さきごろ、介護保険の申請に関する、とても気になる報道がありました。「介護度」が進んだと判断される場合に提出される区分変更の申請件数が全国的に急増し、そのことに新型コロナウイルス感染症に伴う高齢者の「引きこもり」が影響しているのではないか、というのです。高齢者のウイルス感染も問題ですが、これが事実だとすると、感染症が別の「病」を深刻化させていることになります。
区分変更も新規申請件数も増加
調査は、時事通信が、都道府県庁所在市、政令指定都市52市区を対象に行ったものです。要介護認定の区分変更申請や新規申請件数などについて聞き取りで調べ、最初の緊急事態宣言が出された2020年4月から同年11月までの実数を、「コロナ前」の19年の同時期と比較しました。
結果は、新型コロナの影響を色濃く疑わせるものでした。区分変更申請件数は、宣言発令中の20年4~5月は前年実績を下回っていたものの、6月に前年同月比18%近い伸びとなり、特に9月(同21.7%増)、10月(同23.3%)は「2割越え」を記録したのです。
新規申請件数も、ほぼ同様の傾向。6月になって急増したことについて、現場では当初、「緊急事態宣言による外出自粛などで申請を控えた反動」という見方もあったようですが、それだと秋の大幅増加の説明がつきません。「自然増ではあり得ない」(自治体担当者)と分析するのが、正しいようです。
「体力や認知機能が低下」
注目すべきは、自由記述による自治体の回答で、「(コロナで)通所リハビリや短期入所の利用が落ちている」「申請理由に『利用控えによる機能低下』との記述が散見される」「家族が帰省できず対応や支援が遅れがちになっている」――といった声が寄せられたそうです。
介護保険による介護は、下肢筋力低下による歩行困難などの身体機能低下や、認知症などによる精神障害で、日常生活の一部または全面に介助を必要としている人が対象になります。その区分変更申請などの増加がコロナに起因するとしたら、まさに由々しき事態と言わざるを得ません。
新型コロナの終息は見通せておらず、今後も感染を恐れるあまり高齢者が「外出自粛」を続ければ、そうした機能低下を起こしたり悪化させたりするケースの続出が予想されます。それは、本人や家族の「不幸」であるばかりでなく、介護費の増大という形で、ますます国の財政を圧迫することになるでしょう。
介護保険の「介護度」とは?
区分変更の対象となる「介護度」とは、そもそもどういうものなのか、ここでみておくことにします。
介護度(「要介護状態区分」とも言います)とは、要介護認定、要支援認定で判定される介護の必要性の程度などを表します。ちなみに、「要介護」とは、継続して常時介護を必要とする状態で、公の「介護給付」を利用できます。一方、「要支援」は、そこまで重くないものの、日常生活を営むのに支障があると見込まれる状態であり、利用できるのは、今の状態を改善あるいは維持するための「予防給付」です。
介護保険では、要介護状態区分(要介護1~5、要支援1~2)に応じて、在宅の場合には支給限度額、施設の場合には保険給付額がそれぞれ決められます。この要介護認定は、サービスの給付額に直接結びつくことから、その判定基準については全国一律に客観的に定められているのです。要介護については、具体的に次のような目安が設けられています。
- 要介護1
手段的日常生活動作(※)でどれか1つ、毎日介助が必要となる人が対象。日常生活動作においても、歩行不安定や下肢筋力低下により一部介助が必要な人が対象。 - 要介護2
手段的日常生活動作や日常生活動作の一部に、毎日介助が必要になる人が対象。日常生活動作を行うことはできるが、認知症の症状がみられており、日常生活にトラブルのある可能性がある人も対象となる。 - 要介護3
自立歩行が困難な人で、杖・歩行器や車いすを利用している人が対象。手段的日常生活動作や日常生活動作で、毎日何かの部分でも全面的に介助が必要な人が対象。 - 要介護4
移動には車いすが必要となり、常時介護なしでは、日常生活を送ることができない人が対象。全面的に介護を行う必要はあるものの、会話が行える状態の人が対象。 - 要介護5
ほとんど寝たきりの状態で、意思の伝達が困難で、自力で食事が行えない状態の人が対象。日常生活すべての面で、常時介護をしていないと生活することが困難な人が対象。
昨年急増した要介護度の区分変更申請とは、例えば、「食事はなんとか自分でできるけれど、認知能力の衰えがみられて、何度も同じ食品を買ってきてしまう」という状態だった要介護1の人が、「排せつや入浴も、全面的に人の手を借りなければできなくなってしまった」ので要介護2の認定を求めた、ということです。繰り返しになりますが、そういう事態をコロナ禍が加速させている可能性が高いのです。
日常生活を送るために最低限必要な日常的な動作のこと。日常生活における基本的な「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」動作を指す基本的日常生活動作(BADL)と、その次の段階である「掃除・料理・洗濯・買い物などの家事や交通機関の利用、電話対応などのコミュニケーション、スケジュール調整、服薬管理、金銭管理、趣味」などの複雑な動作を指す手段的日常生活動作(IADL)がある。
家族としてできること
さきほど、「家族の支援が遅れがちになっている」という現場の声を紹介しました。述べてきたような問題の発生には、高齢者自身が活動を制限されていることに加え、コロナの前には定期的に顔を見せることができた子どもなども、感染させるのを恐れてそれができにくくなっている、という実情も大きく影響しているようです。
高齢者の家族には、以前にも増して、きめ細かなフォローを行うことが求められているのではないでしょうか。具体的には、次のような対応が考えられると思います。
- 定期的に電話して様子を尋ねる
- 顔を見て話せるように、リモートの環境を整備する
- 万全のコロナ対策を講じたうえで、食事や買い物に誘う
- 介護施設などに入居している場合には、行動制限が行われているのか、その内容はどんなものかを把握し、改善点があれば求めていく
これから老人ホームなどへの入居を考えている場合には、「コロナ対応」の中身や、こうした場合に家族との意思疎通がスムーズな施設なのかどうかも、重要なチェックポイントになるでしょう。
まとめ
新型コロナによる外出制限の影響で、介護度の進行が増加している実態が明らかになりました。家族も動きづらい状況ではありますが、高齢者に対しては、従来にも増してきめ細かなフォローが必要になっています。