相続税・贈与税の基準となる路線価の「減額」が拡大! 新型コロナで気になる地価の行方 | MONEYIZM
 

相続税・贈与税の基準となる路線価の「減額」が拡大!
新型コロナで気になる地価の行方

国税庁が、2020年分の路線価について2度目の「減額補正」を発表しました(2021年4月23日)。インバウンド需要が激減した大阪の繁華街・ミナミの13地域の10~12月分が対象で、前回の補正からエリアが大幅に拡大しています。全国的に見れば限られた地域であるとはいえ、路線価の減額は異例中の異例。相続税や贈与税の算定基準となるだけに、新型コロナの影響がどこまで続くのか、気になるところです。

地価も下落させた新型コロナ

新型コロナウイルス感染症の拡大が、経済に大きな影響を与えていますが、地価もその例外ではありません。国土交通省が3月に発表した2021年1月1日時点の公示地価は、全国平均で前年比0.5%の下落となりました。前年比でマイナスになるのは、15年以来6年ぶりのことでした。

 

「公示地価」というのは、「一般の土地の取引価格に対して指標を与え、および公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等に資し、もって適正な地価の形成に寄与することを目的」(地価公示法)に毎年1回公表されるもので、調査主体は国です。下落は、新型コロナによる訪日外国人客の激減や外出自粛などによるもので、住宅地(-0.4%、前年は+0.8%)、商業地(-0.8%、同+3.1%)ともに値下がりしました。

 

一方、国税庁によって毎年7月1日に公表される「路線価」は、この公示地価の80%をめどに評価され、相続や贈与で土地取引があった場合の税金の算定基準になります。通常ならばその年1年間の相続などにそのまま適用されるわけですが、昨年(2020年)に関しては、そうはいきませんでした。

 

今も数字を示したように、20年の公示価格は、住宅地、商業地とも前年比プラスでした。しかし、春頃から顕在化した新型コロナの影響により、土地の実勢価格が大幅に下がる地域が出たため、それを補正する必要が生まれたのです。実際の土地の価格が大きく値下がりしているのに、年初に公表された公示価格をベースにした路線価で相続税などを計算すると、税金を「取り過ぎて」しまう可能性があるからです。

 

国税庁は、まず今年1月、20年7~9月の路線価について、大阪市中央区心斎橋2丁目など大阪・ミナミの3地域の減額補正を発表しました(補正率は、いずれも0.96)。いったん発表した路線価を減額補正するのは、大規模災害時を除けば、1955年に制度が始まって以来、初めてのことでした。

 

そして今回の発表(20年10~12月分)では、3地域に加えて、同じ大阪市中央区の10地域が新たに加わりました。これらの地域で、20年10月から12月に相続や贈与で土地を取得した場合には、公表されている20年分の路線価に「地価変動補正率」を掛けて土地の評価額を計算することができます。ちなみに補正率は、0.98(心斎橋1丁目)~0.90(道頓堀1丁目)となりました。

 

なお、これらの地域で、この期間に贈与により土地などを取得した場合には、「個別の期限延長」により、補正の公表(21年4月23日)から2ヵ月間、贈与税の申告・納付期限を延長することができます。また、名古屋市中央区錦3丁目についても、同じく贈与税に関する「個別の期限延長」が適用される、としています(「減額補正」は対象外)。

デフレの呼び水に?

繰り返しになりますが、相続税などの算定基準となる路線価は、年初に公表される公示地価の80%がめどになります。21年の公示地価は、新型コロナの影響が反映されて全国平均でマイナスになりましたから、特に下落幅が大きかった地域では、昨年とは違い7月に発表される路線価自体が、大幅に引き下げられることになるでしょう。

 

ただし、実は今年も公示地価が堅調だった地域もあります。値下がりが目立ったのは、今回減額補正の対象になった大阪をはじめとする3大都市圏で、札幌、仙台、広島、福岡といった中核都市は、周辺地域からの人口流入が続いたことなどから、地価は上昇基調を維持したのです。首都圏についても、神奈川、埼玉、千葉などの東京の隣接地域では、テレワークの拡大に伴う住宅需要もあって、少なくとも年初においては、顕著な値下がりは見られませんでした。

 

気になるのは、今後の動向です。変異株の出現もあって、新型コロナの感染拡大は止まず、4月25日からは、東京、大阪、京都、兵庫の4都府県に、3度目となる「緊急事態宣言」が出されました。これに先立ち、宮城、埼玉、千葉、神奈川、愛知、沖縄といった地域にも「まん延防止等重点措置」が適用されており、東京周辺や地方での感染拡大も深刻化しています。

 

仮に、今後地価の下落が地方に波及し、値下がり幅も拡大するような状況になると、日本経済には大きな打撃になる可能性があります。土地の価格が下がれば、それを持っている企業や個人の資産が減ります。結果的に投資や消費が抑えられ、物価の下落=デフレに陥ることになるからです。

税に関してはメリットが

一方、不動産に関わる税金の支払いという点では、メリットが生まれます。公示地価が下がれば、その70%をめどに設定される「固定資産税評価額」も連動して下がりますから、持ち家の人の税負担は軽減されます。

 

また、相続や贈与で土地を移動させる場合にも、悦明してきたように路線価が下落した地域では、支払う相続税などが少なくて済むことになります。発生時期を調整できない相続に対し、贈与については、評価額の低いタイミングで実行するという「節税」が、理論的には可能です。

 

ただ、悩ましいのは、新型コロナの先行きが依然として不透明なこと。さきほど述べたような長期のデフレに陥る可能性が否定できない半面、コロナ禍の収束が見えてくれば、大都市部の地価は力強く戻るはずだ、という指摘もあります。

 

国税庁は、昨年7月の路線価の公表に際して、「広範な地域で大幅な地価下落が確認された場合の路線価等を補正するなどの対応については、今後の地価動向の状況を踏まえ、後日、改めてお知らせします」とわざわざ明記し、実際に2度の補正を実行しました。当面、今年7月の路線価の公表の際に、どのようなアナウンスがされるのかが注目されます。

まとめ

国税庁が、昨年10~12月の路線価について、大阪市の13地域の減額補正を行いました。相続税、贈与税の算定基準となる路線価が今後どのように推移していくのか、当面は7月の国税庁の発表内容に注目です。

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