厳しい先行き年金制度は転換期へ 年金支払い期間 5年延長か | MONEYIZM
 

厳しい先行き年金制度は転換期へ 年金支払い期間 5年延長か

2024年度の公的年金の支給額は2年連続で引き上げ改定される見通しですが、「マクロ経済スライド」が発動され、実質の支給額は0.4ポイント目減りする見込みです。
給付抑制は年金財政の安定には欠かせないものの、その健全化にはまだ程遠い状況です。

年金財政の軌道修正と将来の課題に向けた模索が続く

​​年金の支給額は通常、物価や賃金の伸びに連動して増額されます。
しかし、高齢の受給者が増加し、現役世代が減少するなかで年金財政の悪化を防ぐために、2004年度から年金支給額の増額幅を物価や賃金の伸びよりも小さくする「マクロ経済スライド」が導入されました。

2024年の年金支給額はまだ確定していませんが、ニッセイ基礎研究所が、物価変動率と名目手取り賃金変動率から改定率を計算し、マクロ経済スライドの調整率を適用して支給額を算出しました。これによると、厚生年金のモデルケース(67歳以下の夫婦2人、月22万4482円支給)では、2024年度の支給額は23万319円になると予想されています。

 

<厚生年金のモデルケースである、67歳以下の夫婦2人の年金の支給額>

  • ・2023年度:22万円4482円
  • ・2024年度、マクロ経済スライドが適用されない場合:23万円1216円
  • ・2024年度、マクロ経済スライドが適用される場合:23万円319円

マクロ経済スライドの適用により、年1万770円程度(月900円程度)の給付が抑えられる計算です。試算では今後も物価上昇や賃金増が続く見込みであり、2027年度まで給付抑制が続くと予測されています。

「マクロ経済スライド」は年金財政の維持に不可欠ですが、デフレ下では発動できないルールがあるため、実際の適用は2015年度と2019〜2020年度、2023年度の4回に制限されています。
そのため、年金の給付を抑制しきれず、20年以上にわたり年金は「払いすぎ」の状態が続いています。
払いすぎた年金は将来世代の給付を抑えるために調整される必要があり、2004年の見通しでは給付の調整は2023年度に終了する予定でしたが、現在は基礎年金で2046年度まで抑制が続く見通しです。
これにより、年金の目減りが長引き、給付水準も低下すると予測されています。

厚生労働省は現在、2025年に予定する次期制度改正に向けて、厚生年金から基礎年金(国民年金)への拠出を増やし、年金の目減りを2033年度には終わらせる案を検討しています。
また、基礎年金の給付水準を向上させるために、国民年金の支払期間を現在の20歳~59歳までの40年間から、20歳~64歳までの45年へと、5年引き上げ、受給開始を64歳まで延長する案も検討しています。
この案が実施された場合、月額1万6520円(2023年度時点)の国民年金の支払いが5年間延長され、国民の支払い総額は100万円近く増加します。これにより、増税イメージが強まり、物価高のなかで追加の負担が懸念されています。

2023年度の年金保険料を基に試算したものを見ると、5年間の延長で年金受給額は約10万円増加する見込みです。
年金財政の立て直しと給付水準の低下抑制を同時に進めるためには、マクロ経済スライドを毎年発動できるようにルールを改める必要性が指摘されていますが、これにより、年金が実質だけでなく名目額でも減少するため、政府は慎重な様子です。

少子高齢化により年金の給付水準が低下するなか、英語圏の国々の事例では、年齢による差別が忌避され、公務員の定年が撤廃されているところがあります。
現在の日本では、定年になると正社員から非正社員に移行し、給料が減少する傾向がありますが、人手不足のなか、今後は定年制度が緩和され、シニアも積極的に活躍できる状況に向かう可能性もあるかもしれません。

鈴木林太郎
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数。
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