フリーランスとして働いていて、所得税額に頭を悩ませたことのある方は多いと思います。所得税を減らす方法はいくつかありますが、本記事では、その中でもフリーランスの方が利用できる所得控除について解説します。
所得控除とは
所得控除とは、課税の対象となる所得金額を減らし、所得税額を減らすことができる制度です。所得税の額は、大まかに言うと「(所得金額-所得控除額)×所得税率-税額控除額」という計算式によって求められます。この式から分かるように、所得税率が掛けられるのは、実際の収入金額から経費等を差し引いた所得金額から、さらに所得控除額を引いた額です。つまり、所得控除によって所得税が課せられる課税所得金額を減らすことができ、結果として払わなくてはならない所得税額も減らすことができるのです。
詳しくは下記で説明しますが、所得控除には14もの種類があります。このように多様な控除を用意することの政策的意義は、納税者が個々の事情により実質的に使える金額が減り担税力が落ちてしまっている場合などに、所得控除による補助によって担税力の差を調整し、最低生活水準を維持することが可能になるという点にあります。納税者としては、各々に適した所得控除を用いることによって節税ができるというメリットがあります。
14種類の所得控除
所得控除には、次の14種類があります。
基礎控除
誰でも一律に適用される所得控除です。
控除金額は38万円です。
雑損控除
災害、盗難、もしくは横領によって、納税者または納税者と生計を同じくする配偶者や親族で総所得金額が38万円以下の者が所有する資産に損害を受けた場合などに受けられる所得控除です。
控除金額は、以下のいずれかの多い方の金額になります。
- 差引損失額-総所得金額×10%
- 差引損失額のうち災害関連支出の金額-5万円
なお、差引損失額は「損害金額+災害等に関連したやむを得ない支出の金額-保険金などにより補填される金額」によって求めます。
医療費控除
その年の1月1日から12月31日までに、納税者自身または納税者と生計を同じくする配偶者や親族のために支払った医療費が、一定金額を超える場合に受けられる所得控除です。事故や病気などで医療費がかさんだ場合は、ぜひ検討してみましょう。
控除金額は、以下の通りです。
- 実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補填される金額-10万円
ただし、その年の総所得金額が200万円未満の場合は、10万円の代わりに総所得金額の5%が差し引かれます。
社会保険料控除
納税者自身または納税者と生計を同じくする配偶者や親族の社会保険料を支払った場合に受けられる所得控除です。よく利用される所得控除です。
控除金額は、その年に実際に支払った金額、または、給与や公的年金などから差し引かれた金額の全額です。
小規模企業共済等掛金控除
納税者が、小規模企業共済法に規定された共済契約に基づく掛金などを支払った場合に受けられる所得控除です。
控除金額は、その年に実際に支払った掛金の全額です。
生命保険料控除
納税者が、生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に受けられる所得控除です。こちらもよく利用される所得控除です。
控除金額は最高12万円で、年間支払保険料の金額によって決まります。2012年1月1日以後に締結した保険契約と、それ以前に締結した保険契約では、それぞれ異なる計算式が適用されます。詳しくは国税局ウェブサイトをご覧ください。
地震保険料控除
納税者が特定の損害保険契約などにおいて地震等損害部分の保険料または掛金を支払った場合に受けられる所得控除です。また、2007年の地震保険料控除の新設と同時に、損害保険料控除が廃止されました。その経過措置として、2006年12月31日までに締結し、以後契約変更をしておらず、満期返戻金などがあり保険期間または共済期間が10年以上である長期損害保険の保険料も、地震保険料控除の対象とすることができます。
控除金額は、地震保険料の場合、最高5万円までの支払った保険料の全額です。長期損害保険の場合は最高15,000円で、支払った保険料により変化します。どちらも支払っている場合は両者の控除金額を足しますが、最高額は5万円のままです。詳しくは国税局ウェブサイトをご覧ください。
寄附金控除
納税者が、国や地方公共団体、特定公益増進法人などに対して特定寄附金を支出した場合に受けることができる所得控除です。特定寄附金とは、国や地方公共団体に対する寄附金、または、公益社団法人や公益財団法人に対する寄附金のうち、広く一般募集され、教育や科学、文化向上などに役に立てられると財務大臣が認定したものなどを指します。詳しくは国税局ウェブページをご覧ください。なお、近年話題のふるさと納税も対象となりますので、検討してみましょう。
控除金額は、以下のいずれかの低い方の金額から2,000円を引いた額です。
- その年に支出した特定寄附金の合計額
- その年の総所得金額等の40%相当額
障害者控除
納税者自身または納税者と生計を同じくする配偶者、扶養親族が所得税法上の障害者にあてはまる場合に受けられる所得控除です。
控除金額は、障害者にあてはまる場合は27万円、特別障害者にあてはまる場合は40万円、同居特別障害者にあてはまる場合は75万円です。なお、同居特別障害者とは、特別障害者にあてはまる方のうち、納税者自身または納税者と生計を同じくする配偶者、親族との同居を常としている方を指します。
寡婦・寡夫控除
納税者自身が、寡婦または寡夫である場合に受けられる所得控除です。寡婦・寡夫の条件についての詳細は、国税局ウェブサイトをご覧ください。
控除金額は、一般の寡婦の場合は27万円、特別の寡婦の場合は35万円、寡夫の場合は27万円です。
勤労学生控除
納税者自身が、勤労学生である場合に受けられる所得控除です。勤労学生とは、給与所得などの勤労による所得があり、その合計所得金額が65万円以下で、勤労以外の所得が10万円以下であり、特定の学校の学生である方を指します。特定の学校にあてはまるかどうかは、学校の窓口で確認することができます。
控除金額は、27万円です。
扶養控除
納税者に、所得税法上の控除対象扶養親族となる人がいる場合に受けられる所得控除です。控除対象扶養親族とは、以下の全てにあてはまる方です。
- 配偶者以外の親族、または、養育を委託された児童、養護を委託された老人であること
- 納税者と生計を同じくすること
- 年間の合計所得金額が38万円以下であること
- 青色申告者の事業専従者としてその年一度も給与を得てないこと、または、白色申告者の事業専従者でないこと
所得金額の条件に注意しながら、利用するようにしましょう。
控除金額は、その年の12月31日時点で16歳以上の扶養親族については38万円、19歳以上23歳未満の特定扶養親族については63万円です。また、70歳以上の扶養親族がいるとき、納税者またはその配偶者の父母や祖父母などが納税者またはその配偶者と普段同居している場合は58万円、それ以外の場合は48万円となります。
配偶者控除
納税者に、所得税法上の控除対象配偶者となる人がいる場合に受けられる所得控除です。控除対象配偶者とは、以下の全てにあてはまる方です。
- 民法の規定による配偶者であること
- 納税者と生計を同じくすること
- 年間の合計所得金額が38万円以下であること
- 青色申告者の事業専従者としてその年一度も給与を得てないこと、または、白色申告者の事業専従者でないこと
控除金額は納税者本人の合計所得金額により変化し、最高38万円です。ただし、配偶者がその年の12月31日時点で70歳以上の場合は、最高48万円になります。
配偶者特別控除
配偶者に38万円を超える所得があり配偶者控除が受けられない場合に、一定の条件を満たせば受けられる所得控除です。一定の条件とは、納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下であり、配偶者が以下の要件を全て満たしていることです。
- 民法の規定による配偶者であること
- 納税者と生計を同じくすること
- 1年間の合計所得金額が38万円超123万円以下であること
- 青色申告者の事業専従者としてその年一度も給与を得てないこと、または、白色申告者の事業専従者でないこと
- 納税者について配偶者特別控除を適用していないこと
控除金額は、納税者本人の合計所得金額および配偶者の合計所得金額により変化し、最高38万円です。
所得控除に関連する制度
これまで説明してきた所得控除に関連して、混同しがちな制度、お得な節税となる制度があるので確認しておきましょう。
紛らわしい制度「税額控除」
税額控除も所得税を節税する制度ですが、所得控除とは似て非なるものなので、両者の違いを説明します。
所得税額の求め方は、「(所得金額-所得控除額)×所得税率-税額控除額」と最初に確認しました。この式にあるように所得控除と税額控除では、控除額を差し引くタイミングが異なります。所得控除は所得税率を掛ける前に差し引くのに対し、税額控除は税率を掛けた後に差し引くため、控除額がそのまま節税額となります。
税額控除にも様々な種類があり、主なものとして配当控除や政党等寄附金特別控除などが挙げられます。
お得な節税方法「iDeCo」
iDeCo(イデコ)は、個人型確定拠出年金と呼ばれる年金制度です。加入者が掛金として毎月一定金額を積み立て、金融商品による運用を行い、60歳以降に年金または一時金で受け取るというものです。iDeCoは上記の小規模企業共済等掛金控除の対象となるため、iDeCoの掛金として拠出した金額の分だけ所得控除できることになります。したがって、iDeCoを上手に利用することで、将来への備えと節税対策を同時に行うことが可能です。
まとめ
今回は、所得控除について説明してきました。ご自身の状況にあてはまる所得控除を適切に受けることによって、所得税の額を減らすことができます。これを機に、もう一度所得税の計算を見直してみてはいかがでしょうか。あわせて、税額控除に関しても検討することをおすすめします。