産を買った当時の預金通帳、振り込みの控え、銀行などからの借り入れの資料などのほか、その物件が載った不動産会社のパンフレット、日記や手帳の記載なども、それに該当する可能性があります。そうしたものが見当たらなくても、例えば周辺の路線価(※)の変動率を売買価格に掛けて取得費を推計する、といった方法が使えるかもしれません。
この他にも、それぞれの案件の状況に応じて、実額法を適用させる方策があるのですが、税務署を納得させるためには、やはり専門家のノウハウが必要です。不動産譲渡所得の申告で困っていたら、迷わずこの分野に詳しい税理士に依頼することをお勧めします。対応できる税理士は、実績のある税理士紹介会社を使えば、スムーズに選べるでしょう。
毎年国税庁が公表する、道路に面する土地の1平方メートル当たりの評価額。
まとめ
不動産を売って利益が出たら、譲渡所得税の確定申告をお忘れなく。購入価格がわからなくても、諦める必要はありません。速やかにノウハウを持った専門家に相談しましょう。