お金の発行枚数は財務省や日本銀行が決めていますが、何をもとに発行枚数を決めているのでしょうか。また、新型コロナウイルスの影響で、お金の発行枚数に影響はあるのでしょうか。
今回は1円玉や5円玉といった貨幣(硬貨)を中心に、お金の発行枚数と社会のかかわりについて見ていきます。
そもそもお金(硬貨)の発行枚数はどこが決める?
ご存じのとおり、日本の「お金」には貨幣(硬貨)と紙幣があります。貨幣の発行者は財務省ですが、紙幣は「日本銀行券」と書かれていることからもわかるように、日本銀行(日銀)が発行者です。
財務省は貨幣の流通状況などを踏まえ、年度ごとに製造する貨幣の枚数を決め、造幣局が製造を行います。造幣局で製造された貨幣は財務省を経由して日銀に納められ、ここで初めて「貨幣が発行された」ことになります。
つまり、造幣局で製造された時点では、厳密には通貨としての役割を持っておらず、日銀に納められた時点で通貨となるのです。なお、貨幣は流通状況などにより、年度の途中で製造枚数が改定されます。
一方、紙幣は財務省の計画に基づいて日銀が国立印刷局に発注し、国立印刷局が製造します。国立印刷局から日銀に納められた紙幣は、各金融機関が日銀に持っている当座預金を引き出すことで紙幣を受け取った時点で、「日本銀行券」として発行されたことになります。
現在、日本では1円玉から500円玉まで6種類の硬貨が発行されていますが、いちばん多くの枚数が発行されているのは1円玉です。1955(昭和30)年の発行開始以来、2019(令和元)年までの間に443億2,897万9000枚発行されています。
昭和30年代は1円玉の発行枚数は毎年3~7億枚で推移していますが、40~50年代に入ると、「何年か連続して10数億枚発行しては、発行枚数10億枚未満の年が続く」といった流れを繰り返します。財務省が流通状況を踏まえて発行枚数を調整している様子がうかがえます。その後、平成になると元年~7年まで発行枚数が激増します。
消費税導入時はお金の発行数が変化した
平成元年~7年にかけて、1円玉の発行枚数は大幅に増えています。その原因は消費税にあります。消費税が導入された1989(昭和64・平成元)年度、金融機関や小売業者の間で釣銭として使われる1円玉が不足したため、財務省は発行枚数をこれまでにない規模で増やしました。
1989年度に発行した1円玉は約24億8,300万枚に上り、1990年度と1991年度の1円玉発行枚数はそれぞれ27億超、23億超となっています。消費税導入前、数年に一度10数億枚発行される年はありましたが、20億枚を超える枚数が発行されたことはありませんでした。
1992(平成4)年度以降、1円玉の発行枚数は10億枚前後に落ち着き、消費税率が5%に引き上げられた1997(平成9)年度には約7億8,300万枚が発行されました。しかし、1999(平成11)年度以降は1億枚を割りこむ年も増え、2013(平成25)年度にはわずか55万4,000枚まで減少しました。2011~2013年に発行された1円玉は「ミントセット」とよばれる6種類の貨幣セットにすべて組み込まれており、通常の流通用とは異なる形態です。
ところが、2014(平成26)年度には約1億2,400万枚の1円玉が発行されました。この年に消費税率が8%になったことが、影響していると考えられます。このあと、1円玉の発行枚数は再び50万枚前後にまで激減します。
その後、2019(平成30・令和元)年度には消費税率が10%に引き上げられ、1円玉の発行枚数は大幅に増えましたが、約106万8000枚にとどまりました。これは、クレジットカードや電子マネーなどが広く普及し、貨幣そのものの需要が大きく減ったことがおもな要因と思われます。
一方、5円玉の発行枚数の推移を見ると、平成元年から令和元年までの中でいちばん発行枚数が多いのは、やはり消費税が導入された1989(平成元)年の約9億6,000万枚です。2003(平成15)年以降は1億枚を下回り、数百万枚という年が多くなりますが、消費税率が8%になったことを受けて2014(平成26)年は約8,750万枚、2015(平成27)年は約1億500万枚と大幅に発行枚数が増えました。
消費税率が10%に引き上げられた2019年度の発行枚数は、3752万枚にとどまっており、1円玉同様、消費税の増税による影響は以前よりも小さくなっています。
新型コロナウイルスがお金の発行に与えた影響とは
新型コロナウイルスの感染拡大は世界中の経済に多大な影響を与えました。貨幣の発行にも直接的ではありませんが、影響を及ぼしています。
新500円硬貨の発行が延期になった
2021(令和3)年4~9月に予定されていた新500円硬貨の発行が、新型コロナウイルスの影響で延期されることになりました。
新500円硬貨には、従来のニッケル黄銅に白銅・銅を加えて2色3層構造を採用し、縁に入っている斜めギザの一部を異なる形状とするなど、新たな偽造防止技術が盛り込まれることになっています。
ATMや駅の券売機などで新500円硬貨を使えるようにするには、ATMなどの機器に新しい500円硬貨を本物であると認識させるための改修作業が必要となります。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で機器改修のための作業が遅れているため、発行を延期することになったのです。
都内にある機器メーカーの改修担当者が、緊急事態宣言による移動の制限を受けて設置先に移動できなかったり、ユーザーが大人数での作業を敬遠したりして、改修作業が思うように進まないという事情があるようです。
消費税導入や税率アップのときのように、流通量の増加によって貨幣の製造枚数を調整することはこれまでありましたが、感染症が貨幣の発行に影響を及ぼすのは異例のことです。財務省は今後、ATMなどの改修作業の進捗状況を見極めたうえで、新500円硬貨の発行時期を決めるとしています。
なお、一万円札と五千円札、千円札も新500円硬貨と同様、新たな偽造防止技術を導入した新デザインを導入することが、2019(平成31)年に発表されていました。紙幣は2024年4~9月をめどに導入が予定されていますが、現時点では延期などの変更はないということです。
令和2年や令和3年の発行数は減少すると予想される
ここ数年、スマートフォンの普及とともに、電子マネーが利用できる場所・利用者ともに増加しています。新型コロナウイルス感染症を受け、金銭の受け渡しも非接触が推奨されるため、日々の買い物ではさらなるキャッシュレス化が進行すると考えられます。
財務省は2020年度の貨幣製造計画について、同年4月1日時点では1円玉100万枚、5円玉2,000万枚、10円玉3億6,000万枚としていましたが、2021年2月5日時点では1円玉71万2,000枚、10円玉2億9,800万枚に改定しました(5円玉は改定なし)。新型コロナウイルスの影響が長期化すれば、財務省はキャッシュレス化の広がりを踏まえ、2021(令和3年度)の発行枚数をさらに減らすことが予想されます。
まとめ
財務省は、貨幣の流通状況や税制、社会情勢などを勘案しながら貨幣の発行枚数を決定します。過去には消費税の導入や増税を背景に、1円玉や5円玉の発行枚数を大幅に増やしたことがあります。
近年は、キャッシュレス化の進行により、貨幣そのものの発行枚数が減少傾向にあります。新型コロナウイルスの感染拡大により、キャッシュレス化はさらに浸透すると考えられ、財務省は貨幣の発行枚数をさらに抑えると考えられます。
貨幣の製造計画は財務省のホームページ、製造枚数は造幣局のホームページでそれぞれ公開されています。社会の動きを照らし合わせながら、製造枚数の推移を見ていくと興味深いものがあります。興味のある方はぜひのぞいてみてはいかがでしょうか。
▼参考サイト
- https://www.mint.go.jp/faq-list/faq_coin#faq6
- https://www.mint.go.jp/media/2020/02/nenmeibetsuH31.R1.pdf
- 『日本貨幣カタログ2021』P.37
- https://www.mof.go.jp/currency/bill/20190409.html
- https://www.mof.go.jp/currency/coin/commemorative_coin/postal_150/20210122.html
- https://www.sankeibiz.jp/macro/news/210205/mca2102050600001-n1.htm
- https://www.mof.go.jp/currency/coin/lot/2020kaheikeikaku-kaitei-1.html