新年度から個人事業主として、独立して新たな仕事を始めたという人もいるでしょう。個人はサラリーマンや公務員と違って、ビジネスのやり方などを全て自分で決めていかなくてはなりません。事業を継続させ、生活を安定させていくためには、稼ぎを増やすのはもちろん、適切な節税を実行して、手元にお金を残していくことが重要になります。ここでは、個人事業主が頭に入れておくべき節税策について説明します。
そもそも個人事業主が納める税金は?
個人事業主に課税される税金には、次の4つがあります。
所得税:全員が課税対象
個人事業主のメインの税が所得税です。毎年1月1日から12月31日までの1年間に事業を通じて得た所得に対して課税されます。この所得税は、5%(所得195万円未満)~45%(4,000万円以上)まで、所得額が多いほど税率が上がる「累進課税」という仕組みになっています。
前年1年分の所得について、原則として翌年2月16日から3月15日の間に確定申告を行って納付します。「確定申告」は、所得額と税額を自ら計算し、税務署に申告することをいいます。
住民税:全員が課税対象
住民税は、個人事業主の事務所がある都道府県、市区町村に納める地方税です。原則として、年税額を1期~4期の4回で納付します(1回納付も可)。
消費税:「課税事業者」が対象
原則として、基準期間(前々年)の売上が1,000万円を超えた場合に課税されます。1,000万円以下の場合は、「非課税事業者」となり、課税はされません。
ただし、2023年10月からスタートする「インボイス制度」(適格請求書等保存方式)では、非課税事業者のままだと、インボイスを発行できません。そうすると、取引先(買い手)が仕入税額控除(売り手に支払った消費税を自分が納める税額から差し引くこと)をできず、「損害」を被ります。そのため、取引を課税事業者に切り替えられるリスクなども指摘されています。売上1,000万円以下でも、課税事業者になり、インボイスを発行することは可能です。
詳しくは、「もうすぐ始まる「インボイス制度」! 個人事業主がいますべきこととは?」をご覧ください。
個人事業税:一部の職種を除き課税対象
個人事業主が都道府県に対して納める地方税のひとつです。課税対象となるのは、「法定業種」という法律で定められた70の業種です。これらは、「第1種(37業種)」「第2種(3業種)」「第3種(30業種)」の3つに区分され、税率はそれぞれ3~5%と異なります。ほとんどの職種はこの70種の中に含まれており、該当しないのは、作家、漫画家、文筆業などごくわずかです。
ただし、290万円の事業主控除があり、事業所得がこれ以下の金額の場合は、納税義務はありません。
業種の区分などについては、「個人事業税 | 税金の種類 | 東京都主税局」をご確認ください。
個人事業主が実行すべき「節税」の考え方
「節税」の目的は何か?
「税金を払うくらいなら、経費を使ったほうがいい」といういい方があります。確かに所得から差し引ける経費を多くすれば、税金は安くなります。しかし、例えば、なくてもそう困らない備品を購入して「節税」できたとしても、結局手元に残るお金は減ってしまいます。
個人で事業を始めると、意外に陥りやすいのが、「はじめに節税ありき」という発想。税金に無頓着であってはなりませんが、節税はあくまでも「お金を残すためにするもの」であることを、しっかり確認しておきましょう。
「節税」と「脱税」は違う
「節税」は、あくまでも適正(適法)な対策を、漏れなく実行することをいいます。所得を申告しなかったり、違法な手段で経費を水増ししたり(例えば領収書の偽造)といった行為が発覚すれば、「加算税」「延滞税」といったペナルティの対象になることも、肝に銘じておかなくてはなりません。
個人事業主の節税対策
では、具体的な節税対策をみていきます。
【対策1】「経費」を忘れずに計上する
個人事業主にとって、圧倒的に納税額の多いのが所得税です。この税金は、その名の通り「所得」に課税されます。ここでポイントになるのが、「収入」と「所得」とは違う、ということです。
収入は、「売上」のことです。所得とは、そこから「経費」を差し引いた金額(「利益」)を指します。ですから、同じ売上であっても、経費の額が大きいほど所得は減額され、納める所得税も少なくなるのです。いい方を変えると、所得税を節税するためには、経費に該当する支出を確実に計上することが、非常に重要になります。
経費とは、事業を行うために必要とした費用のことです。そう聞くと単純に思えるかもしれませんが、経費にできるのか判断に迷うことも、けっこうあります。
経費計上できる支出には、主として以下のようなものがあります。
- 事務所の家賃
- 水道光熱費
- 通信費
- 人件費
- 交際費
- 消耗品費
- 研究開発費
- 広告宣伝費
- 福利厚生費
- 租税公課
一方、事業主の社会保険料、事業と無関係の書籍代、出張先で自分だけで食べた飲食代などは、経費にはできません。
では、例えば、自宅を事務所として使っている場合には、経費として落とせるのでしょうか? その場合には、「家事按分」といって「仕事に使用した割合」を経費計上することができるのです。家賃については、事務所として使用しているスペースや時間などから、その割合を求めます。
水道光熱費、固定電話代、携帯電話代、インターネット料金、固定資産税なども、プライベートと共用の場合でも、家事按分で経費にできます。
「租税公課」というのは、「税金」のことです。これには、経費にできるものとできないものがありますから、できるものについては、確実に計上する必要があります。
●経費計上が可能な税金
- 消費税
- 個人事業税
- 固定資産税
- 印紙税
- 不動産取得税
- 登録印紙税
- 自動車税
- 自動車取得税
- 自動車重量税
など
●経費計上できない税金
- 所得税
- 住民税
- 相続税
- 贈与税
- 税金の過少申告、無申告などの際に課せられる加算税
- 税金の支払いを遅延した場合に課せられる延滞税
など
詳しくは、「在宅ワーク・内職の経費はどこまで?確定申告は必要?現役在宅ワーカーが解説」をご覧ください。
【対策2】「所得控除」「税額控除」を忘れずに計上する
経費同様、忘れてはならないのが各種の「控除」の計上です。
控除には、「収入-経費」で計算した所得金額から、さらに一定額を差し引いて課税所得金額(これに税率を掛けて税額を計算)を抑えることができる「所得控除」と、計算した税額から直接差し引ける「税額控除」があります。
【対策1】とまとめると、
収入(売上)-経費=所得
→所得-所得控除=課税所得
→課税所得×税率=税額
→税額-税額控除=最終的な納税額
ということになり、太字をしっかり計上することが、所得税の節税に直結するというわけです。
「所得控除」には、次のようなものがあります。
- 雑損控除:災害や盗難、横領によって損害を受けた時に適用される
- 医療費控除:一定額以上の医療費を支払った場合に適用される。生計を同じくする配偶者やその他の親族も含まれる
- 社会保険料控除:健康保険料や国民年金保険料などの社会保険料を支払った場合に適用される。生計を同じくする配偶者やその他の親族も含まれる
- 小規模企業共済等掛金控除:小規模企業共済の掛金を支払った場合に適用される
- 生命保険料控除:生命保険や介護医療保険、個人年金保険で支払った保険料がある場合に適用される
- 地震保険料控除:地震保険料を支払った場合に適用される
- 寄附金控除:「ふるさと納税」した場合や、認定NPO法人などに対して寄附をした場合に適用される
- 障害者控除:納税者や控除対象配偶者、扶養親族が障害者である場合に適用される
- 寡婦控除:納税者自身が寡婦であるとき(「ひとり親」に該当しない場合)に適用される
- ひとり親控除:納税者がひとり親であるときに適用される
- 勤労学生控除:学校に行きながら働いている場合に適用される。ただし、合計所得金額が75万円以下
- 配偶者控除:配偶者の合計所得が48万円以下の場合に適用される(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
- 配偶者特別控除:納税者の合計所得が1,000万円以下で、配偶者の合計所得が48万円超133万円以下である場合に適用される
- 扶養控除:16歳以上の子どもや両親などを扶養している場合に適用される
- 基礎控除:全ての人に適用
詳しくは、「No.1100 所得控除のあらまし|国税庁」をご確認ください。
一方、「税額控除」には次のようなものがあります。
- 配当控除:総合課税の配当所得がある場合に、原則として、配当所得の金額の10%または5%に相当する金額が控除される
- 外国税額控除:日本で課税される所得の中に外国で生じた所得があり、その所得に対してその外国の法令により所得税に相当する税金が課税されている場合には、一定額が控除される
- 政党等寄附金特別控除:政党または政治資金団体に対して政治活動に関する一定の寄附金を支払った場合には、寄附金控除(所得控除)の適用を受ける場合を除き、一定額が控除される
- 認定NPO法人等寄附金特別控除:認定NPO法人等に対して一定の寄附金を支払った場合には、寄附金控除(所得控除)の適用を受ける場合を除き、一定額が控除される
- 公益社団法人等寄附金特別控除:公益社団法人等に対して一定の寄附金を支払った場合には、寄附金控除(所得控除)の適用を受ける場合を除き、一定額が控除される
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除
1.住宅の新築、取得または増改築等をした場合:一定の要件を満たす住宅の新築、取得または増改築等(以下、「取得等」)をした場合には、その取得等に係る住宅ローン等の年末残高の合計額を基として計算した金額が一定期間控除される
2.特定の増改築等をした場合の特例:一定の要件を満たす増改築等を行った場合には、特定の増改築等に係る住宅ローン等の年末残高の合計額を基として計算した金額が5年間控除される。なお、2022年以後に住宅ローン等を利用し、特定の増改築等を行い居住の用に供した場合には、当該控除は受けられない - 住宅耐震改修特別控除:自己の居住の用に供する家屋(1981年5月31日以前に建築された家屋で一定のものに限る)について住宅耐震改修をした場合には、一定の金額が控除される
- 住宅特定改修特別税額控除:バリアフリー改修工事、省エネ改修工事など一定の要件を満たす改修工事またはそれらの改修工事を併せて行った場合には、一定の金額が控除される。この控除は、上記の「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除」との選択適用となる
- 認定住宅等新築等特別税額控除:認定長期優良住宅、認定低炭素住宅またはZEH水準省エネ住宅の取得等をした場合には、標準的なかかり増し費用を基として計算した金額が控除される。この控除は、上記の「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除」との選択適用となる。
詳しくは、「No.1200 税額控除|国税庁」をご確認ください。
住民税も所得に課税されます。説明してきたような経費や控除をきちんと計上して所得税を抑えることは、住民税の節税にも直結します。
【対策3】確定申告は「青色申告」にする
毎年行う確定申告には、「青色申告」と、そうではない「白色申告」があります。ざっくりいうと、「青色」は「白色」に比べて要件が厳しく、申告に向けた作業量なども多くなるのですが、その代わり節税につながるいくつかのメリットがあるのです。
■メリット1 最高65万円の所得控除が受けられる
青色申告の最大のメリットは、最高65万円の「青色申告特別控除」(所得控除)が受けられることにあります。白色申告は、簡易な簿記の方式での記帳でよく、確定申告の際に提出を求められるのも収支内訳書だけですが、この特別控除はありません。
青色申告特別控除には10万円、55万円、65万円の3パターンがあり、それぞれで満たすべき条件が異なります。
最高65万円の控除を受けるための条件は、以下の通りです。
- 不動産所得か事業所得かのいずれかがある
- 取引の記帳を複式簿記で行っている
- 確定申告を行う際に賃借対照表と損益計算書を添付する
- 控除の適用を受ける金額を確定申告書に記載して、法定申告期限内に提出する
- 確定申告を電子申告で行っている、または電子帳簿保存を行っている
上の条件のうち、最後の「電子申告または電子帳簿保存」以外の条件を満たしている場合は、55万円の控除となり、これらを1つでも欠く場合には、10万円の控除となります。
■メリット2 「青色事業専従者給与の特例」を受けられる
この特例は、「事業主と生計を一にする配偶者や15歳以上の親族に対して支払った給与が、経費として計上できる」という制度です。家族で事業を運営する場合には、大きな節税になります。
詳しくは、「青色事業専従者給与を適用するとどうなる?適用の要件やメリットと届出方法を解説」をご覧ください。
■メリット3 損失の「繰越し」と「繰戻し」ができる
事業を行っていれば、赤字(損失)が出ることもあります。青色申告をしていると、損失が出た場合に、最長3年間、その金額を繰り越すことができます。赤字を繰り越して翌年以降の利益と相殺することができれば、黒字が出た年の所得額を減らして節税することができるわけです。また、損失額を赤字が生じた年の前年に繰り戻し、前年分の所得税の還付を受けることもできます。
■メリット4 30万円未満の購入費用を一括で経費にできる
事業のために購入した物品の代金は経費として計上できますが、購入代金が10万円以上になると、原則として減価償却(購入した物品の金額を耐用年数で割り、複数年にわたって一定額ずつ経費計上していくこと)をする必要があり、一括で経費計上することはできません。しかし、青色申告をしている場合、30万円未満の物であれば、合計300万円まで、その年の経費として一括計上できる「少額減価償却資産の特例」という制度を利用できます。
この制度を使って一括で経費計上するのか、あるいは通常の固定資産として計上し、法定の耐用年数で減価償却していくのかは、個人事業主が自分の判断で決められます。例えば、物品を購入したのが利益の大きい年であれば、一括計上してそれを減額する、もともと利益が少なければ、減価償却にして次年度以降も経費にする――といった選択が可能なのです。
【対策4】共済や保険の加入(小規模企業共済制度・中小企業倒産防止共済制度)を検討する
所得控除のところでも触れましたが、共済や保険の中には、加入して支払う掛金が控除の対象になるものもあります。これらに加入することで、将来への準備と現在の節税を同時に行うことが可能です。
●小規模企業共済制度
小規模企業共済制度は、経営者にとっての退職金制度といえる仕組みで、個人事業主でも利用できます。払い込んだ掛金は、その全額を小規模企業共済等掛金控除として所得から控除できます。
●中小企業倒産防止共済
「経営セーフティ共済」とも呼ばれるもので、例えば取引先企業が倒産してしまった場合、その直後から融資を受けることができます。個人事業主は、確定申告の際にこの掛金を必要経費に全額算入できます。
【対策5】「iDeCo」を利用する
iDeCoは個人が加入できる確定拠出年金で、掛け金を拠出し、自ら金融商品を選んで運用していきます。運用成果に応じて、掛け金と運用益の両方を受け取ることができます(基本的には60歳になるまで、受給はできません)。
支払った掛金は全額所得控除される、運用益に対して課税されない、といった税制上のメリットがあります。
【対策6】「ふるさと納税」を行う
「ふるさと納税」は、年間2,000円負担すれば、自治体に寄付した金額が所得税、住民税から控除されます。それだけでは節税にはなりませんが、返礼品を受け取ることで、実質的にそれと同じ効果があります。
自治体からの返礼品には、「名産品」ばかりでなく、日用品、生活必需品などもあります。上手に活用することを考えてみましょう。
【対策7】法人化も考える
所得が増えてきた場合には、個人事業の法人化(法人成り)も視野に入ってきます。
個人事業主のメインの税金である所得税は、最初に説明したように、所得が大きくなるほど税率も上がっていく「累進課税」という仕組みになっています。一方、法人が納める法人税は、原則として23.2%(年間所得800万円以下の部分は15%)で一定です。このため、ある程度事業が拡大すれば、法人化したほうが節税になるわけです。
ただし、法人になると決算や申告に向けた作業は複雑になり、コストもかかります。また、社長は法人から給与をもらう形になり、それには所得税が課税されます。そうしたこともあり、税金面での個人か法人かの「損益分岐点」の判断は、簡単ではありません。法人化の検討に当たっては、会社の設立に詳しい税理士などの専門家のアドバイスを受けるべきでしょう。
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まとめ
個人事業主が考えるべき節税対策をまとめました。節税は、「知っているかいないか」で、結果に大きな差の出ることがあります。「やり過ぎる」と、税務署に目をつけられる可能性もあります。不明な点がある場合には、税のプロである税理士に相談してみることをお勧めします。