2021年の出来事を経済効果・経済損失で振り返ろう!東京五輪、緊急事態宣言、岸田政権発足などのマネー事情を解説 | MONEYIZM
 

2021年の出来事を経済効果・経済損失で振り返ろう!東京五輪、緊急事態宣言、岸田政権発足などのマネー事情を解説

二度の「緊急事態宣言」発令をはじめ、2021年も新型コロナに翻弄された1年でした。そんな中、7月~8月にかけて1年延期されていた東京オリンピック・パラリンピックが開催されるなど、さまざまな出来事がありました。そうしたイベントや事件のたびに注目されたのが「経済効果」や「経済損失」です。どんな「見積もり」がされたのか、“2021年のマネー事情”を振り返ってみましょう。

田中将大の年俸9億円は高いのか?

箱根駅伝は数十億円の「宣伝効果」

正月の風物詩として定着した箱根駅伝。21年の覇者は最終10区で大逆転した駒澤大学でした。この箱根駅伝は、出場できるのが関東地区の大学限定にもかかわらず、テレビ放送は全国ネットで、しかも視聴率は30%超え。長時間にわたってユニフォームの大学名が映し出され、大学名が連呼されることから、その広告効果には絶大なものがあります。

 

2007年に優勝を飾った順天堂大学が得た「経済効果」は、広告費換算で約20億円、テレビ、新聞を合わせた広報効果は約60億円に及ぶ、という研究論文もあります(順天堂大学スポーツ健康科学研究第11号「2007年箱根駅伝総合優勝の広報効果の研究」)。SNSなどが普及した昨今の状況を考えれば、数字はさらに上をいくでしょう。大学の名前を売り、ブランドイメージを高めるために、今後も熱い戦いが展開されそうです。

田中将大投手の復帰で宮城県に57億円

1月17日、スポーツイベントなどの経済効果研究の第一人者である関西大学の宮本勝浩名誉教授(理論経済学)は、田中将大投手がニューヨークヤンキースから8年ぶりに楽天に復帰したことで、地元宮城県に年間約57億1,697万円の経済効果をもたらす、という試算を発表しました。

 

田中投手の復帰で球場に足を運ぶファンが20%増え、年間で35万人以上の観客増につながり、グッズ販売や飲食代、さらに放映権収入やスポンサー収入などを合わせて約34億6200万円。これに加えて、宮城県に波及する経済効果が、過去の県の分析と照らし合わせて約22億5500万円が見込める…という計算でした。

 

この結果を踏まえて宮本名誉教授は、「田中投手の年俸9億円は、決して高くはない」とコメント。ただ、残念なことに、シーズン成績は4勝9敗とファンの期待を裏切ってしまいました。22年以降の経済効果は、本格的に復活できるかどうかにも左右されそうです。

スエズ運河の座礁事故で、世界の経済損失4,000億円

3月23日、エジプト東部のスエズ運河で、愛媛県今治市の正栄汽船が所有する大型コンテナ船が座礁した事故もありました。この事故により運河が1週間通行不能になり、両岸に400隻以上が滞留を余儀なくされた前代未聞の事態の影響は甚大でした。国際貿易開発会議(UNCTAD)のヤン・ホフマン氏(前国際海運経済学会会長)の試算によると、世界の貿易に与える影響額は22億ドル~36億6,000万ドル(日本円で約2,400億円~4,000億円)に上ったそう。

 

一方、船の離礁にかかった費用や事故による運河の閉鎖に伴う損害の賠償についての、スエズ運河庁と正栄汽船側の交渉は長期化しました。運河庁側は、当初9億1,600万ドル(約1,000億円)を請求しましたが、正栄汽船側が異議を唱えたため、5億5,000万ドル(約600億円)まで減額。それでも、1億5,000万ドル(約160億円)が妥当と主張する正栄側とが隔たりがあり、合意の署名を交わしたのは、7月になってから(7日)でした。最終的な賠償額などは公表されていません。

松山英樹「マスターズV」で1,200億円!?

4月11日、松山英樹が男子ゴルフの海外メジャー「マスターズ」を日本人として初めて制覇しました。「東スポWeb」(2021年4月13日)は、その経済効果について、大手代理店関係者の試算として「1,200~1,500億円くらいの規模になるのではないか」とする記事を掲載しています。「マスターズはゴルフ界で特別な大会で、しかも市場規模が大きい米国で開催される注目度の高い大会でもある。そこで日本人、そしてアジア人として初優勝という結果はインパクトが非常に大きい」としています。

 

その内訳は、

  • 松山選手自身のスポンサー収入の大幅増
  • 松山選手が使用するクラブやボール、身につけるウエアやシューズ、サンバイザーなどの注目度のアップ、消費拡大
  • それに伴う関連株価の上昇
  • ゴルフ人口増加による波及効果

などとなっています。1,000億円超えというのは、波及効果の風呂敷を大きく広げた「希望的観測」に近いとはいえ、大きな経済効果を生んだのは確かなようです。

五輪の経済効果-緊急事態宣言の経済損失=?

東京オリンピック・パラリンピックは6兆円

21年最大のイベントは、東京オリンピック・パラリンピックでした。その経済効果については、新型コロナ以前には三菱総合研究所が11兆円(2014年)、みずほフィナンシャルグループは30兆円(17年)、さらに東京都は32兆円(17年)といった景気のいい数字が並んでいました。ところが、想定外であった新型コロナウイルス感染症に直撃され、1年延期されたうえに「無観客」での開催となり、当てにしていた外国人観光客が見込めなくなったことなどにより、目論見は大きく外れてしまいました。

 

さきほどの宮本名誉教授が8月に明らかにした推定では、経済効果は約6兆1,442億円に縮小。これには、自宅観戦によりテレビやエアコンは売れ、デリバリーサービスが増加しているといったプラスの側面も加味されています。一方で東京五輪・パラリンピック組織委員会や東京都、国の赤字(歳出超過額)の総額は約2兆3,713億円と推計されました。

緊急事態宣言全面解除、しかし経済損失は6兆円に迫る

10月1日、7月半ば(東京都)から続いていた新型コロナに伴う4度目の緊急事態宣言が全面解除されました。人流を抑制する“宣言”による経済損失は甚大で、2度にわたる期限延長がさらに傷口を広げる結果になりました。

 

野村総合研究所(木内登英エグゼクティブ・エコノミスト)の試算によれば、個人消費減少=経済損失が5兆7,000億円となり、年間GDPの1.03%に相当する金額が失われました。この結果、失業者が22万1,000人増加する、としています。

 

なお、同研究所は、緊急事態宣言下で行われた東京オリンピック・パラリンピックの経済効果を1兆6,800億円とカウントしています(経済効果は、発表主体による波及効果の推計方法や期間の取り方などによって、数値が異なります)。これと比較すると、その3.4倍の損失が生じたことになります。

 

加えて、21年は4~6月にかけて3度目の緊急事態宣言が発令されていました。同研究所では、これによる経済損失を3兆2,000億円と推計しています。新型コロナが、二重三重に日本経済を苦しめたことがよくわかる数字です。

岸田政権初の経済対策は、過去最大の56兆円規模に

11月、岸田文雄内閣が誕生後初となる経済対策を打ち出しました。55兆7,000億円という財政支出は、新型コロナの感染拡大を受けて20年4月に決定した緊急経済対策の48兆4,000億円を上回る、過去最大の規模です。18歳以下への10万円相当の支給や中小事業者への給付金、原油高に苦しむ関係業界への支援策などが盛り込まれました。

 

岸田首相は、これによりGDP換算で5.6%程度の押し上げ効果を見込んでいる、と述べました。一方で、専門家からは、「政策効果が未知数の事業や不公平感が強い支援も混じったものになって」おり、GDP押し上げ効果も14兆2,000億円、率にして2.7%程度にとどまる、といった厳しい見方もあります(永濱利廣 第一生命経済研究所首席エコノミスト)。

「大谷効果」や「新庄効果」は?

大谷選手MVPは250億円

11月18日、大谷翔平選手がリーグのMVPに選出されました。これも宮本名誉教授の試算によれば、日米両国で今後1年間に計約252億円の経済効果が見込まれるそうです。大谷選手がMVPを獲得したことによって、22年シーズンは1試合当たりの観客が約3,000人~4,000人増え、広告料収入やグッズなどの売り上げも増加。さらに、コロナ禍の収束で日本からの応援ツアーが再開されることなどを理由に挙げています。

 

宮本氏によれば、どんな人気選手でも、経済効果は数十億円程度が普通。「1人のスポーツ選手がもたらす経済効果としては空前の金額」だといいます。

“ビッグボス”の就任で60億円

ラストは、これも世間を驚かせた新庄剛志氏の日本ハムファイターズ監督就任です。宮本名誉教授によれば、その経済効果は全国で約59億6,434万円、うち北海道では約53億6,791万円に上ります。

 

直接的な効果としては、球場に来場した観客の消費増加額やファンの飲食費の増加額、広告料収入、グッズ売上増加額など合計約27億6,127万円。加えて、新庄氏は現役時代に阪神タイガースやメジャーリーグでも活躍したため、全国にファンがいることを考慮に入れた波及効果を算出し、この数字になったのだそうです。監督としての実績が未知数のうちからこれだけの「稼ぎ」を予想されるというのも、異例のことと言えるでしょう。

まとめ

新型コロナに翻弄された2021年の出来事を、経済効果という視点から振り返ってみました。ちなみに、経済効果・経済損失の金額は、同じ事象であっても、取り上げる指標や条件などにより異なるため、単純比較はできないことをお断りしておきます。

コロナの収束により、インバウンドの回復なども期待される22年ですが、果たしてどうなるでしょうか。

マネーイズム編集部
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