新型コロナウイルス感染症の流行が続くなか、一般の病院でもPCR検査が受けられる環境が整いつつあります。感染拡大とともに検査を複数回受ける可能性もあり、費用の負担が懸念となっている人もいるかもしれません。気になるのは検査費用が医療費控除の対象となるかどうかですが、PCR検査の費用については控除対象となるための特定の条件があります。この記事ではPCR検査をはじめとする感染症検査や、新型コロナウイルスの流行で気になる検査費用の医療費控除の疑問について解説します。
PCR検査とは
感染症検査の種類
- PCR検査
「PCR」とは「ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)」の略で、ポリメラーゼというDNA合成酵素と、プライマーと呼ばれるDNA合成の開始点となる短い核酸を用いてDNAを増幅するための仕組・手法のことを指します。この方法は、検体のDNAをねずみ算式に増幅させることができるため、わずかな検体からでもウイルスを高精度で検出できるといわれている検査法です。検査に要する時間は長くて6時間程度ですが、検体を採取した医療機関等に検査のできる環境がない場合は、検査機関に検体を届ける時間がかかってしまいます。検体には、鼻咽頭を拭って採取した細胞や唾液を使用します。 - 抗原検査
抗原検査は、「抗原」と呼ばれるウイルスを構成するたんぱく質が検体に含まれているかを調べる検査です。抗原検査に用いられるのは、 特定の抗原にのみ反応する「抗体」を利用した検査キットです。検体は鼻咽頭を拭ったもので、キットさえあれば各医療機関で30分ほどの時間で検査を完了できるという利点があります。しかし、抗原検査はPCR検査と比較すると感度が低く、検体に含まれるウイルスの量が少ないと検出できない場合があります。そのため、陽性の人を見落としてしまう可能性が高いという欠点があります。 - 抗体検査
抗体検査は、病原体に感染したことによって作られる抗体が体内にあるかどうかを、血液検査によって調べることで、ある人が過去にその病気に感染した経験があるかを判断します。体内に抗体ができるのは感染から10日前後経ってからといわれており、現在ウイルスに感染しているかを調べるのには向きません。そのため、抗体検査は個人が感染の有無を知るために行う検査というよりは、集団の感染歴を調査するために行われるものといえるでしょう。
検査ができる環境が整いつつある
新型コロナウイルス感染症の流行当初は、PCR検査を行える技師や機器が不足しており、そのうえ、抗原検査に用いる抗体の特定に時間がかかったことなどから、希望した人すべてが検査を受けることができない状況が続きました。しかし、検査機関・検査員への研修や設備が拡充された結果、現在では十分な検査体制を備えた医療機関も増え、自分で採取した検体送ることで受けられるPCR検査キットが販売されるなど、検査を受けられる環境が整いつつあります。PCR検査については、行政検査の対象者に加えて、2020年3月6日からは、受診した医師の判断で受ける検査が保険適用となったため、検査費用(18,000円または13,500円)および判断料(1,500円)のうち自己負担相当額の補助を受けることができます。
自主的に受けるPCR検査の費用
咳や発熱、味覚・嗅覚異常といった症状のない人や、濃厚接触者と判断されていない人が自主的にPCR検査を受けたい場合は、自費診療のPCR検査を実施している医療機関等を利用します。
この場合の検査費用は医療機関によって異なりますが、おおむね3万円前後(2020年2月現在)で受けることができるようです。
PCR検査費用の医療費控除
医療費控除とは
医療費控除とは、自分または生計を共にする家族等の医療費について、一定の額を超える場合はその金額に応じた所得控除を受けられる制度です。控除金額は、
という計算で求められ、控除額の上限は200万円です。
セルフメディケーション税制とは
セルフメディケーション税制とは、その年に購入した特定のOTC医薬品等の費用の合計額を所得控除できる医療費控除の特例です。利用するための条件として、申請する当人がその年に健康維持・疾病予防のための一定の取組をしている必要があります。控除金額は(実際に支払ったOTC医薬品等購入費の合計-保険金等で補てんされる額)-1万2千円という計算で求められ、控除額の上限は8万8千円です。比較的控除の対象額の下限が低いため、通常の医療費控除の下限である年間10万円超える医療費を払っていない人でも、利用できる可能性があります。なお、医療費控除制度とセルフメディケーション制度はどちらか一方しか適用させることができません。また、同制度は購入した医薬品の費用を対象としているため、PCR検査の費用に適用することはできません。
PCR検査費用は医療費控除できる?
医療費控除の対象となる医療費は以下のようなものとされています。
- 医師等による診療や治療のために支払った費用
- 治療や療養に必要な医薬品の購入費用
PCR検査費用を医療費控除できるかどうかは、その検査の目的や検査結果によって異なります。以下、3つの代表的な場合を確認していきましょう。
- PCR検査を医師の判断で受ける場合
医師や保健所の判断でPCR検査を受ける場合は、上記の費用に該当しますので、控除の対象となります。しかし、医療費控除の対象となるのは実際に自分で支払った医療費に限られるため、上記のように検査費用・判断料の補助を受けた分の金額は控除を適用できません。この場合、たとえば検査費用補助の対象とならない初診料・再診料といった費用が医療費控除できることになるでしょう。 - PCR検査を自主的に受ける場合
症状を伴わない人や帰国者・濃厚接触者に該当しない人が自主的にPCR検査を受ける場合は、医師等による診療や治療には該当しないため、原則としてこの費用を医療費控除として扱うことはできません。 - 自主的にPCR検査を受けた結果が陽性だったとき
自主的に受けたPCR検査の場合でも、検査の結果が陽性だった場合はその検査は治療に先立つ診察に含まれると解釈されるため、この費用は医療費控除することができます。これは自主的に受ける人間ドックの費用が医療費控除として適用されない仕組みと似ています。人間ドックの場合も、異常が見つからなかった際の検査費用は治療・診療とはみなされないため、医療費控除の対象とはなりません。しかし、検査の結果何らかの病変が見つかった場合には、この受診費用が治療に先立つ診察であったとみなされて医療費控除の対象となります。
その他新型コロナに関する医療費控除の疑問
PCR検査の費用の他にも、新型コロナウイルス感染症に関連して必要となった健康維持のための費用に関しては医療費控除を利用できるのでしょうか。1つずつ確認しておきましょう。
マスクの購入費用
新型コロナウイルス感染症を予防するために、マスクをつけることは大切なマナーの一つになりました。流行初期の頃と比べ、手に入れやすい価格になりましたが、購入費用は一年間でみるとそれなりの金額になります。このようなマスクの購入費用は感染を予防するためのものとして、医療費控除の対象にしても良いと考える人も多いでしょう。しかし、マスクを購入した費用については、病気の予防のための費用であり、治療や療養に必要な医薬品の購入費用に該当しないため医療費控除の対象とはなりません。
サプリメントの購入費用
感染症予防の観点から、免疫力の向上や不足する栄養を補うことを目的に、ビタミン剤等のサプリメント・栄養補助食品を摂取するようになった人も少なくないでしょう。こうした健康維持のためのサプリメントに関しても、治療や療養に必要な医薬品の購入費用には該当しないため、医療費控除の対象とはなりません。
オンライン診療関連の費用
新型コロナウイルス感染症の感染リスクを避けるために、オンライン診療の導入が進んでいます。オンライン診療の費用とそれに関連する諸費用については、医療費控除の対象となるものとそうでないものとがあります。
- オンライン診療料
オンライン診療料は、医師等による診療や治療のために支払った費用に該当するため、医療費控除の対象です。 - オンラインシステム利用料
医師等によるオンライン上の診療や治療を受けるために、何らかのオンラインシステム利用料を支払った場合、これは診療に直接必要な費用に該当すると判断されるため、医療費控除の対象となります。 - 処方された薬等の購入費用
オンライン診療の場合でも、処方された薬等医薬品の購入費用は、治療や療養に必要な医薬品の購入費用に該当するため、控除の対象です。 - 処方されて購入した薬等の送料
オンライン診療では薬等を送ってもらうための送料が発生します。こうした送料に関しては、治療又は療養に必要な医薬品の購入費用に該当しないため、控除の対象となりません。オンライン診療にかかる費用では送料のみ、医療費控除の対象にならないと覚えておきましょう。
まとめ
新型コロナウイルス流行当初は、PCR検査が受けられない人が多く、自己負担で受けた人は数万円を支払う場合もありました。そのため、PCR検査についてはいまだにハードルが高いと感じている人も多いでしょう。しかし、現在は保険適用の対象となり、市などの補助がある場合もあるため、金銭的に大きな不安を持つ必要はありません。自己負担額はこれまでと同じように医療費控除の対象として申告しましょう。その際、同じPCR検査であっても、医療費控除の対象にできる場合とできない場合があることを確認し、正しく確定申告ができるようにしましょう。