企業価値向上の観点から会社の経営に不動産投資を活用することをCRE戦略と呼びます。会社として不動産投資を行うと、経営の安定や節税にも繋がるため、中小企業は必見です。
この記事では、会社として不動産投資を行う方法や節税のための不動産投資、CRE戦略の詳細について解説します。
会社が不動産投資を行う方法
不動産投資とは
会社は、資金を設備投資に充てたり、人件費などの日常的な経費に充て、それを収益獲得に生かしています。そのような資金活用方法のひとつとして、会社の資金を不動産に割り当て、不動産からリターンを得るのが不動産投資になります。
不動産投資によってリターンを得る手段は、大きく2つあります。
リターンの種類 | リターンを得る方法 |
---|---|
インカムゲイン | 保有する不動産を他者に貸して、賃料収入を受け取る方法 |
キャピタルゲイン | 保有する不動産を売却して、売却益を得る方法 |
会社が不動産投資を行うメリット
最近は個人で不動産投資を行う方も増えていますが、中小企業の経営者であれば、会社で不動産投資を行うことメリットも知っておくべきでしょう。
- 経営が安定する
不動産投資は難しいとも言われますが、個人ではなく企業としての信用力があるため、個人では手の届かない物件を購入したり、優良な物件を購入したりできる可能性があります。安定したテナントが見込める物件であれば、平均以上の投資成果を期待することができます。このように、不動産投資により安定した収益を上げることができれば、会社経営の安定に寄与することになります。 - 節税になる
個人での不動産投資の場合、賃料収入には累進税率が適用されますが、会社にかかる法人税や地方税の税率は一定です。
個人による不動産の譲渡の場合も、長期譲渡所得であれば所得税(復興所得税含む)が315%、住民税が5%となります。一方で短期譲渡所得であれば所得税(復興所得税含む)が30.63%、住民税が9%となるため。特に短期の譲渡であれば、法人での売却のほうが節税になります。
また、個人で不動産を保有して賃料収入で資産を形成していくと、いずれ切り離せないのが相続税です。相続時の相続財産が課税対象となりますが、会社に不動産を保有させれば、相続税対策の選択肢も増えることになります。
会社が不動産投資を行う際の注意点
不動産投資にはリスクが伴うのでその点は注意が必要です。長期保有している間に、空室リスクや修繕リスクなどが顕在化して収入減や追加コストが発生する可能性があります。また、将来売却しようとしても、不動産価値が想定以上に下落してしまう可能性もあります。
その他の注意点として、会社として不動産投資を行うなら、事業の経験が生きる投資を行うべきでしょう。なじみのある土地なら周辺環境の動向も把握できますし、信頼できる取引先が入居する物件であれば、将来に不測の費用や損失が発生する可能性を減らすこともできます。逆に、なじみのない土地で物件を取得するとなると、投資のリスク判断は難しくなります。
CRE戦略とは
会社による不動産保有の戦略として、CRE戦略があります。CRE(Corporate Real Estate)とは、企業不動産のことで、企業が保有または賃貸借により活用している土地や建物をさします。CREとしては、事業用の事務所、店舗、工場などに加え、福利厚生施設なども含まれます。
企業にとって、不動産は高額で重要な資産です。従業員の働きやすさにも大きな影響があり、活用の仕方によって、企業価値の向上を図ることもできます。
CRE戦略の本質は、企業不動産の活用を経営戦略に組み込むことです。経営戦略に沿って活用することにより、保有資産を最適化し、価値の最大化を図ります。
CRE戦略の流れ
CRE戦略は、PDCA(計画、実行、評価、改善)に似たサイクルで実行するのが良いとされています。
- リサーチ
まずは、CRE情報の棚卸しを行います。具体的には、自社の不動産について、物理的・権利的・経済的などの観点から状況を把握します。市場価格の調査も行い、現状の価値を把握するとともに、潜在的なリスクも検出するようにします。
このようなリサーチを行う目的は、経営戦略の観点から不動産を最大限活用するための分析・判断材料を得ることにあります。 - プランニング
リサーチにより得た保有不動産の最適な運用方法を検討し、戦略を策定していきます。このとき、戦略実行による効果のシミュレーションを行い、会社の財務への影響分析も行います。
なお、不要な不動産があればその処分案を検討したり、不動産の管理コストが大きければその低減策を立案したりするなど、不動産活用以外の面でもメリットが期待できることは計画していきます。 - プラクティス
プランニングを踏まえ、具体的なアクションを実行に移します。戦略に基づいた不動産用途の変更や、リノベーション、管理会社の業務の見直し、不動産の売却や購入などを行います。 - レビュー・アクト
プラクティスにより生じた結果が、プランニングの時点で企図していた通りになっているか、比較・検証を行います。結果として期待した成果が得られていない場合は、その原因を把握し、改善策を検討します。
CRE戦略を取り入れるメリット
一般に、不動産は企業にとって最も高価な固定資産になります。最大限活用することにより生産性の向上が期待できますし、また維持管理コストも大きいため、コスト管理を適切に行い、場合によってはコスト削減を図ることもできます。そうしたことが、業績向上に貢献します。
また、福利厚生施設などを上手に活用することで従業員の満足度が上がり、社員の定着や士気向上などが期待できます。
不動産投資が節税に繋がるポイント
不動産投資というと、節税ということがよく言われますが、利益を生みながら節税できないと意味がありません。どんな場合に有効に節税できるかをあらかじめ把握しておきましょう。
経費として扱う支出
会社で不動産投資を行うと、固定資産税、保険料、管理会社への管理委託料、借入に係る支払利息、修繕費などが会社の費用として損金算入されます。これにより不動産投資に係る課税所得を減らすことができ、法人税を減らす効果があります。
ただし、これらは節税効果があるとは言え、費用が増えれば利益が圧迫されます。不動産投資の総合的な収支がマイナスにならないように注意する必要があります。
総合課税
個人で不動産投資を行った場合、賃料収入は、不動産所得または事業所得に分類されます。これらの所得は総合課税を受けるため、給与など他の所得と合算して申告することになります。
個人の所得税は累進課税であるため、所得が多いほど税率が高くなります。それに対して、もし会社で不動産投資を行った場合、高額所得者の個人に対する所得税ほど高くなることはありません。高額所得者が不動産投資を行うのであれば、自らが経営する法人に移すなどすることで節税効果を得られます。
減価償却費
不動産投資で建物を保有すると、減価償却費を計上でき、これにより課税所得を減らすことができます。減価償却の法定耐用年数は建物の構造によって異なりますが、法定耐用年数が短いほど減価償却が終わるのが早く、つまり節税効果を早く享受できることになります。
不動産投資を行う場合は、その建物の法定耐用年数が何年かを確認しましょう。中古不動産の場合は耐用年数が短くなるため、より節税のメリットを得やすくなります。
まとめ
不動産投資のメリットとして節税がよく言われますが、賃貸として扱うのならば利益が出たほうが良く、自社利用するのであれば、投資に見合った効果を得なければ意味がありません。賃貸でも自社利用でも、企業価値の向上に結びつけられるように、事前に計画を立て、期待される成果を検証してから投資を行うべきでしょう。