マンションの老朽化は深刻な社会問題のひとつです。政府はマンションの建て替えがしやすくなるよう、法整備などを進めています。年内にも、マンション改築の要件が緩和される予定で、建て替えが増えることも予想されます。
この記事では、マンション改築の要件緩和の内容や、建て替えに関する税金について解説します。
国土交通省がマンション改築の要件緩和へ
古くなったマンションの建て替えを促進するため、国土交通省は2021年中にもマンション改築の要件緩和に向けた法改正を行う予定です。そこで、ここではマンション改築の要件緩和に至った背景や、マンション改築の要件緩和の概要について見ていきましょう。
マンション改築の要件緩和の背景
ここでは、マンション改築の要件緩和の背景について見ていきましょう。
マンション改築の要件緩和の背景には、今後、急激に老朽化したマンションが増えると予想されるためです。国土交通省によると、2020年に103万戸である老朽化マンション(築40年以上のマンションのこと)は2040年では404万戸と、今後20年で築40年以上のマンションが4倍に急増すると予想されるとのことです。
それでは、老朽化マンションが増えるとどうなるのでしょうか。まず考えられるのが事故の発生です。外壁が剥がれ落ちる、防火体制が不十分などの理由で、事故が増加することが予想されます。また、人の住んでいないマンションなどが増えると、治安の悪化にもつながります。
そのため、老朽化したマンションは、できるだけ建て替えをしてほしいというのが、国や地域住民の考えです。しかし、マンションの建て替えに必要な資金が乏しく、また、現行の制度ではさまざまな厳しい要件もあって、改築が進んでいない現状があります。最近では滋賀県で廃墟同然となっているマンションが、行政執行により解体される事態にまで発展したケースもあります。
このような背景があることから、マンション改築の要件を緩和し、建て替えがしやすくなるようにすることが求められています。
マンション改築の要件緩和の概要
ここでは、2021年中に改正が予定されているマンション改築の要件緩和について、その概要を見ていきましょう。
マンション改築が進まない原因のひとつが、建て替え資金の不足です。いくら建て替えがしたくても、資金がなければ建て替えはできません。マンション改築の資金を得るひとつの方法として、マンションの建て替え時に増床を行い、管理組合が増床分を不動産会社に売却して、建て替え資金を得るという方法があります。
しかし、これまでは、マンションの建て替え時に増床できる要件は、1981年以前の旧耐震基準によって建てられた耐震不足の建物に限られていたため、新基準によって建てられたマンションでは増床ができず、なかなか建て替えが進まない状況でした。
そこで、今回の改正では、マンションの建て替え時に階数を増やせる要件を緩和し、管理組合が増床分を売却しやすくするようになっています。このことで、建て替えの資金が得やすくなって同時に住民の合意も進むため、建て替えが進み、老朽化マンションの数を減らすことができると期待されます。
マンション改築時に増床ができる要件としては、次の4つのケースが追加される予定です。4つのうち、いずれか1つに当てはまれば、建て替え時に増床ができるようになります。マンションが各要件に当てはまるかどうかは、1級建築士などの専門家が調査、判断します。
・外壁の劣化
例)ひび割れやはがれなどが一定以上ある場合
・防火体制の不足
例)非常用進入口がない場合
・配管整備の劣化
例)天井裏の排水管で2か所以上の漏水がある場合
・バリアフリーの未対応の場合
例)3階建て以上のマンションで、エレベーターがない場合
また、今回の改正では、マンション敷地売却事業の対象の拡大も行われる予定です。これまで、耐震性があると認められているマンションでは、住民全員の同意がないと敷地を売却することができませんでした。
しかし、改正により外壁の剥落等により危害が生ずるおそれがあるマンションでは、住民の4/5の同意があれば、敷地を売却することができるようになりました。このことで、マンションの建て替えだけでなく、売却についてもしやすくなる予定です。
マンション建て替えで知っておきたいマンション建替え円滑化法
実は、マンション建て替え時に階数を増やすための容積率の緩和は、2014年に改正のあった「マンション建替え円滑化法」によるものです。今回の改正も、マンション建替え円滑化法が基礎となっています。そこで、ここではマンション建替え円滑化法について見ていきます。
マンション建替え円滑化法は、建て替えや取り壊す必要のあるマンションについて、特別措置やマンションの敷地売却をしやすくする法律です。マンション建替え円滑化法では、建替事業の主体や運営ルール、意思決定の手続きについて明確化することが定められています。
また、マンションの建て替え後に、スムーズにマンション管理などができるように、区分所有権・抵当権または賃借権などの権利関係が建て替え後のマンションに円滑に移行されるための手続きも定められました。
マンションや敷地の売却にも定めがあり、耐震性不足の認定を受ければ、多数決(区分所有者の5分の4以上の賛成)により、マンションおよびその敷地を売却できます。
今後も、団地における敷地分割制度ができるなど、マンション建替え円滑化法は改正されていくことが予想されます。マンションを保有している場合、マンション建替え円滑化法は押さえておかなければいけない法律といえるでしょう。
マンション建替え円滑化法による税金の優遇
マンション建替え円滑化法では、税金面でもさまざまな優遇があります。ここでは、税金面の優遇措置について見ていきましょう。
マンション建替え円滑化法による主な税金面の優遇措置には、次のようなものがあります。
税目 | 内容 |
---|---|
所得税・住民税 | ・権利変換(旧マンションの権利関係が新マンションに移行すること)に伴い資産を取得した場合、譲渡がなかったものとみなし、所得税が非課税 ・建替えに伴い、土地等を売却して転出する場合には、所得税・住民税に軽減税率が適用 ・やむを得ない事情により売渡請求、買取請求等により転出する場合の、特別控除 |
登録免許税 | ・権利変換(旧マンションの権利関係が新マンションに移行すること)に伴い資産を取得した場合、以前の資産評価額を限度として非課税 |
不動産取得税 | ・権利変換(旧マンションの権利関係が新マンションに移行すること)に伴い資産を取得した場合、土地価額の一部が非課税 |
このほかにも、売却者が法人の場合の法人税や法人事業税についても、課税の特例などがあります。
このように、マンション建替え円滑化法による税金の優遇は、多岐の税金にわたりますが、基本的には、権利変換(旧マンションの権利関係が新マンションに移行すること)に伴い資産を取得した場合に、税金が非課税もしくは軽減措置があることになります。
まとめ
今、不動産を取り巻く問題には、さまざまなものがあります。空き家問題もありますし、マンションの老朽化も問題のひとつです。このまま何も法律に手を加えないでいると、老朽化マンションはますます増加し、治安悪化などの問題を起こします。
そこで、国交省はマンション建替え円滑化法を改正し、これまでよりもマンションの建て替えがしやすくなる予定です。マンション建替え円滑化法は、マンションの建て替えや売却などをしやすくなるためのさまざまな規定を定めた法律です。
今後、マンションの建て替えなどを考えている場合は、税金面の優遇もあるので、マンション建替え円滑化法について知識をみにつけておいたほうが良いでしょう。