従業員に対して、新型コロナウイルス感染症対策を目的としたさまざまな「支給」を行う企業は多いはず。気になるのは、その税務上の扱いです。例えば、職場で付けるためのマスクを従業員が購入し、その費用を清算して会社が支払った場合、その金額には所得税が課税されるのでしょうか? 法人税の損金として、算入することはできるのか? このような感染予防コストの税金(所得税、法人税)の扱いについて、課税当局の見解をまとめました。
「事実関係」で判断される所得税の課税
国税庁は5月31日、ホームページの「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」に、「企業が従業員の感染予防対策費用を負担した場合の取り扱い」を追加しました。想定されるケースとして次の4つを挙げていますが、所得税に関しては、課税関係は「それぞれの費用の事実関係」により異なる、としています。
4つのケースとは、
- (1) マスク、石鹸、消毒液、消毒用ペーパー、手袋などの消耗品の購入費
- (2) 従業員の自宅に設置する間仕切り、カーテン、椅子、机、空気清浄機などの備品の購入費
- (3) 感染が疑われる場合のホテル等の利用料・ホテル等までの交通費など
- (4) PCR検査費用、室内消毒の外部への委託費用など
です。それぞれについて、所得税が非課税/課税になる条件などについて説明します。
(1)消耗品の購入費
●課税されない
例えば、勤務時に使用するマスクなどの消耗品といった、業務のために通常必要な費用について、その費用を清算する方法(従業員からその出費についての領収書などの提出を受けて、金額を支払う方法)で、企業が従業員に支給する一定の金銭は、課税されません。企業がこれらの消耗品を直接配布する場合も同様です。
●課税対象になる
一方、勤務とは関係なく使用する消耗品の購入費用などは、課税対象となります。また、家族など従業員以外の人を対象とする消耗品の購入費用、あるいは使用しなかった場合でも返還の必要のない「渡し切り」で支給される金銭にも課税されます。
(2)従業員の自宅の備品購入費
●課税されない
例えば、テレワークを行うための環境整備費などについて、その費用を清算する方法で、企業が従業員に支給する金銭には、課税されません。ただし、備品の貸与に限ります(備品の所有権を従業員が持つ場合は、課税対象になります)。また、企業が所有する備品を業務に使用する目的で従業員に貸与する場合も、課税はされません。
●課税対象になる
例えば、業務と関係なく使用する電化製品などの備品、業務に使わなかった場合でも返還の必要のない金銭は、課税対象です。今説明したように、備品を貸与するのではなく、購入費用を支給する場合には、所得税が課税されます。
(3)感染が疑われる場合のホテルの利用料など
●課税されない
例えば、職場以外の場所で勤務することを企業が認めている場合に、その勤務に関連する利用料、交通費などとして従業員に支給する一定の金銭については、課税されません。企業が、ホテルなどに直接利用料などを支払う場合も同様です。
●課税対象になる
例えば、従業員が自己の判断でホテルに宿泊するなど、業務のために必要な費用以外の費用について支給するもの、業務に必要な費用として使用しなかった場合でも返還の費用のない金銭は、課税対象です。
(4)PCR検査費用、消毒の委託費用など
●課税されない
例えば、企業の業務命令により受けたPCR検査費用や、テレワークに関連して業務スペースを消毒する必要がある場合の費用などについて、その費用を清算する方法により、企業が従業員に対して支給する一定の金銭については、課税されません。企業が、検査機関や委託先などに直接支払う場合も同様です。
●課税対象になる
例えば、従業員が自己の判断により受けたPCR検査費用や消毒費用などは、課税対象となります。使わなかった場合にも返還する必要のない金銭も、やはり同様の扱いとなります。
法人税は損金算入できる
では、法人税の扱いはどうなるのでしょうか? 国税庁は、説明してきたような場合の「企業の法人税の課税関係については、原則として、消耗品費、旅費交通費等や給与として損金の額に算入できることとなります」としています。
まとめ
企業が従業員のコロナ感染予防対策費用を負担した場合、所得税については、基本的に「業務に通常必要な費用」かどうかが、非課税か課税かの基準になります。国税庁が示した4項目に関しては、それと認められない費用に加えて、例えば毎月一定額を返還不要の「渡し切り」の形で支給するような場合も、感染予防対策の支出であったとしても課税対象になりますので、注意が必要です。なお、法人税に関しては、これらの支出を損金に算入することができます。