情報銀行とは?仕組みやメリット・デメリット、課題などを解説 | MONEYIZM
 

情報銀行とは?仕組みやメリット・デメリット、課題などを解説

例えばAmazonで買い物をすると、購入履歴といった情報が企業に蓄積され、広告戦略などに利用されます。現在、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Appleの4社の総称)をはじめとする情報プラットフォーム企業が独占している、そうしたパーソナルデータを管理し、広く有効活用するためのインフラである「情報銀行」をご存知でしょうか?
今回は、政府(総務省・経済産業省)が旗振り役になって構築を進めている「情報銀行」制度について詳しく解説します。

パーソナルデータが富を生む時代

進むパーソナルデータの利用

世の中のIT化が進展し、人々が生活のさまざまな場面(例えばモノやサービスの購入)でそのテクノロジーを活用するようになったことで、個人の嗜好にまで迫るようなパーソナルデータの収集が可能になりました。それを目いっぱい活用しているのがGAFAなどの巨大グローバル企業です。便利なサービスの提供と引き換えに蓄積したビッグデータをマーケティングなどに結びつけることで、莫大な利益を上げているとみられています。そのことは、「個人情報」がいかに価値を生むものなのかを、実証しているともいえるでしょう。

情報の集中が生む問題も

一方、彼らがパーソナルデータの生み出す利益を享受できるのは、そのデータを囲い込み、独占しているからです。しかし、“この状況は正当な企業間競争を阻害するものだ”という批判が高まり、アメリカでは独占禁止法(反トラスト法)の標的になったりもしています。
 

そもそも、私たちは、基本的に個人情報をそうした企業に渡したくて渡しているわけではありません。本来、自分のものであるはずのパーソナルデータが勝手に利用されることの問題や、情報には漏洩や悪用のリスクがゼロではないといったセキュリティ上の懸念など、現状には多くの疑問が示されているのも事実です。

情報銀行とは何か?

パーソナルデータを預ける銀行

本題に入りますが、「情報銀行」とはどういうものなのでしょうか?
この制度を活用する主体は、情報源である“個人”です。ある人が自身のパーソナルデータを特定の事業者に預託し、預けられた事業者は、その人のニーズなどに基づいてデータを企業などに提供します。この制度を活用することで、個人と企業の双方に利益を生み、ひいては経済全体の活性化につながっていくというイメージです。
アメリカや欧州(EU)でもパーソナルデータの利用が始まっていますが、この情報銀行は日本独自のスキームです。

官が主体となって推進

情報銀行の仕組みを見ておきましょう。
情報銀行(情報利用信用銀行)は、総務省と経済産業省が主管となって推進する事業で、「個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業」と定義されています(「情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会」の「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」)。
 

これだと分かりにくいため、少し噛み砕いて説明します。
情報銀行は、情報の提供に際してはデータを預けた人の指示、あるいは事前に指定された条件――例えば与えられる便宜の条件(ポイントがもらえるなど)、相手先(特定の企業など)、データの条件(実名か匿名かなど)――に従って、妥当性を判断します。「PDS(Personal Data Store)」とは、ひとことで言えば個人情報を集約し、管理するシステムのことです。これを活用することで、データを利用したい企業などに対するデータの安全、適切な提供が可能になります。
 

銀行事業者には「認定制度」がある

私たちが銀行口座にお金を預けるのは、“そこでは資金が安全に管理されている”という安心感があるからに他なりません。情報銀行を広く普及させるためには、”パーソナルデータが意に反して利用されない”といったセキュリティの確保が不可欠です。

実際に情報銀行を運営するのは、IT系などの民間事業者になりますが、その銀行の客観的な信頼度を判断する指標として、情報銀行の認定制度が設けられています。認定は、政府の定めた「情報信託機能の認定に係る指針」(2018年公表)に沿って、一般社団法人日本IT団体連盟が行います。
 

認定基準とされているのは、
1.事業者の適格性
2.情報セキュリティ・プライバシー
3.ガバナンス体制
4.事業内容
の4項目です。
例えば「情報セキュリティ」について、「情報処理設備の正確かつ情報セキュリティを保った運用を確実にするため操作手順書・管理策の策定、実施(運用の情報セキュリティ)」が求められるなど、各項目について具体的で厳格な基準が細かく示されているのです。
 

なお、認定を受けるか否かは任意で、消費者があえて「認定は受けていないが、サービスのいい銀行」を選ぶことも可能です。

情報銀行で可能になることは?

活用されるパーソナルデータとはどのようなもの?

先ほどの情報銀行の定義に述べられていた「個人のデータ」とは、行動履歴、購買履歴、ヘルスケア(バイタル)データなどを指します。情報銀行を利用することにより、消費者には、これらを基にした例えば次のような新しいサービスの提供が想定されています。
 

●購買履歴の利用

店舗やネットショップでの買い物履歴は、個々の店やサイトにバラバラに記録されます。これらの情報をまとめて銀行に預ければ、全ての履歴が一目で閲覧でき、消費行動の参考にすることができます。それらを条件に合う企業に送ることで、より自分のニーズに合った商品の提案を受けることも可能になるでしょう。
 

●バイタルデータの利用

自身の血圧・体温・脈拍などのバイタルデータを集約して情報銀行に預け、それを契約する宅配サービス会社に送ることで、オーダーメードの健康食を受け取ることができます。通っているジムに送れば、より自分の健康状態に見合ったトレーニングのメニューを作成してもらえるようになるかもしれません。また、バイタルデータや運動履歴を保険会社に送り、保険料見直しのエビデンスにする…といった活用法も考えられます。
 
もちろん、情報の提供を受ける企業側にも大きなメリットが期待できます。パーソナルデータが入手できれば、それぞれの顧客にそのニーズに基づいたアプローチを行うという、効率の高いマーケティングが可能になるからです。

情報銀行のデメリットもある

ただし、新たな仕組みである情報銀行には、リスクやデメリットもあります。
情報提供を行う個人にとっては、やはりセキュリティが最大の心配事といえるでしょう。この点は、残念ながらゼロリスクとはなりません。できるだけリスクを減らすためには、やはりさきほどの認定を受けた事業者を選ぶのがベストでしょう。
 
一方で、パーソナルデータの提供を受ける企業側にも、今のセキュリティやシステム管理に関するコストが必要になる、という問題があります。先述のように、認定を受けるためには、通常のIT事業とは異なる細かな基準をパスする必要があります。万が一、データ流出などの事故を起こした場合には、顧客から損害賠償などを求められるリスクもあります。

情報銀行の現状と課題

情報銀行認定は現在7社

そんな情報銀行の到達点はというと、22年1月段階で、認定を受けた事業者は7社あります。各社は、例えば次のような事業を展開する予定です。
 

◆J.Score
個人の年齢や年収、勤務先、性格や好み、ライフスタイルなどの多種・大量の情報を先進的なAI技術で分析。個人の信用力と可能性をスコア化したAIスコアを活用し、AIスコアを取得した個人が、自身の意思で登録済のデータを企業へ提供することで、情報提供料や特典等の対価を受領。
 

◆中部電力
個人が、アプリを通じて基本属性や興味・関心事項・行動履歴・予定などのパーソナルデータを預託することで、パーソナルデータの提供先であるサービス事業者から地域のキャンペーン・イベント情報、クーポン、ポイント等の便益を受け取ることが可能。
 

◆MILIZE(ミライズ)
個人が、アプリを通じて保険証書情報を登録し、それらの情報を個人が指定した保険代理店・保険会社(加入保険会社以外)へ提供することで、その対価として個人は便益を得る。

セキュリティの確保がカギ

AIの進歩などに伴い、今後ますますパーソナルデータの利用価値は高まるはずです。それだけに、データが一部に独占されることなく、広く社会や産業のための活用を可能にする情報銀行への期待と注目が高まっています。
 

とはいえ、データの“預金”がなければ何も始まりません。広くパーソナルデータが共有される状況を実現するためには、やはり個人(消費者)が心から安心して預けられるセキュリティ環境を整備するとともに、それを分かりやすく説明して、心理的なハードルを取り除く必要があります。
 

また、個人が自らのデータを積極的に活用できる仕組みの構築も課題です。日本では確立されていない「データポータビリティ権(求めに応じて提供したデータを返してもらったり、移動させたりする権利)」の議論なども急ぐべきでしょう。

まとめ

個人が預けたパーソナルデータを活用し、新たなサービスに結びつける情報銀行の取り組みが始動しています。本格的な普及までには、解決すべき課題もありますが、社会のIT化が進展する中、消費者と企業の双方にとって大きな可能性を秘めた仕組みであるのは確かなようです。

マネーイズム編集部
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