節税?法人税の繰り延べ? 固定資産の圧縮記帳について | MONEYIZM
 

節税?法人税の繰り延べ?
固定資産の圧縮記帳について

圧縮記帳とは、固定資産を取得した場合における法人税、所得税の「課税の繰り延べ」です。一定の要件を満たすと、固定資産の取得年度の税負担を軽減することができます。この記事では法人における国庫補助金の圧縮記帳を中心として、具体例を見ながら説明します。

圧縮記帳を適用するとどうなる?

圧縮記帳の考え方とは?補助金取得の場合

圧縮記帳とは、本来は課税されるべき利益について、税務上における課税の繰り延べをする制度です。法人税法や租税特別措置法など税法独自の経理方法によって処理をします。所得税の圧縮記帳は、別の方法になりますので、ここでは法人税の圧縮記帳を中心に具体的に解説します。

 

例えば、会社が国から固定資産取得のために、補助金を100万円受けられたとします。
補助金を取得したときの仕訳イメージは次のとおりです。

1 借 方 貸 方 摘要
現預金 100万円 営業外収入 100万円 補助金の取得

この補助金で、補助金100万円と自己資金50万円で150万円の機械装置(耐用年数5年、定額法)を取得したとします。

2 借 方 貸 方 摘要
機械装置 150万円 現預金 150万円 機械装置の取得

取得してから決算まで6ヶ月利用したとすると、減価償却費は150万円×0.2(償却率)×6/12=15万円となります。圧縮記帳を行わなかったとすると、仕訳イメージは次のとおりです。

3 借 方 貸 方 摘要(圧縮なし)
減価償却費 15万円 機械装置 15万円 機械装置の償却

 

したがって、この機械装置に係る損益だけを取り上げれば、85万円分が課税対象となります。

(圧縮なし)    85万円 = 100万円(補助金収入)-15万円(減価償却費)

 

補助金等の交付は、事業者の取り組みを「支援」するため資金を給付するというものなので、補助金の大半に課税されると、事業者支援という補助金の目的を果たしたとは言えません。

 

このような場合、補助金の額について「圧縮記帳」と呼ばれる一定の経理処理をした場合には、その事業年度の課税を回避できます。

圧縮記帳の計算方法とは?

圧縮記帳の仕訳については、補助金の収入について課税するという法人税の原則を保ちつつ、一時的な課税を回避する処理をします。圧縮記帳の仕訳は、上記3の仕訳である減価償却の前に実施した後、減価償却費の計算をします。

圧縮できる額(圧縮限度額)ですが、国庫補助金を取得した場合、「固定資産の取得に充てた補助金の額」となりますので、この例では100万円となります。

圧縮記帳の経理方法は、「損金経理」による方法と「積立金」による方法などがありますが、ここでは原則的な方法をご紹介します。

損金経理による経理処理例 (原則)

3 借 方 貸 方 摘要(圧縮あり)
機械装置圧縮損 100万円 機械装置 100万円 機械装置の圧縮
減価償却費 5万円 機械装置 5万円 減価償却

 

このように機械装置の簿価は圧縮され、減価償却費も圧縮後の価額に基づき計算します。

(圧縮後の機械装置) 50万円
= 150万円(機械装置の取得価額)- 100万円(機械装置圧縮損)

 

(圧縮後の減価償却)  5万円 = 50万円(圧縮後の取得価額)×0.2×6/12

 

圧縮記帳をすると、この機械装置に係る損益だけを見れば、課税対象はなくなり、かつ、減価償却費を計上できます。

(圧縮あり)

0円 >100万円(補助金収入) - 100万円(機械装置圧縮損) - 5万円(減価償却)

 

また、圧縮対象となるのは減価償却資産だけではなく、土地などの非償却資産も含まれます。

圧縮記帳処理をした年度においては、対象資産は課税を繰り延べることができ、減価償却資産は償却期間を通して少しずつ課税され、非償却資産はその資産が売却等の処分時に課税されます。

圧縮記帳の種類と適用要件

多くの種類がある圧縮記帳

圧縮記帳は、補助金等の取得以外にもいくつかあります。代表的な例を挙げておきます。

根拠法 圧縮記帳 適用できる場合など
法人税法 保険差益の圧縮記帳 法人の有する固定資産の滅失等により3年以内に取得した保険金等で、その滅失をした固定資産の代替資産を取得等した場合
交換の圧縮記帳 法人が同じ種類の固定資産を交換により取得した場合
租税特別措置法 特定資産の買換えの圧縮記帳 法人が所有する棚卸資産以外の特定の資産(譲渡資産)を譲渡し、その事業年度内に特定の資産(買換資産)を取得等し、事業の用に供した場合
収用等の圧縮記帳 法人の所有する資産が収用等され、交付を受けた補償金等により代替資産を取得した場合

 

▼小見出し②(10~35文字)

種類によって要確認!圧縮記帳の適用要件

 

▼見出し概要(本文)

圧縮記帳の適用要件として、まず確認すべきは次の2点です。

  • 決算において、圧縮限度額内で所定の経理をしなければならない。(税務調整だけでは不可)
  • 確定申告書には、明細(申告書別表十三(一)~(十二))を添付しなければならない。

 

次に、圧縮記帳を適用する時期ですが、同じ事業年度内に補助金の収受と固定資産の取得が起こるとは限りません。そこで、圧縮記帳をするタイミングとしては次の3つのパターンが考えられます。

パターン 主な取り扱い
固定資産を
同期に取得
当期に圧縮記帳、減価償却を実施。
固定資産の
事後取得
補助金を受けたが、返還不要が当期に確定していない場合は、特別勘定として、翌期に圧縮記帳を実施。
固定資産の
先行取得
当期に通常の減価償却を実施する。翌期には、圧縮記帳を実施。

 

上記②や③の場合は少し経理処理も複雑となります。

 

例えば②の場合ですと、圧縮用の特別な勘定科目を設けます。返還不要が未確定の国庫補助金等については、一旦、「圧縮特別勘定」として負債の部で処理をします。そして、返済不要確定後に収益に振り替えます。仕訳例は次のとおりです。

 

記帳 借 方 貸 方 説明
当期 現預金      xxx円 圧縮特別勘定  xxx円 資産取得前は特別勘定で処理する
翌期 圧縮特別勘定  xxx円 営業外収入       xxx円 資産取得年度に、収益とする。
固定資産     xxx円 現預金      xxx円 固定資産の取得
××圧縮損         xxx円 固定資産     xxx円 固定資産の圧縮記帳
減価償却費       xxx円 固定資産     xxx円 減価償却処理

圧縮記帳適用における注意点とは?

圧縮記帳のメリット・デメリット

圧縮記帳を適用した場合のメリット・デメリットを挙げておきます。

 

圧縮記帳は、対象となる固定資産の償却期間又は土地等を処分するまで通常の固定資産の管理に加えて、「圧縮」したという情報を管理する必要がありますので、適用にあたってはよく検討しましょう。

 

メリット 補助金などの給付があった年度の税負担が少なくなる。(圧縮時の節税効果)
収益を受ける年度と固定資産を取得等する年度が同一事業年度になくてもよい。(利用しやすい)
減価償却資産だけでなく、土地などの非償却資産も適用可能。
他の制度との組み合わせができるケースが多い。(下記の併用例参照)
デメリット 固定資産の管理項目が増える。(償却資産税などは圧縮記帳の考えがなく、従来の管理も必要)
圧縮記帳の対象となる固定資産を売却すると、簿価が圧縮されていることにより売却益が多くなる。
租税特別措置法の圧縮記帳を適用した場合、他の租税特別措置法との重複不可。

他の制度との併用によりさらなる節税も可能

ここからは、応用編として、圧縮記帳と併用ができる他の制度について一例をご紹介します。

中小企業者等が30万円未満の減価償却資産を取得した場合には、一定要件のもと、その取得価額は損金の額に算入できます。(以下、「少額減価償却資産の特例」と呼びます。)

 

少額減価償却資産の特例は租税特別措置法の規定であるため、他の租税特別措置法との併用はできませんが、法人税法の圧縮記帳との併用は可能です。

 

120万円の資産を取得するために100万円の補助金を充てる場合、

①    補助金等の圧縮記帳 → ②少額減価償却資産の特例

と、二つの制度を併用することによって取得年度においては大きく節税をすることが可能となります。

(①圧縮記帳、②少額減価償却資産の特例)

0円 >100万円(補助金収入) - 100万円(圧縮損) - 20万円(※)

※120万円のうち100万円を圧縮したため、取得価額が20万円の減価償却資産とされ、

20万円<30万円 となるため全額償却となります。

まとめ

圧縮記帳は、税法独自の制度ですが会計処理を前提とします。

したがって、適正な会計処理が行われていない場合には課税の繰り延べは認められません。

特に、固定資産の事後取得などの場合には、前年度における特別勘定等での経理処理の事実がないと認められませんので注意しましょう。

岡和恵
大学卒業後、2年間の教職を経て専業主婦に。システム会社に転職。 システム開発部門と経理部門を経験する中で税理士資格とフィナンシャルプランナー資格(AFP)を取得。 2019年より税理士事務所を開業し、税務や相続に関するライティング業務も開始。
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