毎月10月は、厚生労働省所管の独立行政法人勤労者退職金共済機構が定めた中退共(中小企業退職金共済制度)の加入促進強化月間にあたります。
中退共の加入促進強化月間が設けられているのは、中退共が中小企業のためにとても有用な制度だからです。そこで、ここでは中小企業退職金共済制度のしくみについて解説します。
中小企業退職金共済制度(中退共)とは
はじめに、中小企業退職金共済制度(中退共)とはどのような制度なのかを見ていきましょう。
中小企業退職金共済制度とは、中小企業や個人事業主の従業員に対する公的な退職金の制度のことです。独力では退職金制度を設けることが難しい中小企業や個人事業主の相互共済の仕組みと、国の援助によって退職金制度が設けられています。
1959(昭和34)年、中小企業退職金共済法に基づいて設けられました。中退共制度があることで、中小企業の従業員や個人事業主が安心して働くことができ、事業の発展にもつながります。厚生労働省が所管する独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部が制度を運営しています。
中小企業退職金共済制度に加入する企業は、毎月掛金を出し合い、加入する企業の従業員が退職すると、集まった掛金の中から退職金を支払います。また、新しく中退共制度に加入する場合や、掛金月額を増額する場合に、掛金の一部について国からの助成があるため、企業の負担も少なくなります。
会社は、計画的に退職金を積み立てることができ、従業員にとっても、退職時に退職金の支給があるため、安心して、その会社で働けます。このように、中小企業退職金共済制度は、中小企業や働く従業員にとってメリットのある制度です。
中小企業退職金共済制度のしくみとメリット
中小企業退職金共済制度のしくみ
まずは、中小企業退職金共済制度のしくみから見ていきましょう。中小企業退職金共済制度では企業(事業主)、従業員、中退共の3つが関係してきます。
・中退共への加入
まず、企業(事業主)が中退共に加入します。加入とは、企業(事業主)が中退共と退職金共済契約を結ぶことをいいます。申込は金融機関などで行います。企業(事業主)が中退共に加入すると、中退共から従業員に、従業員ごとの共済手帳が送付されます。これで、加入の手続きは終了です。
中退共に加入できるのは、一定の要件を満たす中小企業もしくは個人事業主になります。
・掛金の拠出
中退共に加入すると、企業は毎月、契約した掛金を金融機関に納付する必要があります。掛金は、従業員の負担はなく、全額を企業(事業主)が負担します。
・従業員の退職時
従業員が退職した際には、企業(事業主)と従業員のそれぞれで行う手続きがあります。企業(事業主)は、従業員が退職したときには中退共へ「被共済者退職届」を提出します。同時に、企業(事業主)は、従業員に「退職金共済手帳(請求書)」を渡します。
・退職金の支払い
従業員は「退職金共済手帳(請求書)」を企業(事業主)から受け取ったら、中退共に退職金の請求を行います。中退共は、従業員の請求に基づいて、退職金を従業員に直接、支払います。
中小企業退職金共済制度のメリット
次に、中小企業退職金共済制度のメリットを見ていきましょう。中小企業退職金共済制の主なメリットには、次のものがあります。
・掛金の負担軽減措置
中退共は、中小企業だけが掛金を負担するわけではありません。実は、国からの助成もあります。新しく中退共制度に加入する場合や、掛金月額を増額する場合に、掛金の一部について国からの助成があります。例えば、新規加入時には従業員ごとに最高6万円を国が助成します。そのため、企業の負担も少なくなります。
・掛金は全額が経費にできる
中退共へ支払った掛金は、全額を経費にできます。そのため、利益がその分圧縮され、納める税額を低く抑えられます。
・手続きや管理が簡単
退職金の積立や積立したお金の管理を企業や事業主が行うのは大変です。
中退共なら、企業や事業主に代わって退職金の管理を行うほか、掛金の支払いも口座振替のため、毎月の手続きもなく簡単です。
・掛金月額が従業員ごとに選べる
退職金の積立で気になるのが、掛金の金額です。中退共なら、従業員ごとに掛金の月額を選択できます。また、いつでも掛金月額を増額できるので安心です。
中小企業退職金共済制度のQ&A
ここまでは、中小企業退職金共済制度のしくみやメリットを見てきました。
ここからは、中小企業退職金共済制度の疑問点をQ&A形式で見ていきましょう。
Q1. 加入できる企業には、どのような要件がありますか?
A1.中退共に加入できるのは、次の要件を満たす中小企業もしくは個人事業主です。
業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 | |
---|---|---|---|
一般業種(製造業、建設業等) | 300人以下 | OR | 3億円以下 |
卸売業 | 100人以下 | OR | 1億円以下 |
サービス業 | 100人以下 | OR | 5千万円以下 |
小売業 | 50人以下 | OR | 5千万円以下 |
各業種ごとで、従業員数もしくは資本金(出資金)の要件を満たす必要があります。
Q2.途中で、従業員数や資本金の増加で、中小企業者の要件でなくなった場合はどうなりますか?
A2.原則、企業や事業主と中小企業退職金共済制度契約は、解除されます。契約解除の場合は、従業員の請求によって解約手当金の支給、もしくは一定の要件を満たしていれば、他制度への移行も可能です。
Q3.契約日からさかのぼって加入できますか?
A3.契約日からさかのぼって加入できません。また、申込書提出後に契約日を変更することもできません。
Q4.家族従業員も中退共に加入できますか?
A4.家族であっても、従業員として働いていれば、中退共に加入できます。ただし、事業主と同居し、同じ家計のもとで生活している(生計を一にする)家族が加入を希望する場合は、次の要件を満たす必要があります。
- 同居の家族が小規模企業共済に加入していないこと
- 次の書類を提出できる家族従業員
- 確認書(チェックシート)
- 労働条件通知書もしくは労働条件契約書の写し
- 賃金台帳や源泉徴収簿など賃金の支払いが確認できる書類
Q5.中退共の加入に年齢の制限はありますか?
A5.中退共の加入に年齢の制限はありません。
Q6.自己都合、会社都合の違いで退職金の金額に変更はありますか?
A6.自己都合、会社都合の違いで退職金の金額が変わることはありません。ただし、問題などを起こして懲戒解雇された場合には、厚生労働大臣の認定を受けたうえで、退職金を減額できます。※減額分が事業主に返還されることはありません。
まとめ
中小企業退職金共済制度とは、簡単にいうと、中小企業や個人事業主の従業員に対する公的な退職金の制度のことです。中退共は、中小企業や個人事業主の毎月の掛金や、国の助成を合わせて運用し、加入者の従業員が退職した際に、退職金を支払います。
中小企業や個人事業主が中退共に加入することで、従業員が安心してその企業で働ける以外にも、掛金を全額経費にできる、手続きや管理が簡単などなどの企業側のメリットも多くあります。
10月は、厚生労働省所管の独立行政法人勤労者退職金共済機構が定めた中退共の加入促進強化月間です。従業員の退職金についてどうするのか考えている場合は、この機会に中小企業退職金共済制度への加入を考えてみてはいかがでしょうか。
▼参照サイト
- https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13532.html
- https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/seido/seido03.html
- https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000113598.html
- https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/taisilyokukin_kyousai/ippanchuutai/
- https://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/download/pdf/syousai.pdf