企業経営者なら誰もが「節税」について一度は調べたことがあるでしょう。しかし「どこまで経費に計上できるのか」など、実際のところはよく理解できておらず困っているというケースをよく耳にします。今回はそんな疑問に答えるべく、節税についてゼロから解説いたします。
節税にあたっての注意
税理士などの専門家への相談
節税を考えるにあたって、税理士などの専門家への相談は必要不可欠です。節税を適切に行うためには、少し調べただけの生半可な知識では対応できないようなことも出てきます。そのような判断が難しい局面でも、税理士に相談することで正しい対応を取ることができるようになり、また、それまで社内では気がつかなかった視点からのアドバイスをもらうことも期待できます。節税は適切に行わなければ法律に違反してしまう恐れがあり、最悪の場合は罰則を科されることにもなりかねません。税理士の意見を聞いてから節税を行うことで、安心して取り組むことができるようになるでしょう。
違法性のある節税には要注意
そもそも節税とは、非課税制度や控除制度などを利用して法律の範囲内で税負担を減らすための取り組みであり、違法性のある行為によって課税額を減少させようとする「脱税」とは明確に区別されます。法の範囲を超えて脱税となってしまわないよう節度を保つことはもちろん、知らないうちに違法行為を行なってしまっていたということにならないためにも、専門家の意見を仰いだ上で取り組む必要があります。
節税は、その内容によって以下の3種類に分けることができます。
- 今期の納税額の一部を繰り延べ、次期以降に先送りするもの
- 政策的配慮に基づく制度や税率構造の違いなどを利用して、実際に支払うべき税金の額を減少させるもの
- 法の抜け穴や解釈上の矛盾点を突くことで納税額を減らすもの
このうち、3点目の法の抜け穴や矛盾点を突くものは「租税回避」とも呼ばれ、正確には節税とは呼べません。そうした手法は法律が改正されればすぐに効果がなくなってしまうため、いたちごっこになりがちです。租税回避を続けるために本来別の部分に充てるべき資金を使うなどしていると、資金繰りを圧迫してしまう可能性もありますので注意が必要です。
節税のための経費が節税額を上回らないように注意
節税の分類は他にも、その取り組みにおいてキャッシュを投資する必要性の有無という観点から行うことが可能です。キャッシュの投資を伴わない節税は、本来注力するべき事業活動にも十分な資金を投入できますので十分な効果が見込めます。他方、キャッシュの投資が必要な節税では、支出が節税額を上回ってしまう可能性があります。そうなってしまっては本末転倒ですので、あらかじめ必要経費と節税額を見積もっておくことが必要です。
必要経費と節税
ここからは、経費計上に関連する具体的な節税方法について解説していきます。
出張日当
最初に挙げられるのは、出張日当に関する制度を整えることです。出張日当とは、出張に伴って発生する雑費を補填するために支給される手当です。「出張旅費規定」と呼ばれる規定を作成し制度を整えることで、出張手当を経費として計上することができます。出張日当は実費ではなく決まった額が支給されるため、実費精算の手間を省くことができます。また、従業員が出張時に節約して雑費を減らすことで実質的に手取りが増えたとしても、出張日当は給与所得として扱われないため、その分は所得税の課税対象にならないというメリットもあります。
出張旅費規定を作成する際には、出張日当を適切な額に設定することが必要です。支給額が法律で定められているわけではありませんが、同業他社の設定額などを参考に適切かどうかが判断されます。また、税務署に対してカラ出張がないことを示せるよう、出張の記録はその都度残しておくことも必要です。
未払い費用の年度内の計上
2点目は、未払い費用を年度内に計上することです。未払い費用とは、家賃や水道光熱費、保険料、給料などの継続的な費用のうち、すでにサービスは受けたがまだ支払いが済んでいない分のものを指します。
月末締め翌月払いの給料を例に見てみましょう。年度の末月の場合、年度内に発生した給料という費用を実際に支払うのは翌年度になってからですが、このような未払い費用は、年度内に支払いが済んでいなかったとしても、その年度の費用として損金に参入することが認められています。
このように未払い費用を年度内に計上した場合、翌年度にはその分の損金計上ができないため、結果的には税金の支払いを先延ばししているに過ぎないという点を押さえておく必要があります。とは言え、支払いまでの期間が長くなった方が資金繰りの面ではプラスに働きますし、追加のキャッシュを必要とせずに行えますので、有効な施策ではあります。
不良債権の経費計上
3点目は、不良債権を貸倒損失として経費計上することです。売掛金や受取手形の回収が難しくなり不良債権化した場合、費用として計上することで節税が可能です。その際には以下の3つの条件のうちどれかひとつを満たしている必要があります。
- 会社更生法や民事再生法などにより、金銭債権が法律上切り捨てられた場合
- 相手先の死亡・失踪・行方不明などにより、債権の全額が回収不能となった場合
- 一定期間取引停止後弁済がない場合等
減価償却資産の中古品購入
最後に挙げられるのが、減価償却資産を中古品で購入することです。減価償却資産は、法定耐用年数を基準にし、複数年にわたって損金に参入します。中古品は新品と比べて法定耐用年数が短いことから1年あたりに計上できる減価償却費が大きくなるため、節税効果があります。ただし、節税のために不必要な減価償却資産を購入することは本末転倒ですので、このような節税は会社にとって本当に必要な資産に関してのみ行うべきであるという点は認識しておきましょう。
事前確定届出給与制度による役員賞与の損金算入
役員への給与は、通常の従業員に対する給与と同様に、費用として計上することができます。それに対し、役員に対する賞与は、その年度の利益を少なく見せることに利用される可能性があるため、原則として損金参入が認められていません。しかし、事前確定届出給与制度を利用することで、役員への賞与も損金算入が可能になります。役員への賞与の金額とその支給日を、株主総会で支給の条件を決議してから1ヶ月以内、かつ、会計年度が始まってから4ヶ月以内に届け出た上で、その内容通りに賞与を支給した場合に、損金参入が認められます。臨時株主総会等で適正な手順を経る必要があるため、この点は特に注意してください。
まとめ
今回は節税の注意点や代表的な方法などについて解説してきました。この機会に自社の節税について見直してみてはいかがでしょうか。