2006年度以降、仕事や職場生活によるストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定される労働者はますます増えています。労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐことは、企業にとって重要な課題であると言えます。
そのための対策のひとつである2015年に義務化されたストレスチェックの概要について解説します。
ストレスチェックとは何か
ストレスチェックとは何をするものか
ストレスチェックとは、ひとことで言えば「職業性ストレス簡易調査票」を用いて、労働者のメンタルヘルスをチェックする制度です。
ストレスチェックの結果を集計、分析して、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防ぐこと(一次予防)を主な目的としています。
国が推奨する職業性ストレス簡易調査票には、「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」と「職業性ストレス簡易調査票(簡略版23項目)」があります。
ただし、それ以外の調査票の使用が認められていないわけではありません。以下の3つの事項が含まれていれば、形式は自由です。
- ストレスの原因に関する質問項目
- ストレスによる心身の自覚症状に関する質問項目
- 労働者に対する周囲のサポートに関する質問項目
労働者が記入した調査票は、実施者(医師、保健師、一定の研修を受けた看護師・精神保健福祉士)によって検査されます。
ストレスチェックが義務化された事業所とは
労働安全衛生法の改正により、2015年から、常時50人以上の労働者がいる事業所について、ストレスチェックの実施が義務化されました。
労働者50人未満の事業所については、努力義務とされています。
ですが、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止するため、できるだけ実施することが望ましいとされています。
ちなみに、ここで言う「事業所」とは、支店や営業所などの各事業場を指します。企業全体の人数によってストレスチェックが義務か否かを判断するわけではありませんので、注意してください。
ストレスチェックは年1回、定期的な実施が義務づけられています。
しかし、具体的な時期については企業に一任されています。そのため、年度末などの繁忙期を避けてストレスチェックを実施することができます。
また、ストレスチェックの結果は、所轄の労働基準監督署へ報告しなくてはなりません。報告書については規程の様式を使用する必要があり、厚生労働省のホームページに掲載されています。
ストレスチェックの対象となる労働者とは
ストレスチェックが義務づけられている事業所に勤務する、すべての労働者がストレスチェックの対象となります。
「すべての労働者」ですので、パートタイマーや派遣労働者も対象者に含まれます。雇用形態によって、ストレスチェックの対象か否かが決まるわけではありません。
ただし、以下の労働者は対象外です。
- 労働契約期間が1年未満(契約更新により、1年以上使用される予定の者および1年以上使用されている者は対象)
- 1週間の労働時間が、通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3未満
事業所がストレスチェックを実施することは義務化されていますが、労働者がストレスチェックを受けること自体は義務化されていません。
対象の労働者が全員ストレスチェックを受けるよう、事業者は受検の勧奨を行うことができます。また、ストレスチェックを受けた労働者のリストの提供を実施者から受けることも可能です。
ストレスチェックの結果をどう活かすのか
ストレスチェックの結果をどう本人に通知するか
ストレスチェックの結果は、労働者本人に直接通知します。第三者にストレスチェックの結果を漏らすことは、法律で禁止されています。
ストレスチェックの結果には、ストレスの程度の評価、高ストレス者に該当するかどうか、医師による面接指導の対象者かどうかなどが記載されています。また、セルフケアのためのアドバイス、事業者への面接指導の申し出方法も、通知することが望ましいとされています。
事業者がストレスチェックの結果を入手するには、労働者本人の同意が必要です。同意しないという申し出がないことを根拠として、同意したとみなすことは認められません。さらに、同意を得るタイミングも、労働者が結果を通知された後に限られています。
高ストレス者とはどういう人か
高ストレス者とは、ストレスチェックを実施した結果、その評価点数が高い人を指します。高ストレス者と判断された労働者は、事業者へ申し出て、医師の面接指導を受けることができます。
以下の場合、高ストレス者に該当します。
- 「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が高い者
- 「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が一定以上で、「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」および「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」の評価点数の合計が著しく高い者
他にも、上記の選定基準に加えて、医師、保健師、看護師もしくは精神保健福祉士または公認心理師、産業カウンセラーもしくは臨床心理士などの心理職が労働者に面談を行い、その結果を参考として選定する方法もあります。
ストレスチェックの結果を職場環境改善に活かす
ストレスチェックの実施者は、ストレスチェックの結果を、職場など集団ごとに集計、分析します。事業者は提供された集団分析結果を、職場環境改善のために活用することができます。
集団分析結果は、労働者の同意を得ることなく、実施者から事業者へ提供することが認められています。
ただし、集計、分析の単位が10人を下回る場合は、対象となるすべての労働者の同意を得なければ、事業者に集計分析結果を提供してはならないとされています。これは、個々の労働者が特定されるおそれがあるためです。個人の特定につながらない方法を用いて集計、分析した場合は、この限りではありません。
ストレスチェックを実施するうえでの注意事項
労働者のプライバシーを保護する
前述したとおり、事業者がストレスチェックの結果を入手するには、労働者本人の同意が必要です。ただし、労働者が面接指導の申し出を事業者にした場合は、その申し出をもって同意とみなして差し支えないとされています。
事業者はストレスチェックの結果などの個人情報を、適切に管理しなくてはなりません。ストレスチェックや面接指導で個人情報を取扱った者には、法律で守秘義務が課され、違反した場合は刑罰の対象となります。
事業者がストレスチェックに関する労働者の情報を、不正に入手することがあってはなりません。
不利益な取扱いを防止する
事業者はストレスチェックに関して、労働者に不利益な取扱いをしてはなりません。以下のことを理由として、労働者に不利益な取扱いを行うことは禁止されています。
- ストレスチェックを受けない
- 医師による面接指導を受けたいと申し出た
- ストレスチェックの結果を事業者に提供することに同意しない
- 医師による面接指導を申し出ない
また、面接指導の結果を理由として、以下を行うことも禁止されています。
- 解雇
- 雇い止め
- 退職勧奨
- 不当な動機・目的による配置転換・職位の変更
まとめ
ストレスチェックは、労働者がストレス状態を把握し、セルフケアのきっかけとすることだけがメリットではありません。事業者が職場の問題点を把握し、より働きやすい職場づくりを進めるために役立てることもできます。
ストレスチェックは労働者、事業者どちらにとっても、意義のある制度だと言えるでしょう。よりよい職場生活のためにも、正しく実施することが求められます。