面倒をみるのが難しくなった高齢の親を、介護施設などに入れて一安心。ただし、それで「子どもの仕事」が終わったわけではありません。例えば、大半の施設では、入居に当たって「身元保証人」を求められます。「それくらいは、子の役目だから」と引き受けるのは簡単ですが、あなたはその責務をご存知でしょうか? 安易に考えていたためにピンチを招いた事例から、紹介しましょう。
「長男が保証人になるのは、当たり前」
首都圏近郊の大規模マンションに、妻と子ども2人で暮らすAさん。ともに80代の両親は、群馬県の実家に暮らしていましたが、父親が転倒して大腿骨を骨折し、車椅子生活になってしまいました。もともとあまり体力のない母親が日常的な介助を行うのは困難なため、やはり結婚して家を出ていた姉と相談し、父親には実家に近い老人ホームに入居してもらうことにしました。
その際、施設から求められたのが、父親の「身元保証人」でした。施設への入居に保証人が必要なのだということを初めて知ったAさんでしたが、「自分は長男なのだから」と、深く考えずに署名しました。荷物の整理や引っ越しの手続きなどは、パート勤務で比較的時間に余裕のある姉に任せ、つつがなく父親を入居させることができたのでした。
ところが、一仕事終えた気持ちになっていたAさんは、すぐに思わぬ事態に見舞われることになります。施設から、「車椅子から立ち上がる時に軽く転倒したのですが、応急措置をして問題ありませんでした」「昼食はパンをご希望でしたが、ご飯になってしまいました」といった電話連絡が、仕事中も昼夜を問わず入るようになったのです。
父が入居する施設からの電話ですから、何かあったのかと思うと、無視することはできません。「そんなことでいちいち電話するな」と怒るわけにもいかない。ちょうど子どもの受験を控え、仕事も多忙だったAさんには、次第にストレスがたまり、家族に当たったり、父親に対して強い口調になったり、という精神状態になっていました。
保証人には「やるべきこと」もある
Aさんの負担は、施設からの電話連絡だけではありませんでした。その後、介護保険の更新、介護度の区分変更(※1)など、実家との往復も余儀なくされるような「実務」が、次々とその肩にのしかかってきたのです。「介護初心者」にとって、どれもこれもがまったく想定外のこと。やがて、ストレスは限界を超え、急性胃炎を発症したAさんが、救急車で運ばれる「事件」が起きました。
これでは心身が持たないと悟ったAさんは、姉に保証人を代わってもらいたいと話し、承諾を得ます。父親が入居してから、まだ1年も経っていませんでした。
「自分は長男だから」と当然のように引き受けた身元保証人でしたが、ここまで大変だったとは。契約の際にその仕事についてきちんと確認し、姉とじっくり話し合っておけばよかった、というのがAさんの反省です。
軽度から順に「要支援1~2、要介護1~5」までの区分があり、それぞれによって受けられるサービスに違いがある。
「身元保証人」に法的根拠はない!?
このように、高齢者が介護施設などに入ろうとすると、通常、入居費用だけでなく「身元保証人」「身元引受人」などが求められますが、そのこと自体をご存じない方も多いようです。普通は子どもなどの親族がその役目を担うわけですが、事例で紹介した通り、けっこう大きな負担を強いられることもあります。
施設側には、もし介護事故が発生した場合には、利用者の家族と市町村に報告などを行うとともに、「必要な処置を講じなければならない」ことが義務付けられています(厚労省省令)。そのため、リスクヘッジの意味もあって、施設によっては、「ここ2~3日、食欲がない」といったことまで、保証人に「通知」することになります。
ただし、こうした施設入居者の保証人について、法的な規定は存在しません。そのため、あとで紹介するインタビューにもあるように、その資格や求められる責務については、施設ごとにバラバラなのが現実なのです。中には保証人自体不要な施設もあれば、問題が起きた時の対応に、かなりの責任を負わされるケースもあるわけです。
一般的に身元保証人に求められることには、以下のようなものがあります。
- 入退去時の手続き
- 緊急時の連絡先
- 年金や保険などの行政関係の手続き
- 施設利用料などの支払いが滞った時の債務履行の連帯保証
- 死亡時の遺体・遺品の引き取り
また、本人が認知症を発症したり、判断能力が低下したりしている場合には、医療機関で治療を受ける際の治療方針や、施設のケアプランなどの判断も求められることになるでしょう。
そもそも「身元保証人」がいなかったら? ~「東京シルバーライフ協会」~
とはいえ、多少の負担をかけるとはいえ、身元保証人になってくれる子どもなどがいる人は、幸せとも言えます。そうでない“おひとりさま”などは、保証人が立てられないばかりに希望する施設に入れない、といったこともあり得るのです。
例えば、連帯保証の範囲が月額利用料6か月分という内容だったとしても、月に20万円ならば、120万円を弁済しなくてはなりません。そういうリスクを孕んだ保証人に、遠い親戚が二の足を踏むのは、ある意味当然と言えます。
適した保証人が見つからないばかりに介護施設などに入居できない、受け入れられないというのは、高齢者と施設双方にとって困ったこと。そんな状況を打開する存在が、「身元保証会社」です。その名の通り、親族などに代わって、施設入居の際の保証人になってくれるのです。
その中の1つ「東京シルバーライフ協会」(東京都千代田区)を紹介しましょう。司法書士や行政書士士、税理士、土地家屋調査士などの国家資格者が在籍するベストファームグループが設立した高齢者支援のための法人で、身元保証だけでなく、認知症などに備えた「任意後見」(※2)、死亡診断書の手配や身柄引き取りといった死後事務まで、サポートを行います。
■高橋卓也・東京本店マネージャーに話をうかがいました
高齢者施設の入居に身元保証人が必要だということは、意外に知られていないように思います。法律に保証人の規定がないのも、その理由でしょう。
病院の場合、保証人の不在を理由に治療を拒んだりする行為は医師法に抵触する、という通知が、2018年に厚労省から出されました。しかし、結果的に治療の費用を払ってもらえないような事例も生まれていて、医師会などで問題になっています。
高齢者施設にも同様のことが言えるので、大半の施設では、入居に当たっては保証人が必須。ただ、その「定義」は、施設ごとに違うのが現実です。例えば、「近隣に住む親族」に限定するところがあれば、「親族であれば、どこにいてもOK」の場合もあります。「金銭的な連帯保証は不要なので、入居者に何かあった時にはすぐに来て対応してもらいたい」という施設がある一方、「ケアはこちらに任せてもらって大丈夫だから、お金のことだけはお願いします」という施設もあるわけです。
つまり、「それぞれの契約書に書かれていることを遂行可能な人」が、その施設の保証人として認められる、ということになるでしょう。ですから、後々「こんなはずでは」とならないように、入居前にしっかり契約書の内容を読み、疑問点などは施設側に確認しておくのがいいと思います。
当社の身元保証サービスを利用されている方のうち、9割はお子さまがいらっしゃらないケースで、残りはお子さま含めご親族が遠方にお住まいだったりする方です。利用者の方には、後見契約や死後事務まで頼めて安心した、とよくおっしゃっていただきます。心身ともにしっかりしたうちにご契約いただければ、その方にとってのご存命時における「終活」はほぼ完了できる、と自負しています。
精神上の障害により、判断能力の十分でない人が不利益を被らないよう、家庭裁判所が選任する成年後見人が、財産管理や身上監護を行う制度。家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見制度」と、本人との契約により後見人が選ばれる「任意後見制度」の2種類がある。
まとめ
介護施設などに入居する際には、通常、入居者の身元保証人が必要で、その資格、要件は、施設ごとに違います。親などの保証人になる場合には、果たして自分にその責務が果たせるのか、事前にしっかり確認しましょう。