個人事業主は仕事が減ったり無くなったりすると収入に直接影響するため、会社員よりも失業対策が難しくなります。そこで、個人事業主の手取り金額と失業対策について解説します。
個人事業主の手取り金額はいくら?
会社からの給料と違い、個人事業主は入金された金額のすべてが手元に残りません。しかも、収入の安定面では会社員よりも劣るのが一般的です。そのため、仕事の減少などの将来に備えるためにも「収入金額-経費=手元に残るお金=手取り金額」を意識することが大切になってきます。
手取り金額とは
個人事業主にとっての手取り金額とは、収入金額から収入を得るための支出額を差し引いた残額です。収入を得るための支出には仕入(売上原価)や諸経費だけでなく、所得に対する税金や社会保険も含まれます。手取り金額を算式で示すと次の通りになります。
=手取り金額
年収ごとの手取り金額のシミュレーション
個人事業主の手取り金額をイメージしやすくするために会社員と比較しながらシミュレーションします。
例)年収520万円のシステムエンジニアの場合(独身30歳、企業常駐型)
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(1)会社員の場合(東京都港区勤務)
- 給与収入
年収520万円=給与収入と仮定します。 - 給与所得控除
給与収入520万円×20%+44万円=148万円 - 社会保険
厚生年金:給与収入520万円×9.15%=47万5,800円
健康保険:給与収入520万円×4.45%(9.9%の折半)=23万1,400円
雇用保険:給与収入520万円×0.3%=1万5,600円
合計:72万2,800円 - 基礎控除:48万円(住民税43万円)
- 課税所得金額
給与収入520万円-給与所得控除148万円-社会保険控除72万2,800円-基礎控除48万円(住民税43万円)
=251万7,200円(住民税256万7,200)
→251万7,000円(住民税256万7,000円)(千円未満切捨て) - 税金
所得税:
251万7,000円×10%-9万7,500円=15万4,200円
復興特別所得税:
15万4,000円(千円未満切捨て)×2.1%=3,234円→3,200円(百円未満切捨て)
住民税:
所得割256万7,000円×10%+均等割6,000円=26万2,700円
合計:41万6,900円 - 手取り金額
給与収入520万円-社会保険72万2,800円-税金42万100円=406万300円
- 給与収入
-
(2)個人事業主の場合(東京都港区在住)
- 青色申告特別控除前の所得金額
年収520万円=青色申告特別控除前の所得金額、前年と同額と仮定します。 - 青色申告特別控除:65万円
- 事業所得:455万円
- 基礎控除:48万円(住民税43万円)
- 国民年金
1万6,410円×12ヵ月=19万6,920円
- 国民健康保険
賦課のもととなる所得金額(賦課基準額):
事業所得455万円-基礎控除43万円(住民税の場合)=412万円
基礎分(医療分):
賦課基準額412万円×7.25%+均等割3万9,900円=33万8,600円
後期高齢者支援金分:
賦課基準額412万円×2.24%+均等割1万2,300円=10万4,588円
合計:44万3,188円 - 課税所得金額
事業所得455万円-基礎控除48万円(住民税43万円)-国民年金19万6,920円-国民健康保険44万3,188円
=342万9,892円(住民税347万9,892円)
→342万9,000円(住民税347万9,000円)(千円未満切捨て) - 税金
所得税:
342万9,000円×20%-42万7,500円=25万8,300円
復興特別所得税:
26万8,000円(千円未満切捨て)×2.1%=5,628円→5,600円(百円未満切捨て)
住民税:
所得割347万9,000円×10%+均等割6,000円=35万3,900円
合計:61万7,800円 - 手取り金額
青色申告特別控除前の所得金額520万円-国民年金19万6,920円-国民健康保険44万3,188円-税金61万5,700円=394万4,192円
- 青色申告特別控除前の所得金額
同じ年収なら個人事業主よりも会社員ほうが手取り金額11万6,108円が多くなる結果が得られました。
失業後の手取り金額
在職中と異なり、失業した場合の手取り金額は個人事業主と会社員とで差が生じます。たとえば、会社員は失業後でも失業給付金や傷病手当金の支給が受けられるため、手取り金額が0円になる確率は低いでしょう。
しかし、個人事業主には失業給付金や傷病手当金を受け取る権利がないため、失業後に手取り金額0円の確率は高くなります。そのため、個人事業主は手取り金額0円の事態に備えるためにも、失業対策を意識しましょう。
個人事業主でも可能な失業対策
個人事業主でも会社員と同じような失業対策が可能です。
労災保険の特別加入
労働者以外の中小事業主等にも労災保険の特別加入が認められ、業務災害と通勤災害に対して労災保険を給付します。中小事業主等とは、次のいずれかに該当する人になります。
- 次の労働者数以下の企業規模の事業主または法人代表者
- 金融業、保険業、不動産業、小売業:50人以下
- 卸売業、サービス業:100人以下
- 上記以外の業種:300人以下
- 労働者以外で1.の事業主の事業に従事する家族従事者や代表者以外の法人役員など
就業不能保険
病気やケガ、または精神疾患で働けない状態(就業不能状態)が長く続いた場合、傷病手当金や障害年金などの公的保障だけでは十分にカバーしきれない場合、長期の収入減少に備えるのが保険会社の就業不能保険です。例えば、ライフネット生命の場合。就業不能状態を次のように例示しています。
入院 | 所定の就業不能状態とは、病気やケガの治療を目的として、日本国内の病院または診療所において入院している状態。 |
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在宅療養 | 所定の就業不能状態とは、病気やケガにより、医師の指示を受けて、日本国内の自宅等で、軽い家事および必要最小限の外出を除き、治療に専念している状態。
ただし、梱包や検品などの軽労働または事務などの座業ができる場合は、在宅療養をしているとはいいません。 |
その他 | 被保険者が死亡した後は、いかなる場合でも就業不能状態とはいいません。 |
給付金の受取方法は満額受け取る標準タイプ(満額タイプ)と一定期間(約1年6ヵ月間)、給付金の満額を受け取る代わりに満額タイプの半額を受け取るハーフタイプに大別できます。
法人成りをして傷病手当金を受け取る方法もある
法人成りをして健康保険に加入すれば、いざという時に事業主は傷病手当金が受けられます。
傷病手当金とは
被保険者が業務外の病気やケガのため事業所(会社)を休み、給与等が支払われない場合に生活を保障するための健康保険給付です。すべての条件を満たす場合に給付されます。
- (1) 業務外の病気やケガで療養中の場合
- (2) 療養のため仕事につくことができなかった場合(労務不能:医師等による労務不能の証明が必要)
- (3) 休んでいる期間、無給または支払われた給与の額が傷病手当金より少ない場合
- (4) 4日以上仕事を休んだ場合(療養のため仕事を休み始めた日から、連続した 3 日間は待期期間となり、4日目から支給の対象になります)
傷病手当金の申請方法
次のすべての書類を給与計算の締日以降に申請するのが基本です。
- 傷病手当金支給申請書(本人記入)
- 事業主の証明(会社からの証明書)
- 担当医師等の証明(労務につくことができないことの証明)
役員の場合、「役員報酬を支給しない」などの決議内容を記載した株主総会議事録などにより給与の額を証明する書類が必要です。
まとめ
個人事業主は貯蓄したり失業対策などのリスクヘッジを図ったりするなど不測の事態に備えるためにも手取り金額を知る必要があります。収入金額と同額のお金が手元に残らず、経費や社会保険などの負担は避けて通れません。まずは収入金額に対するおおよその手取り金額を把握しましょう。
▼参考URL
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- https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html
- http://www.tokyozeirishikai.or.jp/general/zei/shotoku/
- https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-gaku/gakuhyo/20170822.files/1.pdf
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- https://www.rouhoren.or.jp/Portals/0/pdf/what/special/31mhlwspecialenrollmentchusyo.pdf
- https://www.axa-direct-life.co.jp/products/disability/index.html
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- https://www.city.minato.tokyo.jp/shikaku/kurashi/hoken/kenkohoken/hokenryo.html
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- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm