続落していた円ドルの為替市場がここにきてようやく下げ止まりの兆しをみせています。私たちの生活にも深刻な影響を与え、今も尚また円安に推移するのではないかという危惧は消えません。今回は、長期にわたる円安現象はなぜ始まったのか、円安が起こるメカニズムや今後の為替市場の動向予想などについて解説していきます。
継続していた円安にようやく下げ止めの兆し
2022年から続く円安傾向にブレーキ
今回の円安が始まったのは2022年からです。新型コロナウイルス感染症の蔓延で世界経済がまだ停滞している最中、アメリカFRB(連邦準備制度理事会)が大幅な金利引き上げを発表したことに端を発します。
FRB(連邦準備制度理事会)とはアメリカの中央銀行であり、日本でいうところの日本銀行と同じポジションにあります。国内の雇用状況や物価上昇などをみながら、金利を決定し資金の流通量をコントロールしています。
FRB金利は国内だけではなく、全世界の市場資金にも大きな影響を与えることから、FRBの動向が世界の金融市場を動かすといっても過言ではありません。コロナの影響を打開すべく日本が打ち出した超低金利政策とは真逆のFRBによる高金利政策により、市場資金は日本円を離れアメリカドルへとシフトしていきます。そこにロシアのウクライナ侵攻が拍車をかけ、円はその価値を失い急激な円安ドル高という現象が起こったのです。
円安から円高傾向にシフトか?
しかし、ここにきて異常なほどの円安推移にようやくブレーキがかかる兆候が見え始めています。FRB金利が一時的とはいえ横ばいになったことに加え、日本の超低金利政策が見直しされ金融引き締めが起こるのではないかという予測が出始めたことが要因です。
市場資金はより金利の高いところに移動する傾向があります。日本とアメリカの間に生じた金利格差の広がりが少し落ち着いたことで、円売りドル買いにもある程度歯止めがかかると予想されます。
円安はなぜ起こるのか?為替レートの変動が起こる仕組みについて解説
「円安」とは円の価値が下がること
そもそも「円安」とはどのような状態を指すのか、円安のデメリットを解説する前にまずは円ドルの為替レートの仕組みについて解説しましょう。円ドル為替レートというのは、円とドルの交換比率であるといえば理解しやすいでしょう。
例えば1ドル=100円であれば「1ドルは100円を出せば手に入れることができる」状態を指します。ドルを入手するためには1ドル=200円であれば200円、1ドル=150円であれば150円が必要ということです。
ここで円の価値という観点で、1ドル=100円と1ドル=200円の状態を比較してみましょう。1ドル=100円であれば100円を出せば1ドルが手に入るのに対し、1ドル=200円になると200円出さなければ1ドルが手に入りません。これは、ドルに対して円の価値が下がったことが原因です。
ドルに対する円の価値が低くなった結果、より多くの円を払わなければならないということを意味しているのです。したがって1ドル=100円から1ドル=200円に為替相場が推移する状態を「円の価値が安くなる=円安」と呼ぶのです。
「円安」が日本経済に与えた影響とは?
「円安」というと、円が安くなり手に入りやすくて良いのではないか?というイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし石油をはじめとした資源輸入大国の我が国にとって、為替相場の円安推移は非常に深刻なダメージを与えることになるのです。その理由を国内の企業側と私たち消費者側の立場でそれぞれ解説していきましょう。
1.企業側に与える影響
石油資源を海外から輸入して国内で製品に加工する企業を例に解説してみましょう。企業が海外から石油資源を輸入する際、資源の代金はドル建てとなっています。ドル建ての代金を日本円で決済するためには、為替レートによって日本円をドルに換算しなければなりません。
理解しやすいように石油1バレル=1ドルとしましょう。1バレルの石油の購入代金1ドルを決済するとき、1ドル=100円であれば日本円100円を購入先に支払えばよいことになります。しかし、これが1ドル=200円となった場合はどうでしょう。1バレルの石油の購入代金1ドルを決済するためには、日本円を200円も支払わなければなりません。同じ1バレルの石油を購入するのに倍の日本円を支払わなければならないので、企業の輸入コストが上昇することになります。
2.消費者側に与える影響
消費者は企業が製造した製品や商品を購入しています。しかし、円安が企業側に与える影響によって企業は製品の製造コストが上昇しています。多少の円安であれば企業努力である程度はコスト高を吸収することも可能かもしれません。
しかし、同一の資源を輸入しているのに単純に輸入コストだけが上がり、なおかつ今回のような極端な円安推移が起これば企業側の努力にも限界があります。結果として、輸入コストの増加分は製品や商品の販売価格に付加せざるを得ません。
最近、電気料金や日用品などが軒並み一斉に値上げされたのはご存じでしょう。これは、資源の輸入コストが上昇したことにより、日本経済全体がコスト増に耐え切れず値上げに踏み切ったことが原因です。私たちの生活は数多くの物で支えられていますが、これらの多くが値上げされたことにより「塵も積もれば山となる」というように、小さな値上げが積み重なり、生活を圧迫することになったのです。
今回の「円安」にブレーキがかかった理由とは?
日銀による為替介入「植田トレード」の実施
「政府の銀行」「銀行の銀行」という位置づけの日本銀行は、円安推移が及ぼす国内経済の悪化に対してどのような方策をとったのでしょうか。2022年、円安が進む為替市場に日銀が「円買いドル売り」の為替介入を行いました。
「円安」とは円の価値が下がる状態を指しますが、具体的には金融市場で円が売られるという現象が起きています。円安を止めるために日銀は、売られた円を買い取るという介入を行ったのです。効果のほどは定かではありませんでしたが、急激な円安推移が小康状態になったような印象を受けます。
そして2023年4月、日銀総裁に就任した植田和男総裁が就任後打ち出したのが「植田トレード」と呼ばれる大規模金融緩和政策の継続です。大規模な金融緩和により日本が景気回復し株価が上昇するという予測から、円安を容認するかわりに外国の投資家を中心に日本株へ資金をシフトさせるための金融政策です。
結果として日経株価は上昇を続け、1989年のバブル最盛期以来の3万円超えを記録することになりました。しかし、7月に入って金融緩和政策の引き締めが行われるのではないかとの予測が広がり、一転して円買い日本株売りの動きが始まります。その結果株価の上昇は止まり、代わりに円安から円高に推移しているのが現在の状況です。
アメリカFRB金利の見直しも要因の1つ
円安傾向に歯止めがかかったのは、アメリカFRB金利の利上げが落ち着いたことも1つの要因としてあげられます。アメリカの消費者物価指数(CPI)の上昇率が2022年の9%から3%台まで落ち着いたことで、インフレ対策として行っていた継続的な金利引き上げが緩和されつつあります。
金利引き上げに伴い、市場資金がドルに移動するという流れに歯止めがかかった形です。FRBが再度金利の引き上げを行うという懸念はありますが、アメリカのCPI上昇が再燃しない限りこのまま推移するものと予想されます。
まとめ
日本経済は「円安」でも「円高」でもそれぞれメリットとデメリットがありますが、今回の「円安」はメリットよりデメリットのほうが大きいように思われます。為替レートが適正レンジに戻り、私たちの生活負担が減ることを願ってやみません。