当然のことながら、人は亡くなれば、自分自身では何もすることができません。ところが、「亡くなった後に必要になる事務的な作業」は、必ず発生します。例えば、死んでから7日以内には、役所への死亡届を提出する必要があります。こうした手続きは、通常残された親族が行うわけですが、「おひとりさま」などの場合は、そうもいきません。そんなときには、生前に誰かと「死後事務委任契約」を結んでおく、という方法があります。“終活”の1つとして念頭に置きたいこの仕組みについて、解説します。
「死後事務委任」とは? 「遺言」や「成年後見」とどう違う?
「死後事務」とは、読んで字のごとく「ある人が亡くなってからの事務」のことです。後で詳しく述べますが、「そんなこともあったのか」というくらい、やるべきことはけっこう多岐にわたります。「死後事務委任」というのは、そういう自分が亡くなった後に実行して欲しい事柄の内容と、それをしてくれる人=「受任者」を決めておく契約をいいます。
同じように、生前に書き残し、死亡後にそれに従って手続きを進めるものに「遺言書」があります。しかし、遺言書は「財産の分け方」について記載するもので、それ以外については法的な効力を持ちません。遺言執行者(※1)は、財産分与以外のことに関与することができないのです。
反対に、死後事務委任契約では、財産の分け方について決めることができません。ですから、財産の相続と死後の事務手続きについて、生前に漏れなく決めておきたいという場合には、遺言書の作成+死後事務委任契約が必要になるでしょう。言い方を変えれば、特に「おひとりさま」は、完璧な遺言書を作ったからいつ死んでも安心、とは必ずしも言えないのです。
ちなみに、認知症などにより判断能力が衰えた人をサポートする「成年後見制度」という公的な制度があります。将来、自分の判断能力が不十分になった時に備えて、あらかじめ支援者を選んでおくことができる「任意後見(※2)契約」を結んでおけば、やはり各種の手続きなどを代行してもらうことができます。
ただし、成年後見制度は、あくまでサポートの対象となる人が生きている間に適用されるもの。亡くなった時点で契約は終了となり、死後のことまで面倒をみてはもらえないのです。
被相続人の残した遺言書の内容を実現するために、必要な手続きなどを行う人。相続財産を調査し財産目録を作成する、金融機関に対する預貯金の解約手続きを行う、といった権限を持つ。
※2「成年後見制度」には、家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見制度」と、本人との契約により後見人が選ばれる「任意後見制度」がある。
どんな人が対象になるのか?
とはいえ、亡くなった後の手続きなどを任せられる親族がいるのであれば、わざわざこのような契約を結ぶ必要は、基本的にはないでしょう。問題は、そうでない場合です。
以前、報道番組で取り上げられたものに、こんな事例がありました。高齢で身寄りのない男性が、アパートで孤独死しているのが発見されました。通帳に十数万円の預金を残し、「これで簡単な葬式だけ行ってほしい」というメモがあったそうです。しかし、対応した自治体の福祉の担当者は、どうすることもできません。誰も通帳からお金を引き出すことができなかったからです。ただ火葬に付して、埋葬するしかありませんでした。
また、中には親族はいても仲が悪かったり、しっかりやってくれるのかいまひとつ信頼がおけなかったり、といったケースもあるでしょう。そうした場合に、他の誰かと死後事務に関する契約を結んで万全を期しておく、という使い方もできるのです。
「委任」できること
死後事務委任契約は、遺言書と違ってあくまで契約ですから、依頼する人の生活実態や希望に合わせて、幅広い事項を盛り込むことが可能です。具体的には、次のような内容が考えられるでしょう。
- 関係者への死亡の連絡
- 死亡届の提出、戸籍関係の手続き
- 社会保険・国民健康保険・国民年金保険などの資格喪失手続き
- 火葬許可証の申請・受領、葬儀、火葬、埋葬・散骨などに関する手続き
- 供養に関する手続き
- 病院・施設などの退院・退所手続き
- 住居の管理・明け渡し
- 勤務先の退職手続き
- 運転免許証の返納
- 家財などの遺品整理、処分の手配
- 公共サービスなど各種サービスの解約や名義変更
- 住民税や固定資産税などの納税手続き
- 遺産や生命保険などに関する手続き
- 携帯電話、パソコンなどに記録されている情報の消去
- インターネット上のブログ、SNSなどの閉鎖
- プロバイダー契約の解除
- ペットの引き渡し
- 上記事項に関わる清算
誰と契約を結ぶのか?
死後事務委任契約の受任者は、有資格者である必要はありません。親族でも、親しい知人でもかまわないのです。
ただ、死後事務に関して契約を結ぶのは、「おひとりさま」のように、その必要性が強く認識されるケースだと考えられます。さらに、今のリストをご覧になってわかるように、かなり煩雑だったり、多少の専門知識が必要だったりする手続きもあります。
ですから、死後事務を託すのなら、弁護士、司法書士、行政書士など、こうした手続きに慣れた専門家を受任者にするのがベターだと言えるでしょう。税理士事務所でも、相続対策とセットで、死後事務委任契約を引き受けてくれるところがありますので、気になる方は一度相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ
自分が亡くなった後にも、さまざまな手続きが必要になります。きちんと履行してくれる人がいなかったり、不安があったりする場合には、受任者を専門家にも依頼できる「死後事務委任契約」を活用する、という方法があります。