毎年、会社が年末に行わなければならないことのひとつに、年末調整があります。年末調整の注意点のうち、今年は在宅勤務手当について気を付ける必要があります。
そこで、ここでは「在宅勤務手当が年末調整の対象になるのか?」といった疑問をはじめ、在宅勤務手当と給与の関係について解説します。
そもそも在宅勤務手当とは
在宅勤務手当と給与の関係について見ていく前に、まずは在宅勤務手当とはどのようなものかを見ていきましょう。
新型コロナウイルスの影響拡大で、テレワークなどの在宅勤務をする企業が増加しました。しかしテレワークなどの在宅勤務をする場合には、仕事用のパソコンやデスクを用意したり仕事用のスペースや環境を整えるなどの準備が必要となり、ある程度のお金がかかります。また、在宅勤務を始めてからも、通信費や光熱費などが、普段よりも多くかかることになります。
在宅勤務をすることで発生するさまざまな支出は、従業員が負担する性格のものではありません。仕事をするうえで必要な経費であるため、会社が負担すべき支出です。そこで、在宅勤務について在宅勤務手当を支給し、在宅勤務に必要な経費を会社が負担します。
在宅勤務手当の内容をどうするのかについては、何か規定があるわけではありませんが、おおむね費用の実費相当額を精算する方法と渡し切りの方法があります。
在宅勤務手当が年末調整の対象になる場合とならない場合
在宅勤務手当を支給している会社にとって、年末に気になるのが、在宅勤務手当が年末調整の対象になるのかどうかということです。実は、在宅勤務手当はその内容によって、年末調整の対象になる場合とならない場合があります。
そこで、ここでは在宅勤務手当が年末調整の対象になる場合と、ならない場合について見ていきましょう。
在宅勤務手当が年末調整の対象になる場合
まずは、在宅勤務手当が年末調整の対象になる場合です。在宅勤務手当が年末調整の対象になる場合の代表的なものは、次の2つです。
・企業が従業員に渡し切りで金銭を支給している場合
企業が従業員に渡し切りで金銭を支給している場合とは、費用がいくら発生したかに関係なく、例えば1万円など決まった金額を手当として渡しているケースのことです。渡し切りであるため、後でお金を清算するということはありません。
実際に従業員が支払った支出に比べて、在宅勤務手当のほうが高い場合も低い場合もありえます。しかし渡し切りで金銭を支給している場合は、給与扱いとして年末調整の対象となります。
・会社が従業員に事務用品や環境整備の物品等を支給した場合で所有権が従業員にわたる場合
在宅勤務をするための準備として、会社がボールペンやコピー用紙などの事務用品や、パソコンなどの環境整備の物品を購入し、従業員に渡すことがあります。この場合のうち在宅勤務が終わったらそのまま従業員に在宅勤務のための物品が付与されるケースでは、物品の譲渡を無償で受けたという「経済的利益」となるため、給与扱いとして年末調整の対象となります。
在宅勤務手当が年末調整の対象にならない場合
次に、在宅勤務手当が年末調整の対象にならない場合を見ていきましょう。在宅勤務手当が年末調整の対象にならない場合の代表的なものは、次の2つです。
・実費相当額を精算する場合
実費相当額を精算する場合は、年末調整の対象になりません。例えば、5万円のパソコンを従業員が購入し、そのお金を後で在宅勤務手当として会社が従業員に支払った場合は、実費相当額を精算しているものになるので、給与扱いにはならず年末調整の必要はありません。
・企業が従業員に事務用品や環境整備の物品等を支給した場合では返却を要する場合
これは上述した在宅勤務手当が年末調整の対象になる場合の反対のケースです。在宅勤務をするための準備として、会社がボールペンやコピー用紙などの事務用品やパソコンなどの環境整備の物品を購入して従業員に渡す場合のうち、在宅勤務が終わったら物品が従業員から会社に返却される場合は物品を貸しているだけになります。よって給与扱いにはならず、年末調整の必要はありません。
在宅勤務手当が年末調整の対象にならないためには
在宅勤務手当には、年末調整の対象になる場合とならない場合がありました。会社にとってみれば、給与扱いになる場合も給与扱いにならない場合も、同じ経費であることには違いありません。しかし従業員にとっては、所得税や社会保険料の負担が増えることになるため、できれば、年末調整の対象にならない方がよいでしょう。
そこで、ここからは在宅勤務手当が年末調整の対象にならないための方法について見ていきましょう。
在宅勤務費用の清算が必要
在宅勤務手当が年末調整の対象にならないようにするためには、渡し切りで在宅勤務手当を支給するのではなく、かかった在宅勤務費用の清算が必要となります。在宅勤務費用の清算には「先に企業が金銭を仮払いし、後で清算する方法」と「先に従業員が立替払して、後で清算する方法」の2つがあります。それぞれ、具体例で一般的な会計処理とともに見ていきましょう。
1.先に企業が金銭を仮払いし、後で清算する方法
この方法では、先に企業が一定金額の金銭を従業員に渡して後に領収書と余った金銭を従業員から受け取る方法です。
例)在宅勤務の準備のため、従業員に5万円を現金で支払った。従業員は4万円のパソコンを購入し、その後、領収書と残りの現金1万円を受け取った。
・従業員に5万円を現金で支払った時の仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
仮払金 | 5万円 | 現金 | 5万円 | 在宅勤務手当 |
従業員に現金を手渡した際には、まだ何にいくらかかるのかわからない状態のため、「仮払金」や「立替金」などの勘定科目で処理します。
・清算時の仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
消耗品費 | 4万円 | 仮払金 | 5万円 | パソコン代 |
現金 | 1万円 | 在宅勤務手当清算 |
2.先に従業員が立替払して、後で清算する方法
この方法では、先に従業員が在宅勤務に必要な物品を購入して後に会社が実費を渡す方法です。
例)在宅勤務の準備のため、従業員が4万円のパソコンを購入した。その後、領収書の提出と引き換えに、現金4万円を支給した。
このケースでは、清算時の仕訳のみ必要です。
・清算時の仕訳
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
消耗品費 | 4万円 | 現金 | 4万円 | パソコン代 |
在宅勤務費用と私用部分を一緒に支払っている場合は按分が必要
在宅勤務では、文房具やパソコンなど、在宅勤務にのみ使用する目的で支払いをするものもあれば、水道光熱費のように、在宅勤務にかかる費用と私用部分を一緒に支払うものもあります。しかし、在宅勤務手当が年末調整の対象にならないためには、かかった在宅勤務費用の清算が必要です。
そこで、在宅勤務費用と私用部分を一緒に支払っている場合は按分計算を行い、在宅勤務にかかった費用がいくらかを求める必要があります。按分計算をする場合は、明確な基準をもとに計算する必要があります。
例えば、電話料金やインターネット通信料の場合は労働時間を、電気料金の場合は面積等をもとに計算します。国税庁が公表している「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ」では、それぞれ次の計算式で求めることとなっています。
・電話料金やインターネット通信料
・電気料金
例えば、在宅勤務20日、1か月30日、1か月2万円の電話料がかかった場合の業務で利用した部分は、次の通りです。
業務で利用した部分=1か月の電話料金2万円×(在宅勤務日数20日/1月の日数30日)×1/2=6,667円(1円未満切り上げ)
まとめ
在宅勤務手当には、年末調整の対象となる場合とならない場合があります。在宅勤務手当が年末調整の対象にならないためには、かかった在宅勤務費用の清算が必要です。また、在宅勤務費用と私用部分を一緒に支払っている場合は按分の計算が必要となります。
在宅勤務手当を支給する場合は、年末調整の対象になるのかどうかを正しく判断し、適切な処理が必要となるでしょう。