離婚という形で夫婦生活を終わらせるカップルは令和4年度に18万組強となっています。現代では離婚自体は決して珍しいものではありませんが、特に育ち盛りの子どもを持つ親の場合は離婚後の生活設計に不安を覚えることが多いのではないでしょうか。
この記事ではひとり親に対する公的な補助金について解説します。
ひとり親を支援する補助金はいろいろある!
二人で協力、または手分けして家族を養うために働き、子どもを育て上げるのが夫婦の役割だとすれば、離婚して子の親権者になった親はその役割を一手に担うことになります。その手助けのため、さまざまな公的な支援が行われています。
なお、公的な書類では「母子家庭の母」「父子家庭の父」と記載されていますが、この記事ではまとめて「ひとり親」と表しています。
子どもを育てるための手当について
離婚で親権を失った親も法律上の親子関係は続くため、養育費の負担など子どもを育て上げる義務は免れないとはいえ、養育費の額が足りなかったり、そもそも貰えていなかったりというケースは少なくありません。どうしてもひとり親の経済的負担は大きくなります。
子どものいる家庭が受け取れる手当には以下のものがあります。
・児童扶養手当
ひとり親家庭の親に対し、子どもが育成される家庭の生活の安定と自立の促進を目的として子どもが高校を卒業するまで(18歳になって最初の3月末まで)自治体が支給する手当です。支給額は子どもの数や親の所得額で変わってきます。(詳細は後述)
例えば子どもが1人で親の年間収入が150万円であれば、月々4万3千円ほどが、支給されます。
こちらの手当てを受けるには居住地の市町村への申請が必要です。
なお、子どもが精神もしくは身体に障害がある場合は20歳になるまで受給でき、月額も多少上乗せされます(特別児童扶養手当)。
・児童手当
児童手当の目的は幼児期の学校教育や保育、地域の子育て支援の量の拡充や質の向上を進めることです。なので中学校卒業までの子どもがいれば、ひとり親でなくとも受給できます。所得制限はあるものの、児童扶養手当に比べると制限額が高いので、ひとり親になる前から支給されていた家庭ならもちろん継続して、そうでなくともひとり親になったことで受け取れるようになる場合が多いでしょう。
なお児童手当を受給するには、扶養手当とは別に市町村へ認定請求を行う必要があります。
支給額は例えば3歳未満の子どもであれば月々15000円。もちろん児童扶養手当と併用できます。
・就学援助
義務教育の就学が難しいほど経済的に困窮している家庭に対しては、市町村に必要な援助をする義務が課されています。具体的には学用品費やクラブ活動費、給食費などの補助を行います。
その他、東京都では都の制度としてひとり親のために「児童育成手当」の支給があり、児童扶養手当と並行して受け取れます。
また、大阪府では高校までの学費無償制度を2026年度まで設ける予定にしている(全家庭対象)など、各自治体独自の支援もありますので、問い合わせてみましょう。
貸付支援もチェックしておこう
返済の必要はありますが、まとまったお金が必要な時や、子どもに更なる就学費用がかかる場合には、公的な貸付制度も視野に入れておきましょう。
・母子父子寡婦福祉資金貸付金
ひとり親にとっては代表的な地方自治体の貸付制度です。
例えば「事業開始資金」は、ひとり親が事業を開始するために必要な資金を、保証人がいれば無利子、いなくても年1%の低金利で貸し付けてくれます。
また、20歳未満の子どもの高校や大学で学ぶための「修学資金」、就職するための被服代などにあてるための「就職支援資金」、住宅の購入や補修に必要な「住宅資金」など様々な分野で貸し付け支援を行っています。
・女性福祉資金貸付制度
東京都が行っている子どもなどを扶養している女性を対象とする貸付制度です。母子家庭、父子家庭ではどうしても収入に格差があるのが現状(平均で父子家庭の勤労収入は母子家庭のそれより2倍近い)であることから、女性の経済的自立を支援する目的で設けられています。条件を満たせば事業資金などの貸付が受けられます。
補助金の支給には一定の条件がある
ご紹介したさまざまな公的支援は、受給や貸付に一定の条件を設けていることが多く、各支援により条件はまちまちです。以下にまとめてみました。
親の収入で支給額が変わる場合も
まず親の所得(収入額)による制限を設けているのが児童扶養手当と児童手当です。
児童扶養手当については以下のグラフをご覧ください。
要は、親の収入が高ければその分受給額が少なくなるのですが、比較的細かく線引きされているということです。
因みに令和4年度における収入制限限度額は親子2人世帯で365万円となっており、限度額を超えた世帯は支給なしとなります。
他の条件として、当然ながらひとり親であることがありますが、離婚でなくとも死別であったりどちらかの親が生死不明や家庭を遺棄している場合なども含まれます。
児童手当の所得制限は以下の表のとおりです。
児童扶養手当と較べ、かなり制限が緩くなっています。また、政府内では所得制限の撤廃や、支給期間の延長という動きも出ています(令和5年3月31日好評の少子化対策たたき台による)
貸付支援においては所得制限はなく、ひとり親であれば対象になります。
所得額の計算には「控除」を忘れずに
児童扶養手当、次号手当のいずれも所得制限がありますが、ここにいう「所得」は給与所得者であればであれば給与所得控除後の金額、自営業者であれば「売上額-経費」で出る所得額からそれぞれ各種所得控除の額などを差し引いた額を指します。
「ひとり親控除」35万円、家族に障害者がいれば「障害者控除」27万円、その他医療費控除などを全て差し引けるのは意外と大きなものです。
給与所得者は毎年勤務先からもらう源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」だけでなくそこから各種所得控除額を差し引いてから、自身の所得が各手当の対象となるかどうか確認するようにしましょう。自営業であれば確定申告書の「所得金額等」の合計額から控除額を差し引きます。
離婚時の慰謝料や毎月の養育費は所得になるの?
では、この「所得」に、離婚時に手にした慰謝料や、元配偶者から支払われる毎月の養育費などは含まれるのでしょうか。養育費を含まない所得額が制限ぎりぎりの方には重要な問題です。
まず慰謝料は所得に含まれません。というのも慰謝料とは自身が相手から受けた行為により被った精神的苦痛を「損害」として金銭に換算したものであり、損害賠償の一種だからです(民法第709、710条)。失った財産を補填するために手にしたお金は利益とはいえないため、所得とする必要がないのです。
一方養育費は所得となります。
離婚して親権を失った親であってもわが子の扶養義務を免れる訳ではなく、親権を持ち子どもを実際に育てる親が養育費を請求するのは当然の権利です。しかし先述の通り児童扶養手当は子どもの育成、家庭の安定を目的としているため、同じ目的で養育費が得られているのであれば所得とみなされるのはやむを得ないところでしょう。
ただし、養育費のうち所得とされるのは支払われた額の80%となっています。
その他、一律控除額(給与所得者であれば10万円)があるため、支援を受ける際の所得の計算式は以下の形になります。
引用元:児童手当の所得制限・所得上限について❘ 福井県福井市
ちなみに、もし元配偶者が「児童扶養手当が貰えるんだからその分養育費を減額しろ」などと言ってきても応じる必要はありません。公的支援は親の扶養義務の手助けをするためのものであり、養育費も扶養義務の一環だからです。
まとめ
離婚後にひとり親が得られる経済的な公的支援は手当、貸付など様々なものがあります。ただ、子どもの育成をサポートするための支援は、子が成年となれば原則支給されなくなります。
そのため子どもを大学や専門学校などに行かせる費用については、別途学資保険や養育費で取決めておくなど、予め将来を見越した上で生活設計をしっかり考えておくことが大切です。