ネット通販大手の楽天が、加盟店と結んでいる「楽天ポイント」に関する契約を見直す方針を決めた、という報道がありました。国税庁が示したポイントの税務処理に関する見解に基づいて、加盟店から支払われるポイントの負担金に消費税がかからない方法に改めるというものですが、結果的に店側の負担が増える可能性があるといいます。それは、なぜなのでしょう? 消費者への影響は? わかりやすく解説します。
ポイント分は誰が負担するのか?
クレジットカードやQRコードなどの電子マネーによる決済が普及して、買い物をしたらポイントが付くのが当たり前、と言ってもいい世の中になりました。消費者にとっては嬉しい「おまけ」ですが、その分はいったい誰が負担しているのでしょうか?
消費者(会員)に付与されたポイント分を負担するのは、基本的に制度の加盟店(会員の持つ電子マネーの決済に対応する店舗)です。例えば、加盟店で会員が消費税込み1万1,000円の買い物をして110ポイントが付与されると、店はその金額(負担金)に相当する110円をカード会社などの制度運営会社に支払います。一方、加盟店で1万1,000ポイントが使用された場合には、反対に運営会社が、プールしていた負担金から使われたポイント相当の1万1,000円をその店に支払う--という仕組みになっているのです。
楽天の契約変更とは?
では、報道された楽天のポイント契約の変更とは、具体的にどういう内容なのでしょうか? 「ポイント」は、消費税の扱いでした。「朝日新聞」によると、楽天は、①国税当局の見解を踏まえ、②負担金に消費税がかからない取引に変える方針を固めた、ということです。
②から簡単に説明しましょう。消費税は、「商品・製品の販売やサービスの提供などの取引に対して、広く課税される税」です。従来、加盟店が運営会社に支払う負担金も、さきほど述べたようなポイントサービス制度を利用する対価とみなされ、消費税が課税されてきました。しかし、税務上の扱いを変えることでこれを非課税にする、というのが今回の変更点です。
それを可能にしたのが、国税庁が「昨年1月、ポイントの税務処理方法を整理する一環で、負担金を消費税の課税対象としない方法を例示」(朝日新聞)したこと。これが①です。
わざわざ「消費税を非課税にするためには、こんなやり方があります」と例まで示して公表したのには、「キャッシュレス・ポイント還元事業」なども含め、政府自らが音頭を取って「キャッシュレス社会」の推進を図っている、という背景があると考えられます。曖昧な部分も残るポイントに関する会計処理などを整理することで、そうした「国策」を前に進める一助にしようということなのでしょう。
ただし、この「処理例」には、「ポイント制度の規約等の内容によっては、消費税の課税取引に該当するケースも考えられる」という注釈が付いています。ポイントの負担金が、無条件で非課税になるというわけではないようです。
いずれにしても、「楽天は国税当局への相談を踏まえ、負担金を預かり金とする契約に見直し、一部の加盟店に伝えた」(同)ということです。「預り金」は、「売上」などと異なり、「後日その者に返金するか、または、その者に代わって第三者に支払いをするために、一時的に預かった金銭のうち、短期的に返還されるもの」で、消費税は非課税となっています。
加盟店は「仕入税額控除」ができないことに
ここまでの話だと、ポイント制度自体には何ら影響がないようにも思えるのですが、実はそうとは言えません。このままだと、契約を変更された加盟店にはダメージになる公算大なのです。
どういうことなのか、消費税の大まかな仕組みをおさらいしながら説明したいと思います。消費税を納めるのは、物を買ったりサービスの提供を受けたりした消費者です。しかし、それを実際に納税するのは、消費者ではありません。例えば私たちが商店で買い物をした場合、商品そのものの対価とは別に、原則として10%の消費税を支払います。商店はその消費税をいったん「預かり」、納付期限までにまとめて税務署に納付しているのです。
一方、商店は、消費者に売るための商品を仕入れる際に、仕入先に消費税を支払います。光熱費などのさまざまな経費にも、それはかかってきます。消費税を納める時には、消費者から預かった金額から、そういう仕入れなどの際に自らが払った税額を差し引くことができることになっています。これを「仕入税額控除」と言います。
今の話を、今回の楽天の件に当てはめてみます。契約変更は、「負担金に消費税がかからない取引にする」というものでした。加盟店からすれば、支払う負担金には消費税が課税されていないことになります。税を払っていないことになるわけですから、仕入税額控除の対象にはなりません。
同時に、あくまで会計処理のやり方を変えるだけですから、負担金の金額自体は変更なしです。加盟店は、今までは負担金110円のうち10円(税率10%の場合)が控除できたのに、契約変更以降は、同じ金額を負担しながら、それができないことになる可能性が高いのです。
消費者への影響はあるか?
ポイントの負担金の仕入税額控除がNGとなると、店にとっては実質増税です。このままの形で実行されれば、特に多店舗をチェーン展開しているような企業の受ける打撃は、小さなものではないでしょう。間接的に消費者への影響、例えば値上げやサービス低下がもたらされる可能性は、否定できません。
楽天は、こうした契約の見直しを来年春ごろから行う方針で、「店舗などの負担を考慮し、あらゆる選択肢を含めて検討している」(同)としています。実際には、加盟店に対して何らかの「救済措置」が講じられるかもしれませんが、現状では未定。楽天以外のポイント制度運営会社がどれだけ追随するかも含めて、今後の動向が注目されます。
さきほど説明したように、今回の楽天の方針は、「国税庁がポイントに関する会計、税務処理を整理した」ことを受けたものでした。ただし、それらについては、依然として完全にクリアになったとは言い難い実情があるようです。消費税以外の税制も含め、これほどのポイントサービスの拡大を想定してはいなかったのもその一因です。ですから、ポイントに関しては、今後も実態に合わせたさまざまな税制上の変更が行われる可能性は、大いにあると考えるべきでしょう。
まとめ
楽天がポイントの負担金に関する契約を見直す方針だと報じられ、波紋を呼びました。消費税の仕入税額控除ができなくなる可能性の高い加盟店に対して、何らかのフォローが行われるのか、他のポイント運営会社にも同様の動きが広がるのか、注目されます。