もしも夫婦ともに個人事業主なら? 夫婦の税金を節約する方法について解説 | MONEYIZM
 

もしも夫婦ともに個人事業主なら?
夫婦の税金を節約する方法について解説

見た目にはアルバイト程度の仕事でも、雇用契約以外のアルバイトに就く場合は、自営業者の立場になり、夫婦ともに個人事業主になる確率が高くなります。そのため、同じ家計でも工夫次第で納税額を減らすことで貯蓄額を増やすことが可能です。そこで、夫婦の税金を節約する方法について解説します。

個人事業主の夫婦の節税対策とは

夫婦の所得金額を合算した場合の節税対策について説明します。

税率を下げるのが基本

そもそも所得金額に対する税金の計算は個人単位でするため、夫婦それぞれの税率を下げるのが節税対策の基本になります。所得金額に対する税率の内訳は次の通りです。

 

  • 所得税:5%~45%までの7段階
  • 住民税:一律10%
  • 事業税:対象業種ごとに3%~5%の間

 

たとえば、デザイナーの夫婦の所得金額が合計1,000万円とします。全額1,000万円を本人の所得金額とした場合、48%の税率(所得税33%、住民税10%、事業税5%)が適用されます。一方、所得金額を本人と配偶者とに500万円ずつ分配した場合、それぞれの税率は35%(所得税20%、住民税10%、事業税5%)まで下がります。

所得控除は税率の高い人のほうを利用する

そもそも所得控除の節税効果は税率に比例します。そのため、夫婦の生活に相当する扶養控除や社会保険料控除などの所得控除を税率の高い人に適用するのも節税対策のポイントになります。たとえば、大学生の子ども(16歳以上)を扶養している場合、税率の高い人の扶養に入れたほうがより納税額は減らせます。

 

しかし、社会保険料控除など実際に負担した人が対象となる所得控除の場合、負担していない人に所得控除を適用するなど夫婦間で都合よく利益操作をすることまでは認められていません。

「夫婦ともに独立する」vs「配偶者を事業専従者にする」

夫婦の所得金額を本人と配偶者とに分配するスキームは「夫婦ともに独立する」と「配偶者を事業専従者にする」に大別できます。一度選択すると変更しづらいため、事前に両方の違いを知ることが大切になってきます。

夫婦で独立する場合の節税対策

夫婦で独立する場合、「必要経費と所得控除の計上のしかた=所得金額の減らした方」がポイントになります。おもな項目は次の通りです。

(1)夫婦でシェアしがちな支出の計算

賃貸物件の家賃や水道光熱費、医療費控除にかかる病院代の支出など夫婦でシェアしがちな支出を本人または配偶者の必要経費・所得控除として計算するのかがポイントになります。たとえば、家賃を必要経費に計上する場合、夫婦間での使用している面積や日数などの客観的な基準が必要になります。

(2)配偶者控除または配偶者特別控除の利用を検討する

本人の所得金額が1,000万円以下なら配偶者にかかる所得控除の利用を検討しましょう。たとえば、配偶者が在宅ワークなど業務委託での所得金額が133万円(令和元年までは123万円)以下なら配偶者控除または配偶者特別控除が受けられます。

(3)青色申告特別控除の最大額65万円を利用する

青色申告特別控除65万円を利用すると、支出なしでも夫婦合計で130万円の所得控除ができます。最大額65万円を利用するためには確定申告を電子申告(または電子帳簿での保存)で行うのが条件になります。紙媒体で確定申告をした場合、青色申告特別控除は55万円に減額されてしまうため注意が必要です。

配偶者を事業専従者にする場合の節税対策

事業専従者にして配偶者へ青色事業専従者給与を支給する形式を採用する場合の節税対策のポイントについて説明します。

(1)夫婦でシェアしがちな支出の計算

配偶者へ青色事業専従者給与を支給する形式を採用することにより、家賃などは本人の必要経費に計上することになります。そのため、夫婦でシェアしがちな支出のうち、本人と配偶者とに分けて計算するのは所得控除の項目に絞られます。

(2)青色事業専従者給与または配偶者控除・配偶者特別控除を選択する

個人事業主は「青色事業専従者給与」と「配偶者控除・配偶者特別控除」の両方の適用が認められていません。たとえば、配偶者に青色事業専従者給与20万円を支給した場合、最大額38万円の配偶者控除の適用は不可能です。

夫婦ともに独立する場合のメリット・デメリット

夫婦ともに独立する場合のメリット

夫婦ともに独立する場合のメリットは次の通りです。

(1)夫婦ともに職業選択が自由である

配偶者を事業専従者にする場合と違い、夫婦ともに職業選択が自由で、収入源の幅が広げられます。

 

一方、支給した青色事業専従者給与を必要経費に計上するための縛りである「その年を通じて6月を超える期間(中略)その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。」が存在しないためです。たとえば、本人が司法書士、配偶者がピアノ講師の場合、たとえ配偶者が司法書士の業務に6ヵ月以上従事していても、専ら本人の事業に従事してないため、青色事業専従者として認めらなかった事例があります。

(2)青色申告特別控除が2人分利用できる

青色申告の条件を満たせば、支出を伴わない青色申告特別控除が2人分利用できます。

(3)事業税の事業主控除も2人分利用できる

事業税の所得計算でも、支出を伴わない事業主控除という年290万円の所得控除が2人分利用できます。そのため、夫婦それぞれの所得金額が290万円以下なら事業税は課税されずに済みます。

夫婦ともに独立する場合のデメリット

つづいて夫婦ともに独立する場合のデメリットについて説明します。

(1)税率のコントロールがしづらい

夫婦ともに独立している場合には青色事業専従者給与が利用した所得金額の分配ができないため、配偶者を事業専従者にするよりも税率のコントロールがしづらいといえます。

(2)配偶者への支払手数料は必要経費に計上できない

所得税法第56条の親族への支払手数料の全額が計上できないという特例が存在し、これは配偶者を利用した税率のコントロールに制限をかける目的であると考えられます。弁護士が税理士の妻に対する税理士報酬の全額が必要経費として認められなかった事例があります。

(3)事務的な手間がかかる

夫婦ともに別々の会計帳簿を作成しなければならないため、会計ソフトへの入力や確定申告書の作成なども2人分になります。

(4)夫婦でシェアしがちな経費の計算が煩雑になりがち

賃貸物件の家賃、水道光熱費、車関連費用などのうち、夫婦間で配分する必要経費の計算方法が複雑になる可能性があります。たとえば、車を夫婦で共同利用する場合、走行距離や使用日数などの事業に係る使用頻度(事業割合)を本人と配偶者ごとに算定しなければなりません。

配偶者を事業専従者にする場合のメリット・デメリット

配偶者を事業専従者にする場合のメリット・デメリットについて説明します。

配偶者を事業専従者にする場合のメリット

配偶者を事業専従者にする場合のメリットは次の通りです。

(1)税率のコントロールがしやすい

青色事業専従者給与を利用した所得分配ができるため、税率のコントロールがしやすいといえます。本人が配偶者への給与支給額を決められるためです。

(2)事務的手間が緩和される

配偶者は給与所得者のため、会計帳簿の作成は本人のみになり、夫婦ともに独立する場合よりも事務的手間が緩和されます。

(3)必要経費の計算がシンプルになる

前述の車を夫婦で共同利用する場合でも「車関連費用×事業割合」の全額を本人の必要経費に計上するため、使用頻度を本人と配偶者ごとに算定する手間が省けます。

(4)給与所得控除が利用できる

給与所得者である配偶者は支出を伴わない経費に相当する給与所得控除が利用できます。しかも、所得控除額が55万円~195万円と幅があるため、青色申告特別控除65万円よりも節税効果の得られる確率が高くなります。

配偶者を事業専従者にする場合のデメリット

配偶者を事業専従者にする場合のデメリットについて見ていきましょう。

(1)配偶者の職業選択が制限される

青色事業専従者給与を利用した税率のコントロールがしやすいのと引き換えに配偶者は本人の事業に従事しなければならず、基本的に兼業は認められません。いいかえれば、基本的に収入源は本人の事業からのみになります。

(2)給与計算業務が必要になる

従業員を雇う場合と同じように青色事業専従者給与にかかる源泉徴収事務や年末調整などの給与計算業務が必要になります。

まとめ

個人事業主の夫婦の場合、収入源の確保と節税効果の視点から「夫婦ともに独立する」または「配偶者を事業専従者にする」を的確に選択することに尽きます。これらの選択後は変更しづらいため、事前にメリット・デメリットを吟味することが大切になってきます。

阿部正仁
TAX(税金)ライター。会計事務所で約10年間の勤務により調査能力を身に付けた結果、企業分析の能力では高い定評を得、法人から直接調査を依頼される実績も持つ。コーチングスキルを活かした取材力で、HP・メディアでは語られない発言を引き出すのが得意。
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