優良企業に潜むワナ! 「黒字倒産」の 仕組みと回避方法を詳しく解説 | MONEYIZM
 

優良企業に潜むワナ! 「黒字倒産」の
仕組みと回避方法を詳しく解説

黒字企業の経営者の中には「儲かっているのに実感がない」「資金繰りが厳しいままだ」と感じている方もいるのではないでしょうか。会社は黒字であっても倒産します。本記事では、資金流出が黒字で増加した資金を上回り、資金ショートで倒産してしまう「黒字倒産」の仕組みと回避方法について解説します。

決算書の「黒字」と資金繰りの意外な関係

「黒字倒産」とは何か?

黒字倒産とは、損益計算書上で利益が出ているにもかかわらず、資金繰りが回らなくなり倒産してしまうことです。

 

ちなみに、倒産とは会社が経済的に行き詰まり、支払い能力を喪失してしまうことです。結果、事業の存続が不可能な状態をさします。

 

会社は、赤字だからといって必ずしも倒産するわけでありません。逆に黒字であっても倒産してしまう場合があるのです。

 

通常、会計の世界では「黒字額=手持ち現金の増加額」と考えます。
儲かるということは、それだけ手持ち現金が増加することを意味します。

 

例)商品を50万円で仕入れ、100万円で販売
貸方 金額 借方 金額
仕入 50万円 現金 50万円
現金 100万円 売上高 100万円

 

結果、現金が50万円増加となり50万円の黒字です。

 

中には減価償却費のように「現金が出ていかない経費」というのも存在しますので、実際には黒字額よりも手持ち現金のほうが多くなる場合がほとんどです。

 

しかしながら、現実の資金繰りはそう上手くはいきません。

 

資金の流出が黒字で増加した資金を上回ってしまい、最終的には資金が足りなくなり(資金ショート)倒産してしまうのが黒字倒産の仕組みなのです。

決算書の「黒字」と資金繰りは必ずしも一致しない

会社の利益以外にも資金繰りに影響を及ぼす要素(支払サイクルや借入金返済など)があることを具体例とともに提示し、黒字企業が資金ショートを起こすまで過程と原因を明らかにする。

 

では「資金の流出が黒字で増加した資金を上回る」とは、どんな場合なのでしょうか?

 

具体的な例をいくつか列挙していきます。

1. 売上の入金よりも仕入の支払いが先行する場合

全ての取引が現金決済であれば別ですが、通常、会社が取引をする際には「掛売り」「掛買い」を使います。掛売りの入金と掛買いのサイクルが一致しない場合もあります。

 

例)商品50万円を掛買いで仕入れ、100万円で掛売りした。なお、掛代金の支払いは翌月、入金は翌々月である。

 

(当月)

貸方 金額 借方 金額
仕入 50万円 買掛金 50万円
売掛金 100万円 売上 100万円

 

現金の増減なし、損益+50万円

 

(翌月)

貸方 金額 借方 金額
買掛金 50万円 現金 50万円

 

売掛金の入金なし、現金▲50万円

 

(翌々月)

貸方 金額 借方 金額
現金 100万円 売掛金 100万円

 

買掛金の支払いなし、現金+100万円

 

このように、翌々月になれば手持ち現金は100万円-50万円=50万円増加しますが、問題は翌月から翌々月までの間、現金が50万円減少したまま経営しなければならない点です。

 

極端な話ですが、仮に当月の手持ち現金が0円でスタートした場合、翌月の買掛金の支払いができなくなります。

支払猶予もしてもらえず銀行融資も受けられないという状況であれば、黒字にもかかわらず資金ショートします。

2. 借入金の返済がある場合

黒字なのになぜ資金繰りが圧迫されるのか?と悩んでいる方のなかには、根本的な問題として「支払=経費」と認識しているケースが少なくありません。

 

借入金利息の支払いは経費となりますが、元金部分の支払いは負債の減少であり「経費」とはなりません。

 

例)銀行借入の返済をした

貸方 金額 借方 金額
借入金 100万円 現金 100万円

 

経費0円、負債100万円の減少

貸方 金額 借方 金額
支払利息 5万円 現金 5万円

 

経費5万円、負債の減少なし

 

経費は5万円しか発生していないにもかかわらず、現金は105万円も流出しています。

 

 

つまり、借入金の返済は損益に与える影響よりも、手持ち現金、すなわち資金繰りに与える影響のほうが大きいのです。

 

返済額が黒字額を超えてしまうと当然手持ち資金は溶けていきます。「黒字なのに資金繰りが厳しい」と感じる場合、この借入金の返済元金部分を忘れている可能性があります。

3. 消費税の納税

消費税の課税事業者であれば、売上の請求をする際に「消費税」を上乗せして請求しているのではないでしょうか。

 

得意先から入金となる売上代金には消費税が含まれますが、受け取った消費税はあくまで「預かった税金」です。

 

消費税の納税額は原則として「預かった消費税から支払った消費税を差し引きした金額」で計算されますので、納税額分は別段預金として資金繰りとは別に管理すべきものです。

 

しかし、計画を立てる際にこの「消費税」まで資金繰りに組み込んでしまうケースがあります。

 

これにより、決算後の納税の段階で納税資金が手元に残っておらず、資金ショートする可能性があります。

 

このように、決算書の黒字が必ずしも資金繰りの好転につながらない最大の原因は「資産負債」にあります。

 

会計帳簿は「複式簿記」で作成し、会社の「損益」と「資産負債」を連動して管理する手法で、経営状況(損益)と財産状況(資産負債)が同時に把握可能です。

 

会社の損益は経営状況(損益)で表されるのに対し、資金繰りは財産状況(資産負債)の部分に左右されます。

つまり、比較する対象が異なりますので必ずしも一致するとは限らないのです。

資金繰りの第一歩は「キャッシュフロー」の理解から

「キャッシュフロー」とは何か?

黒字なのに倒産するというこの数字のマジックから会社を守るにはどうすればよいのでしょうか。

 

ここで資金繰り計画を立てる上で欠かせないのが「キャッシュフロー計算」です。

 

通常、決算書を作成する際に着眼するのは会社の「損益」ですが、キャッシュフローでは「手持ち現金」を中心に考えます。

 

詳細については割愛しますが、損益だけではなく資産負債の増減も加味することで、会社の現金がどのような原因で増減したのかを読み解けます。

 

資金繰りが厳しいという方は、キャッシュフロー計算をすれば、黒字で稼いだ手持ち現金がどこに消えてしまったのかを把握できるはずです。

「キャッシュフロー」から分かる会社の経営状況

キャッシュフローは大きく分類して3つの項目に分かれています。

 

  • 営業キャッシュフロー
    損益や入金、支払も含めた営業状況を表し、売掛金の回収遅れや過剰在庫により運転資金が眠ってしまった場合にマイナスとなります。
  • 投資キャッシュフロー
    設備投資の状況を表し、新規設備投資に資金を投下した場合にマイナスとなります。
  • 財務キャッシュフロー
    銀行借入の状況を表し、新規借入より元金返済のほうが多い場合にマイナスとなります。

 

黒字倒産が起こる企業はこれらのうち「営業キャッシュフロー」や「財務キャッシュフロー」が常態的にマイナスとなっていることが多く、また過剰な設備投資により「投資キャッシュフロー」のマイナスが資金繰りに悪影響を及ぼすというケースも考えられます。

「黒字倒産」しないための対処方法

「資金繰り計画」の重要性

キャッシュフローの考え方をマスターしたら次に作成するのが「資金繰り計画表」です。

キャッシュフロー計算は、ある時点でのキャッシュの増減を分析するものですが、「資金繰り計画表」はこのキャッシュフロー計算をある一定期間内で連続して作成します。

 

これにより、会社の資金が将来のどの時点でショートするか?どの時点で潤沢になるのか?を流れで把握できます。

 

必要な計画は「短期」と「中長期」の2種類

計画表を立てる際には必ず「短期資金繰り表」と「中長期資金繰り表」の2種類を作成するべきです。

 

「短期資金繰り表」は、概ね向こう1年間の資金繰りを計画するもので、主なところでは「営業キャッシュフロー」に対する分析が目的です。

 

「長期資金繰り表」は、概ね3年間ないし5年間の資金繰りを計画するもので、主なところでは「投資キャッシュフロー」「財務キャッシュフロー」の分析が目的です。

まとめ

企業を成長させていく過程では、設備投資や試験研究への投資、人材投資などに多額の資金を投入しなければならない時期もあります。銀行から融資を受ける必要に迫られる場合もあるでしょう。資金投入は将来の事業拡大のために欠かせないものではありますが、「今」があっての将来です。利益が出ているからと、性急な投資に走ってしまう前に、自社に「黒字倒産」のリスクが潜んでいないか、再度の検討をおすすめします。

奥谷佳子
Webライター/ライター フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。 自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。 取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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