大きな企業といえば、大きな金額の資本金を有してると考えている人は多いでしょう。
しかし、新型コロナウイルスの影響拡大による経営不振などが原因で、減資をする企業が増加しています。
では、減資をすれば、企業にとって何かメリットがあるのでしょうか。ここでは、企業が減資する意図や影響について解説します。
新型コロナウイルスの影響で減資する企業が増加している
旅行大手のJTBが、令和3年2月の株主総会で、資本金を現在の23億400万円から1億円に減資することを決議したという報道がされました。これは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて発生する巨額損失の補填の原資を確保する狙いなどがあると、考えられています。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で減資する企業はJTBだけではありません。毎日新聞も令和3年3月に、資本金を41億5000万円から1億円に減資したり、かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトも、同年2月に資本金を98億円から1億円に減資したりするなど、減資する大手企業の数は増加しています。
注目すべきは、どの企業も資本金を1億円としていることです。次からは、そもそも減資とはどのような手続きなのか、なぜ資本金を1億円とするのかを見ていきましょう。
そもそも減資とはどのような手続き?
実は、企業にとって減資をすることは重要な意味があります。それは、減資をすることで、さまざまなメリットを得ることができるということです。ここではまず、減資の手続きについて見ていきます。
減資とは資本金を減らす行為
減資とは、簡単にいうと、資本金を減らす行為のことです。そもそも、企業は設立時などに株主から集めた資金を運用して、営業活動を行います。また、期の途中に資金が必要になったときにも、第三者から資金を調達します。
資本金と借入金の違いは、借入金は返済する必要がありますが、資本金は返済義務がないことです。株主から集めた、返済義務のない資金のことを「資本金」といいます。
減資とは、設立時や期の途中で出資を受けた資本金を減少させることです。なぜ減資を行うのかというと、損失が出た部分を補填し、経営を立て直したり、株主に資金の払い戻しを行ったり、節税をするためだったりします。新型コロナウイルスの影響拡大による減資の目的は、このうち、損失が出た部分を補填して経営を立て直すことと、節税の2つになります。
減資には2つのパターンがある
ひとことで減資といっても、実は減資には2つのパターンがあります。それが「有償減資」と「無償減資」です。「有償減資」と「無償減資」それぞれについて見ていきましょう。
・有償減資
有償減資とは、実際に手許にある資金を使って行う減資のことです。有償減資は、節税目的の部分もありますが、株主への資金の払い戻しが主な目的で行われます。減資手続きをし、資金を株主に支払います。
たとえば、減資する前は資本金10億円、保有している現預金5億円の会社が、1億円の有償減資をした場合はどうなるのでしょうか。この場合、資本金と現預金がそれぞれが1億円減少します。その結果、資本金は9億円、保有している現預金は4億円となります。
有償減資のメリットは、株主対策ができるということです。減資した資金(厳密にいうと、資本金から直接、配当を支払うことはできないため剰余金から)で配当を行ったり、減資により、資金を返金したりと株主との良好な関係を続けることができます。
有償減資のデメリットは、資金が減るということです。手元資金が減るため、今後の営業活動に影響が出る可能性があります。
・無償減資
無償減資とは、有償減資とは異なり、資金が減少しない減資のことです。無償減資は、節税や損失が出た部分の補填による経営の立て直しが目的となります。無償減資は、実際には現金の動きはありません。資本金を取り崩し、欠損金の補填に充てることで減資を行います。
たとえば、減資する前は資本金10億円、欠損金1億円で、保有している現預金5億円の会社が、欠損金の補填のために、1億円の無償減資をした場合はどうなるのでしょうか。この場合、資本金と欠損金がそれぞれが1億円減少します。現預金の金額は変わりません。その結果、資本金は9億円、保有している現預金は5億円、欠損金0円となります。
また、節税目的のために無償減資をする場合(欠損金がない場合や欠損金と相殺させない場合)は、資本金を減少させ、その分をその他資本剰余金に振り替えます。極端な例でいうと、減資する前は資本金10億円、その他資本剰余金0円の会社で1億円の無償減資をした場合は、資本金は9億円、その他資本剰余金1億円の会社になります。
無償減資のメリットは、経営の立て直しができることです。新型コロナウイルスの影響で、大幅に赤字が増えた場合などでは財務諸表に欠損金が残ります。一般的に欠損金が多いと、金融機関からの融資が受けにくい、外部からの信用が低くなるなどの影響が出ます。そこで無償減資を行い、欠損金に補填することで、外部からの資金調達をしやすくします。また、後述する節税もしやすくなります。
無償減資のデメリットは、信用力が低下につながる可能性があることです。日本の企業の中には、資本金=信用力と考えているところも多いです。そのため、資本金の減少は信用力の低下につながる可能性もあります。しかし、減資をする大手企業の数が増えれば、今後は、資本金=信用力という考えがなくなっていくかもしれません。
新型コロナウイルスの影響拡大により減資をしている企業は、有償減資ではなく、無償減資を行っていることから、減資の目的や意図は経営の立て直しや節税と考えられます。
大企業が減資して中小企業になるメリット
今回の新型コロナウイルスの影響による大手企業の減資で注目したいのが、多くの会社で資本金1億円になるように減資していることです。資本金が1億円になるということは、法人税法における中小企業になることを意味します。
実は、法人税法上は資本金が1億円以下の場合に中小企業とみなされ、さまざまな税制優遇措置を受けられることとなっています。代表的なものが、法人税率の軽減措置です。原則、普通法人の法人税の税率は一律23.20%となっていますが、資本金1億円以下の中小企業の場合、所得金額が年800万円までの部分の税率は、15%もしくは19%の軽減税率が適用され、納める税金が低くなります。
また、法人事業税についても、資本金が1億円を超えると赤字でも外形標準課税は負担しなければいけませんが、資本金1億円以下の中小企業になれば、外形標準課税の負担もなくなります。そのほかにも、欠損金繰越控除の優遇や、さまざまな租税特別措置が受けられるなど、資本金を1億円にするだけで多くの節税のメリットがあります。
このことから、新型コロナウイルスの影響拡大により減資をしている企業は、税負担の軽減を図り、経営の立て直しをしようと考えていることがわかります。
まとめ
新型コロナウイルスの影響拡大により、資本金1億円に減資している大手企業はたくさんあります。減資の目的は、経営の立て直しや節税が目的です。今までは、資本金=信用力という考えがありましたが、その考えも新型コロナウイルスの影響で変わりつつあるようです。
しかし、節税目的の大企業の減資は、世間から冷ややかな目で見られることも多いです。これからも、減資をする企業がますます出てくることが予想されますが、新型コロナウイルスにより世間の考え方も変わっていくのか注目されるところです。