購入してから売却までの期間が短い不動産売買を不動産の短期売買といいます。所得税では所有期間が5年以内の売買を短期譲渡としています。では、不動産の短期売買の税金は個人と法人のどちらが得になるのでしょうか。ここでは、個人と法人の税金の計算方法や考え方を比較し、どちらが得になるのかを解説します。
法人が不動産を短期売買した場合の税金
法人で不動産の売買を行うのは、法人が不動産業を営み、商品として不動産を売却する場合と、一般の法人が、所有している固定資産としての不動産を売却する場合の2つがあります。
ここでは一般の法人が、所有している固定資産としての不動産を売却する場合について見ていきます。
法人が不動産を短期売買した場合の処理方法
固定資産としての不動産を売却する場合の流れを確認するために、まずは法人が不動産を短期売買した場合の処理方法を見ていきましょう。
例)
当社が所有する不動産を5,000万円で売却した。契約時に1,000万円、残りの4,000万円は、不動産の引き渡し時に普通預金に入金された。なお、売却時の帳簿価額は土地3,000万円、建物1,500万円だった。
・契約時の仕訳
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
普通預金 | 1,000万円 | 前受金 | 1,000万円 | 手付金入金 |
契約時には、まだ不動産の引き渡しが終わっていないため、手付金は一旦、「前受金」で処理します。
・不動産の引き渡し時の仕訳
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
普通預金 | 4,000万円 | 土地 | 3,000万円 | 土地売却 |
前受金 | 1,000万円 | 建物 | 1,500万円 | 建物売却 |
固定資産売却益 | 500万円 | 不動産売却益 |
不動産の引き渡し時には、上記の前受金を精算する処理をします。売却価格と引き渡し時の帳簿価格の差額は固定資産売却益(損)などの科目で処理します。
固定資産としての不動産を売却する場合は、売却価格ではなく、売却損益が法人税の計算対象となります。また、売却した土地や建物の帳簿価額は0円になります。
法人が不動産を短期売買した場合の税金の計算方法
法人が固定資産である不動産を売却した場合の法人税の計算では、売却損益が重要になります。では、法人税の計算はどのように行うのでしょうか。
法人税の計算は簡単にいうと、本業や副業、固定資産の売却など、法人が1年間に得たすべての利益(所得)を合算し、その1年間の利益(所得)に税率を乗じて法人税額を求めます。中小法人における法人税の税率は15%(年所得金額800万円を超える部分は23.2%)です。住民税を合わせても30%~35%程度になります。
例)
本業の利益600万円、固定資産の売却益が400万円、合計1,000万円の利益が出た。
なお、税金計算上の調整はないものとし、税率は30%とする。
この場合の法人税の金額は、1,000万円×税率30%=300万円になります。
個人事業主が不動産を短期売買した場合の税金
個人事業主で不動産の売買を行うのは、個人事業主が不動産業を営み、商品として不動産を売却する場合と、一般の個人事業主が所有している固定資産としての不動産を売却する場合の2つがあります。
ここでは、一般の個人事業主が所有している固定資産としての不動産を売却する場合について見ていきます。
事業の所得と不動産を短期売買した場合の所得は違う
法人では、本業や副業、固定資産の売却など、法人が1年間に得たすべての利益は合算し、法人税の計算をしました。
しかし、個人事業主では考え方が異なります。所得税では、課税の公平性を担保する等の理由で、個人の収入をその発生原因などで事業所得や給与所得といった10の所得に分類しています。また、所得ごとに所得金額の計算方法が異なります。一定の所得では税額の計算方法も異なっています。そのため、本業と不動産の売却は分けて計算する必要があります。
個人事業の本業は事業所得に該当し、不動産の売却は譲渡所得に該当します。不動産の売却は、事業所得と分離させて税金の計算をするため「分離課税」と呼ばれています。
個人事業主が不動産を短期売買した場合の税金の計算方法
事業所得は、法人と同じように利益(所得)に税率を乗じて計算します。では、不動産を短期売買した場合の譲渡所得や税額はどのように計算するのかを見ていきましょう。
不動産を短期売買した場合の税金は、まず譲渡所得金額を計算し、計算した譲渡所得金額に短期譲渡の税率を乗じて計算します。それぞれを見ていきましょう。
①譲渡所得金額の計算
譲渡所得金額は、次の計算式で求めます。
譲渡所得金額=収入金額 - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除額
取得費とは、不動産を購入するためにかかった費用や取得価額(建物は減価償却後の価額)です。譲渡費用とは、不動産業者への仲介料や印紙代など、不動産を売却するためにかかった費用です。特別控除はマイホームを売却した場合の3,000万円控除や土地の収用があった場合の5,000万円控除など、一定の要件に当てはまった場合のみ適用できます。
②短期譲渡の税率
次に短期譲渡の税率を見ていきましょう。「譲渡」ではなく「短期譲渡」と表現しているのは、実は短期譲渡と長期譲渡で税率が異なるからです。
短期譲渡所得とは、売却した年の1月1日現在で所有期間が5年以下の土地や建物を売却した場合の所得です。一方、長期譲渡所得とは、売却した年の1月1日現在で所有期間が5年超の土地や建物を売却した場合の所得です。短期譲渡所得、長期譲渡所得、それぞれの税率は次のとおりです。
所得の種類 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 |
---|---|---|---|---|
短期譲渡所得 | 30% | 0.63% | 9% | 39.63% |
長期譲渡所得 | 15% | 0.315% | 5% | 20.315% |
例)
3年前に購入した、個人が所有している土地を3,000万円で売却した。取得費は2,000万円、不動産業者への仲介料などの譲渡費用は100万円だった。なお、特別控除の適用はない。
①譲渡所得金額の計算
譲渡所得金額=収入金額 3,000万円- (取得費 2,000万円+ 譲渡費用100万円) =900万円
②税額の計算
短期譲渡所得の税額=譲渡所得金額900万円×税率39.63%=3,566,700円
不動産を短期売買した場合は、個人と法人のどちらが得か
では、不動産を短期売買した場合に、個人と法人のどちらが得でしょうか。一般的には、個人事業主より、法人で不動産を短期売買したほうが得になる場合が多いです。その理由には、次のようなことが挙げられます。
税率が違う
不動産を短期売買した時の税率は、法人では30%~35%程度、個人事業主では39.63%です。不動産の短期売買で同じ利益が出たとしたら、税率の低い法人のほうが、納める税金の金額が低くなります。
ちなみに長期譲渡の場合の税率は20.315%と、法人の税率より低いため、不動産を長期売買した時は、個人事業主のほうが、納める税金の金額が低くなります。
事業の赤字と不動産売買の黒字を相殺できる
税率以外に、法人と個人事業主の違いは、すべての利益を合算するかどうかです。法人は合算しますが、個人は所得ごとに分けるので合算しません。ここで問題になるのが、事業が赤字の場合です。
例えば、事業が300万円の赤字、不動産の売却が200万円の黒字の場合で見てみましょう。
・法人の場合
法人の場合は、すべての利益を合算するので、納める税金は次のようになります。
事業の所得△300万円+不動産売却の所得200万円=△100万円
赤字のため、納める税金は0円です。
・個人事業主の場合
事業所得と不動産の売却の所得は合算しません。
事業の所得は△300万円のため税金0円
不動産売却の所得200万円×税率39.63%=792,600円
法人のほうが80万円程度の節税となります。
まとめ
今回は、不動産を短期売買した場合の税金は、個人と法人のどちらが得になるのかを見てきました。個人と法人では、税金の計算方法や税率が異なります。法人より個人で不動産を短期売買した場合のほうが、税率が高いため、一般的には法人で売却したほうが得になります。
今回ご紹介したのは、あくまで一般的な場合の話です。経営方針や会社の状況などで、どちらが得か変わる場合もあります。多角的な視点で検討しましょう。