2023年8月21日、総務省は、NTT法の改正について8月下旬に情報通信審議会に意見を求める方針であるとし、議論を始めることを明らかにしました。
そして翌日、自民党は党本部において「NTT法のあり方検討プロジェクトチーム」の幹部会を開き、年内に法改正の方向性を定める方針でいくと確認しました。
政府が保有するNTT株の比率引き下げリスクと法改正するとどうなる?
NTT法改正が検討された背景には、「防衛費」の増額が挙げられます。政府は2023年度からの防衛費を5年間で43兆円にすることを閣議決定しており、その財源を確保するためにNTTの株式をすべて売却する案が浮上しているのです。
NTT法は、1985年に制定され、政府がNTTの発行株式の3分の1以上を保有することや、国民の生活を支える緊急通報などのユニバーサルサービスとして固定電話サービスの全国普及や通信研究の責務などを定めています。
2023年6月時点で「政府および地方公共団体」が保有しているNTTの所有株式数は、以下のとおりです。
株主数(人) | 4 |
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所有株式数(単元) | 11,680,173 |
割合(%) | ※32.29 |
政府が33.33%の比率でNTT株式を保有している理由は、NTT法の「NTTが発行している株式の3分の1以上を政府が保有すること」が関係しています。
そして、この規定を改正してNTT株を売却することで、防衛費の財源を確保し、国民の負担を減らそうとしているのです。
一方で、NTT側からも、NTT法で義務づけられている固定電話サービスが赤字であることから、国際的な競争力を妨げているとして、政府に法の見直しを要求しています。これに対して、総務省は、情報通信分野のモバイル化やクラウド化による市場環境の大きな変化を考慮し、柔軟に対応する方針を示しています。
しかし、NTT法の改正にはさまざまな問題があることも事実です。
例えば、政府が保有するNTT株の比率を引き下げれば海外資本に買い占められ、国の重要インフラである通信を握られる可能性や、政府が大量のNTT株を売却する際に、株価に大きな影響を与えることなどが考えられます。
他にも、NTTやNTT東西が完全民営化して光回線のグループ内優遇が進むことで、競合他社は公正な競争ができない状況に追い込まれてしまう場合もあります。
このような中で、NTTの競合他社であるKDDI代表取締役社長の高橋誠氏や、ソフトバンク代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、現時点で政府の議論を見守りつつ、NTT法の改正に対して強い警戒心を示しました。
今回のNTT法改正の議論は、これらの問題を考慮した上で、慎重に議論を進めていく必要があります。