サラリーマンが退職し、求職活動をしている間は雇用保険の基本手当(失業保険)がもらえますが、退職後に個人事業主になるときも雇用保険の「再就職手当」がもらえます。
しかし、開業届を出すタイミングを間違えると再就職手当はもらえません。ここでは、再就職手当の概要や開業届の提出タイミングについて解説します。
そもそも開業届とはどんなもの?
まず、そもそも開業届とはどんなものなのかを見ていきましょう。開業届とは、正式な名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、新たに事業を開始した時に税務署に提出する書類のことです。
実は、新たに事業を開始したとき以外に、事業を廃止したときや事業用の事務所などを新設や増設、移転や廃止したときなども「個人事業の開業・廃業等届出書」を税務署に提出します。一般的には、開業時に提出することが多いため、開業届と呼ばれます。
では、開業届はいつまでに提出すればよいのでしょうか。開業届の提出は、事業の開始等の事実があった日から1か月以内と決まっています。しかし、個人事業の場合、法人のように設立を法務局に登記する必要はありません。そのため、いつ開業したのかはアバウトな日になりがちです。
また、提出期限までに開業届を税務署に提出しなくても罰則などはないため、青色申告の承認を受けない場合などは、遅れて開業届を提出する人も多いです。
開業届の提出期限については、「開業届はいつ、どのタイミングで出せばいい?副業であっても必要?」をご覧ください。
どうすれば失業保険をもらえる?
そもそも、どうすれば失業保険を受給できるのでしょうか。ここでは、失業保険を受給する条件や、失業保険を受給するまでの手順について見てみましょう。
「失業保険」は、雇用保険の求職者給付のうち「基本手当」を指す言葉です。雇用保険の被保険者だった人が離職し、再就職のために求職活動をしている場合に受け取れます。
離職前の2年間で通算12ヵ月以上雇用保険の被保険者であることが条件です。通常、会社員は雇用保険の被保険者なので、個人事業主になる直前の勤務先に1年以上在籍していれば条件を満たします。
受給できる失業保険の金額は「基本手当日額」×「給付日数」となっています。基本手当日額は「離職日の直近6か月の給与(賞与などは除く)総額÷180」の50~80%相当額です。また、給付日数は離職日時点の年齢や雇用保険の被保険者であった期間、離職理由(自己都合か会社都合か)によって90~360日の間で決まっています。
失業保険を受給するには、ハローワークで求職の申し込みをして受給資格を得なければなりません。その後は7日間の「待期」とよばれる期間中に雇用保険受給説明会に出席し、その後1回目の失業認定日にハローワークへ行くという流れになります。
その後も4週間に一度、失業認定を受けながら求職活動をする必要があります。給付日数の範囲で失業認定を受けるたびに、前回認定日翌日から認定日前日までの日数分の失業保険が指定した銀行口座に振り込まれます。
ただし、自己都合による離職の場合、7日間の待期に加えて2か月の給付制限があり、この期間は給付日数にカウントされないので注意が必要です。自己都合で離職した人は1回目の失業認定のあと、2か月の給付制限を挟んで2回目の失業認定を受け、給付制限が明けてから2回目の失業認定日前日までの失業保険を受け取ります。
サラリーマンから個人事業主になる場合でも受け取れる再就職手当とは
失業保険は原則、次の就職先を探す間に受け取れる保険です。そのため「個人事業主になると失業保険(雇用保険の基本手当)を受け取れない」と考えている人も少なくありません。しかし、サラリーマンから個人事業主になる場合でも受け取れる雇用失業保険の手当があります。それが、再就職手当です。
ここでは、再就職手当について詳しく見ていきましょう。
再就職手当とはどんなもの
再就職手当とは、簡単にいうと、失業している人が早期に再就職したときに受け取れる雇用保険の手当のことです。失業保険を受け取りながら就職活動を続けているとき、さまざまな理由から就職活動がおろそかになる可能性があります。
そこで、早期に再就職をした人に一定のお金を支給して再就職を促すものとして、再就職手当があります。
失業保険が「求職者給付」の一種であるのに対し、再就職手当は「就職促進給付」の一種です。参考までに、雇用保険の各種給付をまとめると下記のようになります。
給付の種類 | 手当の種類 |
---|---|
求職者給付 | 基本手当(失業保険)、傷病手当 |
就職促進給付 | 再就職手当、就職促進定着手当、広域求職活動費 |
教育訓練給付 | 一般教育訓練給付金、専門教育訓練給付金 |
雇用継続給付 | 育児休業給付、高年齢雇用継続給付金 |
再就職手当を受け取るためにはさまざまな条件がありますが、その中でも重要なのが「再就職手当は個人事業主になった場合でも支給される」ということです。
再就職手当を受け取るための条件
再就職手当は個人事業主になった場合でも支給されますが、受け取るための一定の条件を満たす必要があります。再就職手当を受け取るための条件は、次のすべてを満たす必要があります。
- 7日間の待期満了後の就職または、事業開始であること
- 就職日の前日までに失業の認定を受け、その後の基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あること
- 1年を超えて勤務することが確実であると認められること
- 離職理由による給付制限(基本手当が支給されない期間がある)を受けた場合は、待期満了後1か月間については、ハローワークまたは許可・届け出のある職業紹介事業者の紹介により就職したものであること
- 離職前の事業主に再び雇用されたものでないこと(資本・資金・人事・取引等の状況からみて、離職前の事業主と密接な関係にある事業主も含む。)
- 就職日前3年以内の就職について、再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けていないこと
- 受給資格決定(求職申し込み)前から採用が内定していた事業主に雇用されたものでないこと
- 原則、雇用保険の被保険者資格を取得する要件を満たす条件での雇用であること
条件の1に「事業開始であること」があるため、個人事業主になった場合も再就職手当を受給することが可能です。
再就職手当は早期の再就職を促すためのものであるため、基本手当の支給残日数が多い方が高い給付率の手当を受け取ることができます。所定給付日数の3分の2以上を残して個人事業主になった場合は、基本手当の支給残日数の70%の金額が支給されます。また、所定給付日数の3分の1以上を残して個人事業主になった場合は、基本手当の支給残日数の60%の金額が支給されます。再就職手当の支給額は、次の計算式で求めます。
例えば、基本手当日額4,000円、所定給付日数の支給残日数200日、給付率70%の場合の支給額は次のようになります。
再就職手当の受給の流れ
ここからは、再就職手当の受給の流れについて見ていきましょう。再就職手当の受給の流れは、次のようになります。
- ①退職と必要書類の準備
会社を退職したら、離職票など必要書類の準備をします。 - ②ハローワークで手続き
まずは、失業保険を受けるためにハローワークに行き、最初の手続きを行います。ハローワークに行くと、雇用保険受給者初回説明会の日時を指定されます。 - ③雇用保険受給者初回説明会
指定日時に、雇用保険受給者初回説明会に参加します。雇用保険受給者初回説明会に出席したら第一回目の「失業認定日」が知らされ、失業の認定に必要な書類が手渡されます。 - ④失業の認定
失業の認定を受けるため、失業認定日にハローワークに行きます。 - ⑤失業保険の受給
失業の認定を受けたら、失業保険が振り込まれます。 - ⑥開業届を提出し、再就職手当の受給手続きを行う
開業届を税務署に提出し、控えを受け取ります。税務署に開業届を提出して1か月以内に、開業届の控えなどの必要書類を持参し、ハローワークで再就職手当の受給手続きを行います。 - ⑦再就職手当の受給
申請に問題がなければ、申請からおおよそ1か月程度で再就職手当が振り込まれます。
開業届の提出と再就職手当の注意点
ここまでは、開業届と再就職手当の内容について見てきました。ここからは、開業届と再就職手当の注意点について見ていきましょう。
開業届の提出は一定期間経過後に
サラリーマンが個人事業主になった場合で、再就職手当について注意しなければならないのが、開業届を税務署に提出するタイミングです。退職後、一定期間を経てから開業届と出さなければ、再就職手当の給付が受けられません。
サラリーマンから個人事業主になる人が再就職手当をもらうには、先ほど挙げた条件のうち、以下の条件に留意しなければなりません。
3つの条件を踏まえ、自己都合による退職で2か月の給付制限がある場合と、倒産や解雇など会社都合による退職で給付制限がない場合に分けて、開業届を出すタイミングを見てみましょう。
【自己都合による退職の場合】
①退職
②ハローワークで手続きを行い、雇用保険受給資格を得る
③7日間待期(この期間内:雇用保険受給説明会に出席)
④7日間の待期期間満了後、1か月間は開業準備や開業はできない
⑤1回目の失業認定日が来たらハローワークに行く
⑥④の期間が過ぎたら開業準備、開業ができる。給付日数の残日数に注意して開業届を提出する
自己都合による退職の場合、③のあとにすぐに開業準備や開業ができません。7日間の待期+1か月間が経過後、開業届を出すことで再就職手当の給付が受けられます。
【会社都合による退職の場合】
①退職
②ハローワークで手続きを行い、雇用保険受給資格を得る
③7日間待期(この期間内:雇用保険受給説明会に出席)
④③の期間が過ぎれば開業準備・開業ができる。開業届提出
会社都合による退職の場合、7日間の待期が過ぎれば、開業届を出して再就職手当の受給が受けられる。給付日数の残日数に注意して開業届を提出する
【自己都合退職・会社都合退職共通】
ここからは自己都合退職・会社都合退職共通の手続きです。
①開業届を提出し、再就職手当の受給手続きを行う
開業届を税務署に提出し、控えを受け取ります。税務署に開業届を提出して1か月以内に、開業届の控えなどの必要書類を持参し、ハローワークで再就職手当の受給手続きを行います。
再就職手当の受注手続きに必要なものは下記のとおりです。
・開業届の控え
②再就職手当の受給
申請に問題がなければ、申請からおおよそ1か月程度で再就職手当が振り込まれます。
不正受給の場合は罰則もある
次に注意したいのが、不正受給です。再就職の意思がない場合や、本当は再就職手当の受給資格がないのに、あるように偽って受給した場合などは不正受給となります。不正受給をした場合は、受け取った再就職手当の返還だけでなく、不正の行為により受けた額の2倍の額の納付が必要となります。
つまり3倍の額を支払わなければいけなかったり、特に悪質な場合は、刑事事件になったりする場合さえあります。不正受給は絶対に行わないようにしましょう。
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サラリーマンから個人事業主になる時に意識しておきたい、開業届の提出タイミング|3分でわかる!税金チャンネル
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まとめ
再就職手当は、サラリーマンをやめて個人事業主になった場合でも、受け取ることができます。また、再就職手当の金額は、所定給付日数の支給残日数によっては、数十万円になることもあり、事業が軌道に乗るまでの資金に充てられるなどのメリットがあります。
しかし、開業届を税務署に提出するタイミングを間違えれば、受給できないなどの注意点もあります。サラリーマンをやめて個人事業主になる場合は、再就職手当の受給についてもしっかりと考えておく必要があるでしょう。
▼参照サイト
- https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
- https://www.hellowork.mhlw.go.jp/doc/saishuushokuteate.pdf
- https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139508.html
- https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/koyou_hoken/hourei_seido/situgyo/minasama/fusei.html