今、多くのお店がキャッシュレス決済に対応しています。そのため、個人事業主でも経費を現金ではなく、電子マネーで支払うケースも多いでしょう。
では、電子マネーで経費を支払った場合、問題なく経費で落ちるのでしょうか。本記事では、電子マネーで経費を支払った場合の会計処理や、確定申告での問題点などについて解説します。
そもそも電子マネーとは
はじめに、そもそも電子マネーとは何かについて見ていきましょう。
電子マネーとは、紙幣や硬貨を使わず、電子データにより代金を支払う決済サービスのことです。あくまで電子データを介して商取引を行うため、お店側などにインターネットにつながる環境が必要となります。
ひとくちに電子マネーといっても、実際には、様々な種類があります。電子マネーの代表的なものには、次のものがあります。
・交通系電子マネー
交通系電子マネーとは、SuicaやICOCAなど、交通機関が発行している電子マネーのことです。主な目的は、電車やバスの運賃を電子マネーで支払うことにありますが、駅ナカのコンビニなど、商品の購入に利用でき、駅ナカにない一般のお店でも、使えるところが増えています。
・クレジットカード系電子マネー
クレジットカード系電子マネーとは、クレジットカードと連携された電子マネーのことです。決済のお金を事前にチャージする必要がなく、クレジットカード代金と一緒に後払いができるので便利です。
・スマホ画面で使う電子マネー
スマートフォンに電子マネーの決済アプリをダウンロードし、クレジットカードなどと連携させて使う電子マネーです。決済時にアプリを立ち上げ、QRコードやバーコードをスマートフォンの画面に表示して決済を行います。スマートフォンひとつで買い物ができるので便利です。
電子マネーは経費で落ちる!その会計処理とは
電子マネーで代金を決済した商品やサービスであっても、事業に関係するものであれば、経費にできます。
しかし、現金で決済した場合と電子マネーで決済した場合では、会計処理が異なることもあります。ここでは、電子マネーの会計処理について見ていきましょう。
電子マネーは経費で落ちる?
法人では、会社で支払いが発生したものは基本、事業に関係するものになります。
一方、個人事業主では、支払いにプライベートの支出と事業に関係する支出が混在しています。事業に関係する消耗品などの「商品の購入」や、事務所の清掃サービスの利用など「サービスの提供」に関する支払いは、経費になります。決済手段によって経費に落ちる、落ちないという判断が変わることはありません。電子マネー支払でも、プライベートの支出は経費になりませんし、事業に関係する支出は原則、経費になります。
ここで注意したいのが、電子マネーにはプリペイド方式とポストペイ方式の2つがあることです。事業に関係する支出は電子マネーで支払っても経費になりますが、プリペイド方式とポストペイ方式で会計処理の方法が異なります。
プリペイド方式とは、先に電子マネーに現金をチャージし、代金の支払いに使うものです。ポストペイ方式とは、チャージ不要の方式のことです。クレジットカードなどと連携し、代金は後払いになります。
電子マネーの会計処理方法
プリペイド方式とポストペイ方式では電子マネーの会計処理方法が異なります。それぞれの会計処理方法について、見ていきましょう。
・プリペイド方式
例)電子マネーに現金1万円をチャージした。その後、電子マネーで文房具3,000円を購入した。
・電子マネーに現金1万円をチャージした時
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
仮払金 | 10,000円 | 現金 | 10,000円 | チャージ料金 |
・電子マネーで文房具3,000円を購入
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
事務用品費 | 3,000円 | 仮払金 | 3,000円 | 文房具購入 |
プリペイド方式では、先に電子マネーに現金をチャージしますが、この時点では商品の購入をしたわけではないので、経費にはなりません。そのため「仮払金」で処理します。
商品購入時には「仮払金」を取り崩して支払った仕訳を行います。仮払金の代わりに「前払金」や「電子マネー」などの勘定科目を流動資産区分に作り、使用しても問題ありません。
・ポストペイ方式
例)文房具3,000円を電子マネーで購入した。後日、電子マネー料金は預金口座から引き落とされた。
・電子マネーで文房具3,000円を購入
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
事務用品費 | 3,000円 | 未払金 | 3,000円 | 文房具購入 |
・電子マネー料金が、預金口座から引き落としされたとき
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
未払金 | 3,000円 | 普通預金 | 3,000円 | 文房具購入 |
文房具を電子マネーで購入した際には、まだ普通預金から代金が引き落としされていません。そのため「未払金」で処理します。
その後、電子マネー料金が預金口座から引き落としされた際には「未払金」を支払った仕訳を行います。
確定申告における電子マネーの注意点
電子マネーは現金を持ち歩く必要がないため、決済手段としては便利です。しかし、確定申告において注意しなければならない点もいくつかあります。ここでは、確定申告における電子マネーの注意点を見ていきましょう。
証拠となる書類を残しておく
個人事業主が支出を経費にするためには、領収書などの証拠となる書類を保存しておく必要があります。これは電子マネーで支払った経費も同じです。
領収書が出るものは領収書を、領収書が出ないものは利用明細を残しておくなど、万が一、後で税務署から問い合わせがあった場合に、証拠書類を提示できるようにしておきましょう。
プリペイド方式の場合は実際と帳簿の残高を合わせておく
プリペイド方式の電子マネーを使っている場合は、実際の電子マネー残高と帳簿の仮払金などの残高を合わせておく必要があります。
プリペイド方式における会計処理では、チャージの時に「仮払金」の残高が増え、使った分だけ「仮払金」の残高を減らす処理をします。そのため、実際の電子マネー残高と帳簿の仮払金などの期末残高は合うはずです。
もしも、実際の電子マネー残高と帳簿の仮払金などの期末残高が違う場合は、電子マネーの取引に記載もれや数字の間違いなどがある可能性が高いため、確認が必要です。
プライベートの買い物と経費をしっかりと分けておく
個人事業主では、プライベートの支出と事業の支出の両方が混在することも多いため、電子マネーをプライベートと経費で使う場合をしっかりと分けておく必要があります。
電子マネーをプライベートと経費で使う場合には、電子マネーの残高を帳簿に記載する場合と記載しない場合の2つの会計処理方法があります。
・電子マネーの残高を帳簿に記載する場合
電子マネーの残高を帳簿に記載する場合は、プライベートのものも帳簿付けし、そうでない場合は、経費になるものだけを帳簿付けします。
例)すでにチャージ済の電子マネーで事業用の消耗品1万円とプライベート用の支出5,000円を支払った。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
消耗品費 | 10,000円 | 仮払金 | 15,000円 | 消耗品購入 |
事業主貸 | 5,000円 | プライベートの支出 |
プライベート用の支出は、事業主勘定で処理します。
・電子マネーの残高を帳簿に記載しない方法
この方法では、事業の支出のみを帳簿付けします。
例)すでにチャージ済の電子マネーで事業用の消耗品1万円とプライベート用の支出5,000円を支払った。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 | 摘要 |
消耗品費 | 10,000円 | 事業主借 | 10,000円 | 消耗品購入 |
電子マネーは、あくまでプライベート用で使っていることとし、事業で使った場合は、貸方勘定科目を「事業主借」で処理します。
どちらの処理方法で処理しても問題ありません。
事業での電子マネーの使用頻度などにより、使いやすい方法で処理してください。
まとめ
電子マネーを使った支出であっても、事業に関係のある支出の場合は、経費にできます。しかし、プリペイド方式とポストペイ方式では電子マネーの会計処理方法が異なります。
また、電子マネーをプライベートと経費で使う場合には、電子マネーの残高を帳簿に記載する場合と記載しない場合の2つの会計処理方法があります。
電子マネーの取引がある場合は、どの会計処理方法で仕訳するのかを正しく判断し、帳簿付けしましょう。