芸能人は労働者?個人事業主?事務所所属とエージェント契約の違いは? | MONEYIZM
 

芸能人は労働者?個人事業主?事務所所属とエージェント契約の違いは?

俳優や歌手、芸人などで生業を立てている人達はもちろん、ちょっと「バズ」ればYouTuberやインスタグラマーも「芸能人」となる昨今、芸能人がどのような形態の労働者なのかを理解しておくことは、意外と身近な問題として必要なことなのかもしれません。
大切なのは「どんな契約か」を押さえておくことです。

芸能人の働き方は千差万別

芸能人が「事務所を退所」「事務所を設立」といったニュースを目にすることも多いでしょう。芸能人と事務所はどういう関係なのか分かりづらいかもしれませんが、それもそのはず、関係性は多岐に渡るのです。
芸能人の働き方を大きく分けると以下の3形態になります。

個人事業主として一人で全部こなす!

個人事業主は、例えば個人で小さなショップを経営したり、自宅などで士業の事務所を開いたりして働く人のことです。自身で集めたお客に品物やサービスを提供して利益を得、会計や顧客の管理も全て自分で行います。
芸能人も、個人事業主として活動を行うのであれば同様に全てを一人でこなさなくてはなりません。自身のタレント(才能)を商品として営業をかける、オーディションの手配、仕事のマネジメントやお金の管理までを仕事と並行して自分で行うのです。大変ではありますが、その分仕事で得たギャラは全て自分のものになりますし、自身の力で得た仕事ですからやりがいも増すでしょう。

事務所に所属して芸能活動に邁進する

ある程度名のある事務所(芸能プロダクション)に専属するタレントとして、事務所から指示されたスケジュールに沿って芸能活動だけを行います。営業やマネジメントなどは事務所が行うため、仕事だけに集中できます。
芸能人としての収入は給与という形で事務所から支払われますが、必ずしも仕事量に見合った額とは限りません。固定給と歩合給の割合も事務所との契約次第です。また、個人での仕事を受けられないことが多いです。
とはいえ、スカウトやオーディションで事務所入りした「金の卵」を育て上げる費用がそれなりにかかるため、事務所が暴利を貪っているとは限りませんし、未成年の芸能人であればやはり事務所に所属しておく方が保護者は安心かもしれません。

芸能事務所に登録して活動する

前述の①と②の中間と言える活動方法で、いわゆるエージェント契約のことです。
芸能事務所に登録をしておき、仕事の営業やギャラの交渉を事務所に任せる代わりに、芸能人側は事務所によって得た仕事の収入から、事務所に対し一定割合の報酬を支払うという形態です。
事務所所属ではないので個人で仕事を取ることもできますし、事務所への支払いを除きギャラは自分の収入になります。比較的自由は利きますが、お金の管理は自身で行わなければなりません。

3つの働き方はそれぞれどんな契約?注意点は?

芸能人の代表的な3つの働き方を紹介しましたが、それぞれの働き方により、契約の内容や契約を交わす相手が変わってきます。この章では契約、すなわち芸能人の働き方の法的な立場を詳しく見ていきます。

個人事業主での仕事は業務委託契約

個人事業主として働く芸能人が仕事の依頼を受けた際、依頼先と結ぶ契約は業務委託契約であることが多いです。
「業務委託契約」とは、委託者(芸能人であれば放送局や映画会社、広告代理店など)が、自身では行えない業務を外部の受託者である芸能人に行ってもらうための契約です。民法に規定のあるいわゆる「典型契約」ではありませんが、原則請負契約(民法632条)か委任契約(同643条)のどちらか、或いは双方の要素を含む契約内容となっています。
ちなみに委任契約は法律行為を「委任」する契約なので、芸能活動のような法律行為でない業務は、正しくは「準委任契約(同656条)」となります。

事務所専属の芸能人は所属先との雇用契約

固定制であれ歩合制であれ、事務所から給与が支払われる形で収入を得ていれば、芸能人は所属事務所と雇用関係にあります。会社と従業員の関係と同じです。
雇用契約(同623条)は労働者側に裁量がなく、仕事の結果ではなく「指示された仕事をすること」に対し対価が支払われる内容の契約です。
業務委託契約であれば原則として委託側と受託側の立場は対等ですが、雇用の場合どうしても労働者(所属タレント)は使用者(事務所)に対し従属的な立場になるため、不平等是正のため労働基準法により一定の保護が受けられるようになっています。
もっとも事務所によっては法定労働時間をはるかに超えて働いても残業代が出ない、完全歩合制で最低賃金の保証がないなど、与えられるべき保護が機能していない場合も見受けられるようです。

エージェント契約での活動は契約の内容次第

エージェント契約は芸能人と事務所とが業務委託契約を結ぶという形が一般的ですが、契約内容はさまざまです。
例えば事務所に営業とギャラ交渉のみ委託する内容であれば、芸能人と仕事先とで別途業務委託契約の締結が必要になります。一方、仕事先との契約も任せ、事務所の取り分を差し引いたギャラを受け取るという、ほぼ全面的に委託する形も可能です。とはいえ、来た仕事を受けるかどうかや、仕事の進め方について事務所の指示を受けることはないのが原則です。
しかし、現実にはエージェント契約とは名ばかりで、実質芸能人に対し雇用契約のような制限を課しつつ労働者としての保護をきちんと行っていない事務所もあるようです。

芸能人の確定申告はどうなる?法人化はすべき?

どれほど有名な芸能人であっても、働き方を契約で決めることは私たちと変わりません。
確定申告が必要な場合もあれば、節税のため個人事務所を法人化することもあります。

個人事業主なら当然確定申告が必要

芸能人は、自分自身を商品として多方面に売り出し利益を得ます。
そして個人事業主として「○○事務所」「○○エージェンシー」などの商号で税務署に開業届を出し、前年12月末までの売上を翌年3月中旬までに確定申告をすることになります。
因みに、芸能活動が副業で本業は会社員という場合でも、活動での売上が年間20万円を超えれば確定申告が必要になります。
一般的な芸能活動にあたる仕事の報酬は源泉徴収分を引かれての支払いになるため申告時に調整が必要ですし、経費や減価償却、インボイス制度なども関わり複雑になってきますので顧問税理士をつける方が安心です。

個人事務所を法人化するメリット・デメリット

個人事務所であっても仕事が忙しくなり、マネージャーや会計担当者を雇うようになると、事務所の法人化が視野に入ってきます。事務所に所属していたがもっと自由に仕事がしたいと独立する場合もあるでしょう。芸能人が一人で、或いは親族を役員として個人事務所を設立する形は「支配芸能法人」とも呼ばれますが、法人としてやや特殊な立場であるとの意見もあります。

個人事務所を法人化するメリットはなんといっても節税になることです。
個人事業主と比べると、まず事務所の家賃を「法人名義で借り、役員に賃貸する」手順を踏むことで大部分を経費にできます。
 

引用:役員に社宅などを貸したとき【国税庁】
 

また、個人の場合最大45%かかる所得税率が、法人化すると最大でも23.2%に抑えることができます。
 

更に法人代表になることで、より仕事に対する責任感が増すであろうこともメリットといえそうです。
 

一方法人化のデメリットは、とにかく運営にかかる事務作業が個人事業主と較べはるかに複雑になることです。社会保険の加入義務、法人税申告、登記関係など、それぞれ専門家に依頼するにしても、ある程度の事務は自分でする必要があるので大変です。

まとめ

芸能人の働き方は大きく個人、事務所専属、事務所とエージェント契約の3種類に分かれますが、実際にはそれぞれの線引きが曖昧になっているケースもあります。仕事に対し正当な報酬を得るため、また社会人として責任ある行動をするため、仕事の仕組みをしっかり勉強することが大切です。

橋本玲子
行政書士事務所経営。宅地建物取引士、知的財産管理技能士2級取得。遺言執行や成年後見などを行う一般社団法人の理事も務めている。
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