昨今、赤字が続くなどの理由で事業の継続をやめようという企業も多くなっています。しかし、法人の場合は原則、解散をしない限り企業は続いていくため、会社を閉める場合は解散を行う必要があります。
では、税金を滞納していても、法人は解散できるのでしょうか。ここでは、税金の滞納と法人の関係について解説します。
法人の解散及び清算の一般的な流れ
事業を終了し法人を無くすためには、解散と清算の手続きをする必要があります。そこで、まずは法人の解散及び清算の一般的な流れを見ていきましょう。
【解散および清算の流れ】
①解散の決定と清算人の選任
取締役会・株主総会で解散の決議を行い、清算人を選任します。
②解散登記および清算人の登記
解散日から2週間以内に、法務局で解散と清算人の登記をします。
③解散の公告
解散日から2ヵ月以内に、解散した旨の公告を行います。
④各種届出書の提出と解散確定申告
解散登記が終了すれば、解散した旨の届け出を税務署や都道府県、市町村に提出します。また、解散日から2ヵ月以内に、解散確定申告を税務署に提出します。
⑤清算
残余財産を確定させ、債務の弁済や免除などの清算を行います。
⑥清算結了登記
清算が結了したら、その旨を法務局で登記します。
⑦各種届出書の提出と確定申告
清算が完了したら、その旨の届け出を税務署や都道府県、市町村に提出します。また、税務署にも残余財産確定事業年度の確定申告書を提出します。
⑧法人の消滅
上記の手続きが完了したら、法人の消滅となります。
税金を滞納していても法人を解散できる?
法人の解散や清算には、多くの手続きがあり、時には長期間に及ぶこともあります。手続きを進める中で予想していなかったことが起こることもありますが、その1つが税金の滞納です。ここでは、税金の滞納と法人の解散について見ていきます。
解散や清算の登記と税法上の解散・清算は違う
解散や清算は、法務局で登記を行い、登記が終わるとその事実が登記簿謄本に記載されます。そのため、登記の完了と共に、解散や清算も完了すると考えがちですが、税法上ではそうではありません。
法人税法基本通達1-1-7では、次のように記載されています。
「法人が清算結了の登記をした場合においても、その清算の結了は実質的に判定すべきものであるから、当該法人は、各事業年度の所得に対する法人税を納める義務を履行するまではなお存続するものとする。」
つまり、法人税法上では、解散や清算の登記をしていても、税金の滞納があればその法人は消滅しておらず、存続していると考えます。
解散や清算の登記をしても、納税義務は消滅しない
法人税法上では、税金の滞納がある限り、法人は存続しています。しかし、「解散および清算の流れ」で確認したとおり、実務では、取締役会・株主総会での決議や公告などが行われているため、法人の実態がすでにないケースも多いでしょう。では、滞納している税金は誰が支払うのでしょうか。
実は、法人が解散した場合の納税義務は、法人ではなく清算人が負うことになります。このように、本来の納税義務者(法人)と一定の関係を有する者(清算人)が、納税義務者に代わって税金を納付する義務を持つことを「第二次納税義務」といいます。
清算人には第二次納税義務が発生するため、清算人を選ぶ際には、その後の税金の納付のことまで考えておく必要があります。清算人が、法人の滞納した税金を全て納付して初めて、税法上でも会社の解散や清算が完了します。
税金の支払を遅らせることも考えよう
税金の滞納があるまま、法人を解散・清算すると、清算人がその税金を支払う必要があります。しかし通常、清算人になるのは、代表取締役などその法人の関係者です。赤字の法人では、解散に至るまでの事業活動で、すでに代表取締役などの自己資本を投入していることも多く、実際には第二次納税義務が果たせないケースも多いと考えられます。
では、そのような場合は、どうすればよいのでしょうか。実は、一定の条件に該当すれば、税金の支払いを遅らせたり、無くしたりすることも可能です。ここでは、税金の支払を遅らせる方法を見ていきましょう。
納税期限を延長する納税の猶予とは
「納税の猶予」は、一定の要件に該当すれば、国に税金の納付を1年間待ってもらえる制度です。1年間の猶予期間の間に、納税資金を確保し、税金の完納を目指すことができます。
また、納税の猶予が受けられると、延滞税も全額もしくは半額免除となるので、納税者にはとても有利な制度です。納税の猶予を適用するための要件は、次のいずれかに該当する場合となります。
- ①災害により財産に相当な損失を受けた場合
- ②災害、病気、事業の休廃止などの理由で、国税を一時に納付することができない場合
- ③一定の期間が経過した後に納付すべき税額が確定(修正申告など)し、国税を一時に納付することができない場合
事業の休廃止などでも認められるので、解散・清算の場合には納税の猶予の要件を満たすことになります。
納税の猶予を受けるためには、税金の未納額や財産の状況、今後の収支の予想などの所要の事項を記載した「納税の猶予申請書」を税務署に提出する必要があります。状況により、契約書など一定の添付書類が必要です。
滞納処分の執行停止とは
納税の猶予は、あくまで納税期限を先延ばしにしてくれる制度です。そのため、税金を納めなくてよいわけではありません。なかには、納税期限を先延ばしにしても、支払う資金がないという人もいるでしょう。
その場合に考えたいのが「滞納処分の執行停止」を認めてもらうことです。滞納処分とは、滞納している税金を強制的に徴収するために、納税者の財産などを差押え、差し押さえた財産を競売などで現金化し、未納の税金に充てることをいいます。
「滞納処分の執行停止」とは、納税者が一定の状態にあるとみなされる場合に、上述した滞納処分を行うことを停止することです。滞納処分の執行停止の状態が3年間継続すれば、未納の税金は消滅し、納めなくて良いことになります。
滞納処分の執行停止は、法人だけでなく、第二次納税義務者にも適用できるため、法人の解散や清算を考えた場合にはとても有利な方法です。ただし、有利な方法であるため、滞納処分の執行停止には、次のいずれかに該当する必要があります。
- ①滞納処分の執行等をすることができる財産がないとき
- ②滞納処分の執行等をすることで、その人の生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき
- ③滞納処分の執行等をすることができる財産やその財産の所在がともに不明であるとき
法人を解散・清算する場合は、これらの要件にあてはまる場合も多いです。
滞納処分の執行停止の手続きは、納税の猶予とは大きく異なります。というのも、滞納処分の執行停止は、申請がないからです。国や各自治体が、独自で判断し、職権をもって滞納処分の執行を停止します。
しかし、滞納処分の執行停止は、ただ待っていても行われる可能性は、低いです。滞納処分の執行停止を受けるためには、自ら税務署や各自治体の担当者に何度も相談するなどの努力が必要です。もちろん、滞納処分の執行停止が適用されたとしても、その後に生活に困窮するなどの要件には該当しなくなったと判断されれた場合は、取り消しもあります。
滞納処分の執行停止を受けるためには、専門性の高い知識や経験も必要となるため、必ず税理士などの専門家と相談しましょう。
まとめ
解散や清算の登記と税法上の解散・清算は異なります。税金の滞納があっても解散や清算の登記はできますが、税法上、滞納があると法人は存続します。また、納税義務は清算人が負うことになります。
税法上でも、法人を消滅させるためには、滞納している税金を納める必要がありますが、すべての法人や清算人が税金をすぐに納められるわけではありません。納税の猶予や滞納処分の執行停止制度を、上手に利用することも考えましょう。
▼参照サイト
- https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=334AC0000000147#168
- http://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/chosyu/03/034/01.htm
- https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/tyousyu/150302/02/01.htm#a-004
- http://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/chosyu/06/02/153/01.htm
- https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=334AC0000000147#866