カーボンニュートラルとは、二酸化炭素が削減されている状態や企業の二酸化炭素削減の取り組みのことです。わが国では「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定。令和3年度税制改正でも脱炭素実現に向けたものがあります。ここでは、カーボンニュートラルと税金について解説します。
脱炭素に向けた税制上の支援措置がとられた背景とは
地球温暖化の問題など、今、世界では、環境問題に大きな関心が寄せられています。世界各国が脱炭素を目標とする中、日本も脱炭素について目標を掲げました。
脱炭素とは、二酸化炭素の排出を実質ゼロにすることです。実質ゼロとは、二酸化炭素の排出自体をゼロにするのではなく、二酸化炭素の排出抑制と合わせ、さまざまな方法で排出量と同量の二酸化炭素を減少させて相殺することをいいます。
日本では、菅総理大臣が2050年にカーボンニュートラルや脱炭素社会の実現を目指すことを宣言し、経済産業省が中心となって「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。
2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略では、予算、税、規制改革・標準化、国際連携などでさまざまな支援を行うとされています。税金分野では、令和3年度税制改正に、脱炭素に向けた支援措置が盛り込まれました。
脱炭素に関連する令和3年度の税制改正
ここからは、脱炭素やカーボンニュートラルに関連する令和3年度の税制改正について見ていきましょう。
脱炭素やカーボンニュートラルなどの環境問題に関連するものとして、「カーボンニュートラル投資促進税制」と「デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制」があります。
カーボンニュートラル投資促進税制
カーボンニュートラル投資促進税制とは、簡単にいうと企業(青色申告法人)が脱炭素の効果を持つ設備を導入した場合に、一定の税優遇制度が受けられるというものです。カーボンニュートラル投資促進税制は、令和3年度の税制改正で創設されました。では、詳しい内容を見ていきましょう。対象となる設備には、次の2つがあります。
- 大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備
温室効果ガス(特に二酸化炭素)削減効果が大きく、かつ新たな需要の拡大が見込まれる製品(例えば燃料電池など)の生産に使用される設備(機械装置) - 生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備
事業所等の炭素生産性を相当程度向上させる計画に必要となる設備
これらを導入すると、大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備では、税額控除10%または特別償却50%の優遇措置が受けられます。また、事業所等の炭素生産性を相当程度向上させる計画に必要となる設備では、炭素生産性の向上割合により、税額控除5%もしくは10%、または特別償却50%の優遇措置が受けられます。
カーボンニュートラル投資促進税制を採用するためには、事前に産業競争力強化法の中長期環境適応計画の認定を受ける必要があります。
カーボンニュートラル投資促進税制
対象法人 | 産業競争力強化法の中長期環境適応計画の認定を受けた青色申告法人など |
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要件 | 中長期環境適応計画に基づき、下記の設備を取得し、使用をすること |
対象設備 | ・ 大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備(機械装置) ・生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備 |
優遇措置 (選択適用) | ・減価償却の特別償却 取得価額×50% |
・税額控除 取得価額×5%もしくは10% |
デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制
デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制とは、簡単にいうと、デジタル技術を活用した企業変革(デジタルトランスフォーメーション)を実現するための投資に対し、一定の税優遇制度が受けられるというものです。
デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制は、令和3年度の税制改正で創設されました。では、詳しい内容を見ていきましょう。対象となる設備には、デジタル要件や企業変革要件を満たした以下のものになります。
- ソフトウェア
- 繰延資産(クラウドシステムへの移行に係る初期費用)
- 器具備品(ソフトウェア・繰延資産と連携して使用するものに限る)
- 機械装置(ソフトウェア・繰延資産と連携して使用するものに限る)
これらを導入すると、税額控除3%(グループ外の他法人ともデータ連携・共有する場合は5%)または特別償却30%の優遇措置が受けられます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制を採用するためには、事前に産業競争力強化法の事業適応計画の認定を受ける必要があります。
デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制
対象法人 | 産業競争力強化法の事業適応計画の認定を受けた青色申告法人など |
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認定要件 | 1.デジタル要件 ・データ連携・共有 ・ クラウド技術の活用 ・ 情報処理推進機構の審査 「DX認定」の取得 2.企業変革要件 ・全社の意思決定に基づくもの ・一定以上の生産性向上などが見込まれる |
要件 | 事業適応計画に基づき、下記の設備を取得し、使用をすること |
対象設備 | ・ソフトウェア ・繰延資産(クラウドシステムへの移行に係る初期費用) ・器具備品(ソフトウェア・繰延資産と連携して使用するものに限る) ・機械装置(ソフトウェア・繰延資産と連携して使用するものに限る) |
優遇措置 (選択適用) | ・減価償却の特別償却 取得価額×30% |
・税額控除 取得価額×3%もしくは5% |
令和3年度の税制改正では繰越欠損金の控除上限の特例もある
令和3年度の税制改正では、脱炭素やカーボンニュートラルに関連し、繰越欠損金の控除上限の特例もあります。これは、コロナ禍であっても、ポストコロナに向けて事業再構築等に取り組んでいる赤字企業を税制面で支援しようというものです。
大企業では、繰越欠損金の控除上限が50%となっているため、原則、赤字を翌期に繰り越しても、翌期には50%しか利用できません。そこで、この特例の対象となる企業は、繰越欠損金の控除上限を100%に引き上げます。
具体的には、投資内容を含む事業計画を事業所管大臣が認定した場合に、この優遇措置を受けることができます。
上述したカーボンニュートラル投資促進税制とデジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制の対象となる投資は、繰越欠損金の控除上限の特例の対象となる投資と同じ内容のものとなるため、どちらの制度も利用可能です。赤字法人の場合は、繰越欠損金の控除上限の特例の利用も考えましょう。
まとめ
世界各国が脱炭素を目標とする中、日本でも脱炭素について、2050年にカーボンニュートラルや脱炭素社会の実現を目指す目標を掲げました。企業にとって、カーボンニュートラルや脱炭素への投資は、新たな売上の獲得チャンスのある成長分野への投資だけでなく、多くの税優遇制度を受けることができるものになっています。
これからも、政府により、カーボンニュートラルや脱炭素に対するさまざまな施策が行われる可能性は高いです。カーボンニュートラルや脱炭素への投資を考えている場合は、政府の施策について理解し、自社により有利になる投資を行いましょう。