2022年9月27日に行われた安倍元首相の国葬は、多額の費用がかかるとして大きな波紋を呼びました。実は、政府の公表によると、国葬費の総額は約16億円にものぼるとのことです。
金額の是非は置いておくとして、これらの費用は一体何に使われたのでしょうか。ここでは、安倍元首相の国葬費の内訳について詳しく解説します。
安倍首相の国葬を決めた閣議決定とはそもそもどんなもの?
はじめに、安倍元首相の国葬がどのように決まったのか見ていきましょう。
安倍元首相の国葬は、国会の審議ではなく、閣議決定で決まりました。
そもそも閣議とは、政府が何か意思決定をする際に行われる会議のことをいいます。閣僚の意思決定手段には、さまざまな形がありますが、そのなかで最上位に位置づけられるのが「閣議決定」です。
閣議決定は、全会一致が原則となっている非常に重い決定になります。万が一、閣議決定に反対する閣僚がいた場合、首相は罷免をしたうえで閣議決定を再度行う必要があります。
では、なぜ国葬は閣議決定で決まったのでしょうか。なぜなら、国葬について根拠となる法律がないためです。
日本には、他の国のように法的根拠になる国葬令が存在しません。そこで用いたのが、内閣府設置法の第4条の規定です。内閣府設置法の第4条には、内閣がどのような事務を執り行うのかが定められています。例えば、短期及び中長期の経済の運営に関する事項などを内閣が行うことになっています。
内閣府設置法の第4条では「国の儀式」も内閣の所掌事務として定められており、安倍元首相の国葬を「国の儀式」として閣議決定すれば、国葬が可能と判断し、岸田首相が閣議決定することを決めた経緯となっています。
安倍首相の国葬費は総額16億円 その内訳とは
安倍元首相の国葬は、閣議決定により決まりました。では、国葬費の内訳はどのようになっているのでしょうか。
もともと、国葬費の総額は国葬が行われたあと、公表されることになっていました。これは、各国の要人の参加人数が不透明だったためです。しかし、野党からの批判などにより、9月6日の松野官房長官が記者会見を行い、国葬費の総額や内訳が公表されました。記者会見で公表された国葬費の内訳は、次のとおりです。
・会場設営費など 2億5000万円
国葬の会場(日本武道館)の設営費や式典の費用などです。
・警備費 8億円
内訳は、次のようになります。
道府県警察からの警察官派遣にかかわる旅費や、超過勤務手当に対する国からの補助が5億円となっています。ただし、警察官の基本給は含まないとしています。
また、それとは別に警察官が待機するための建物や、輸送するバスの借り上げ費が3億円かかるとしています。
・外国要人の接遇費 6億円
政府は、外国要人について、190以上の代表団が参列し、接遇を要する首脳級の代表団は、50程度に上ると仮定していました。そこで、次のような内訳にしています。
―滞在中の車両の手配、空港などでの受け入れ態勢の構築、同時通訳の手配などに5億円
―在外公館の職員の一時帰国費用に1億円
・その他の費用 1,000万円
自衛隊の儀じょう隊が使用する車両の借り上げや、救急車の用意など救急体制の構築費用といった費用に、1,000万円かかるとしています。
これらの費用を合計すると、16億6,000万円になります。この費用は、今年度予算の予備費から充てることになっています。
16億6,000万円はあくまで見積もりでしたが、政府関係者が10月13日に明らかにしたところによると、実際にかかった国葬費は12億円台になるとのことです。
当初の予定より4億円程度少なかったことになります。その要因として、海外賓客の滞在日数が当初よりも短くなったことで、警護、接遇に要するお金も少なくなったことが挙げられています。
なお、国内外からの参列者は当初の予定では6,000人程度でしたが、実際は4,183人が参列したとのことでした。
エリザベス女王の国葬費は約13億円!その他の会議とも比較
安倍元首相の国葬費は当初の見積もりで約16億円、実際には12億円程度ということでした。では、海外や過去の国内要人の葬儀には、どの程度の費用がかかっているのでしょうか。
直近の国葬で有名なのが、イギリスのエリザベス女王の国葬費です。英紙の「デイリー・ミラー」によると、エリザベス女王の国葬費は800万ポンドで、日本円にすると、約12億円から13億円になります。
エリザベス女王の国葬では、まず、葬儀がウェストミンスター寺院で行われ、各国の要人など2,000人以上が参列したとされています。その後、ひつぎは霊きゅう車でウィンザー城へ運ばれましたが、沿道では多くの人が見送りに参列していました。
ウィンザー城へ到着後は、城内のセントジョージ礼拝堂では式典が行われ、礼拝堂の一角に埋葬されました。
エリザベス女王の国葬においても、警備費や外国要人の接遇費などの費用がかかり、金額としては、安倍元首相と同じ程度の金額になっています。また、エリザベス女王の国葬費用についても、税金から賄われるとのことです。
次に、日本で行われた葬儀の費用について見ていきましょう。国葬ではありませんが、過去に中曽根康弘元首相や三木武夫元首相が亡くなったときに、内閣葬が行われています。
2020年10月に行われた中曽根康弘元首相の「内閣・自民党合同葬」は、約8,000万円かかりました。また、1988年に行われた三木武夫元首相の「衆院・内閣合同葬」は約1億2,000万円がかかっています。どちらも国庫から、費用が捻出されています。
安倍元首相の国葬費と過去2人の内閣葬では、金額が大きく異なりますが、これは参列者の数が大きく違うことなどが影響しています。
例えば、中曽根元首相の参列者は約640人でした。安倍元首相の国葬には4,183人が参列しており、約7倍の人数が参列していることになります。
また、安倍元首相の襲撃事件の影響で、テロ対策など、警備は万全の対策を立てて臨んでいます。そのため、警護費用などが他の葬儀よりも大きくなっていると考えられます。
葬儀ではありませんが、日本では過去、海外からの要人が来日した国際会議も多く開かれています。比較対象として、これらの費用も見ていきましょう。
2016年には伊勢志摩サミットが、2020年には大阪でG20サミットが行われています。それぞれの開催にかかった費用は、伊勢志摩サミットは約231億円、G20サミットで約167億円と安倍元首相の国葬よりも高い金額でした。
過去のサミットの費用が大きくなっているのは、海外の要人が多く参加していることから、接遇費や警備費がより大きなものになっていることが影響しているといえます。
まとめ
安倍元首相の国葬には、12億円程度の費用がかかりました。この金額は、エリザベス女王の国葬と同程度のものです。安倍元首相の国葬の費用は全額、税金によって賄われます。また、国葬の決定も閣議決定によるものでした。
日本では過去、首相経験者の葬儀を二度、内閣葬として行ったことはありますが、安部元首相の国葬は参列者や警備の規模がそれらの内閣葬よりも上回ったことから、費用も10倍以上かかりました。
国葬の決定方法や金額には、肯定的な意見や否定的な意見と様々な意見があります。
今後、国葬が行われるかどうかはわかりませんが、必ずないとは言い切れません。大事なのは、今回のことを受けて、しっかりとした議論や検討をしていくことです。
海外の国葬や過去の内閣葬、国際会議の開催にかかった費用と比較しながら、どのように国葬を決定したらよいのか、費用面をどうするのかを国民みんなで考えていく必要があるでしょう。